再び注目を集めるHTML
Web開発チーム フロントエンド・エンジニア 木達 一仁Webの発明者にしてW3CのDirectorを務めるTim Berners-Lee氏が、自身のBlogに投稿した記事「Reinventing HTML」が話題となっています。タイトルだけを訳せば「HTMLの再発明」となりますでしょうか。Webコンテンツを実装する際に広く利用されているマークアップ言語、それがHTML(HyperText Markup Language)であり、その仕様は主にW3Cにおいて開発/策定されてきました。それを今になって再発明するというのは、一体何を意味するのでしょうか?本コラムでは、「Reinventing HTML」に記された内容を一部引用しながら、過去から現在に至るまでのHTMLを巡る動きや、今後のW3Cの活動についてご紹介しようと思います。
HTMLの歴史
HTML has the potential interest of millions of people: anyone who has designed a web page may have useful views on new HTML features. It is the earliest spec of W3C, a battleground of the browser wars, and now the most widespread spec.
(潜在的には何百万という人々がHTMLに興味を抱いています。Webページをデザインしたことのある人なら誰しも、HTMLの提供する新たな機能にその利便性を見出してきたことでしょう。それはW3Cが策定した仕様のなかで最も初期のものであり、ブラウザ戦争の舞台でもあり、そして今や最も広く普及した仕様でもあります。)
W3Cが初めてHTML仕様を勧告したのは1997年1月のことで、3.2というバージョンでした。W3Cが設立されたのは1994年10月1日ですから、実際それはW3Cにとって非常に初期の勧告仕様でした。以後HTMLは4.0、4.01とバージョンアップを重ね、さらにメタ言語をSGMLからXMLに変更してXHTML 1.0、同Basic、同1.1といった一連の仕様を開発/勧告してきました。現在は、XHTML 2.0という後継仕様の策定が進められているところです。
仕様の策定に必要とされる協同
Some things are very clear. It is really important to have real developers on the ground involved with the development of HTML. It is also really important to have browser makers intimately involved and committed. And also all the other stakeholders, including users and user companies and makers of related products.
(いくつかの事柄は明らかです。実際に業務として開発に携わっているデベロッパーを、HTMLの開発に迎え入れることは極めて重要です。また、ブラウザメーカーを迎え入れ、参加していただくことも重要です。そしてまたそれ以外のすべての利害関係者、エンドユーザーや仕様を利用する会社、関連製品のメーカーについても同様です。)
(X)HTMLはシンプルで学習が容易であるがゆえに今日ある状況にまで広く普及していますが、今後より良いもの、使いやすい仕様として開発していくためには、それを利用する立場にある人々の意見が重要となります。W3Cの仕様策定プロセスにおいては、草案(Working Draft)、最終草案(Last Call Working Draft)、勧告候補(Candidate Recommendation)の3つのプロセスにおいて誰でもコメントを寄せることができることができますが、上記の言葉はそういった部分も含めた協同を一層強化することの必要性を主張していると思われます。
HTMLとXHTML双方の必要性
Some things are clearer with hindsight of several years. It is necessary to evolve HTML incrementally. The attempt to get the world to switch to XML, including quotes around attribute values and slashes in empty tags and namespaces all at once didn't work. The large HTML-generating public did not move, largely because the browsers didn't complain. Some large communities did shift and are enjoying the fruits of well-formed systems, but not all. It is important to maintain HTML incrementally, as well as continuing a transition to well-formed world, and developing more power in that world.
(いくつかの事柄は、この数年を振り返れば一層明らかです。HTMLを段階的に発展させることは必要なのです。属性値を引用符で囲んだり、空タグにスラッシュを加えたり、名前空間を宣言するといった、世界をXMLへとスイッチさせる試みはうまく機能しませんでした。HTMLを記述する人々は、主にブラウザが不平不満を言わないがゆえに、移行しなかったのです。いくつかの規模の大きなコミュニティは移行し、整形式のもたらすメリットを享受していますが、しかしそれがすべてとはなっていません。整形式の世界への移行を続け、そこから得られるパワーを発展させるのと同じくらい、HTMLを段階的に発展させることは重要なのです。)
これは記事のなかで最も注目に値する部分であろうと思います。W3CとしてはSGMLベースのHTMLとしては4.01を最終のバージョンとし、以後の開発はすべてXMLベースであるXHTMLにおいて継続してきました。しかし、HTMLからXHTMLへの移行は彼の期待したほどには進んでいないということなのでしょう。事実、最近生成された文書であっても文書型に(XHTMLではなく)HTMLが採用されたものは多く目にします。
XMLベースであること、整形式(well-formed)であることの特性を活かした機械的処理によって、情報がより効率/効果的に相互運用されることなどが期待されますが、それについても(Web全体としては)当初期待されたほどの成果が上がっていないということなのかもしれません。そのような現状を踏まえて、HTMLを段階的に進化させ続けることの必要性が認識された、と自分は解釈しました。
グループの新設
The plan is to charter a completely new HTML group. Unlike the previous one, this one will be chartered to do incremental improvements to HTML, as also in parallel xHTML. It will have a different chair and staff contact. It will work on HTML and xHTML together. We have strong support for this group, from many people we have talked to, including browser makers.
(計画では、まったく新しいHTMLのグループを設立します。かつてのものと異なり、この新グループではXHTMLと並行してHTMLの段階的な改善を行うことになるでしょう。他とは別の議長やスタッフが就任するでしょう。そのグループはHTMLとXHTMLの両方に携わることになります。私たちはこのグループに関し、ブラウザメーカーを含め、私たちがこれまで話してきた多くの人々から強力な支持を得ています。)
HTMLを「段階的に発展させる」にあたり、W3C内に新たなグループが誕生し、そのグループがHTMLとXHTML双方について改善を行うとのことです。このなかで私が注目したのは、既にブラウザベンダを含む大勢からこのアイデアに対する賛同を得ているという点です。今後のHTMLの発展にとって、W3Cと産業界の双方がより密接に連携を図ることの重要性を鑑みればこそ、この点には非常に大きな意味があるといって良いでしょう。
This is going to be a very major collaboration on a very important spec, one of the crown jewels of web technology. Even though hundreds of people will be involved, we are evolving the technology which millions going on billions will use in the future. There won't seem like enough thankyous to go around some days. But we will be maintaining something very important and creating something even better.
(これはWeb技術のなかでもひときわ大切で極めて重要な仕様に関する、実に巨大な協同となることでしょう。参加するのは数百人かもしれませんが、私たちは将来何百万人あるいは何十億人という人々が使うことになるであろう技術を発展させているのです。それに見合う感謝の言葉は無いかもしれません。しかし私たちは、とても重要な何かを整備し、また何かをより良いものへと創り上げているのです。)
私はこのくだりを彼なりの決意表明として受け取りました。HTMLという仕様は今や実に多くの人々が利用する、あるいは利用することになるであろう存在であり、それだけに策定作業にはさまざまな困難が予想されます。意見の収集や合意形成といったプロセスについてはW3C自身の過去の活動からある程度は学べるにせよ、これから始まるHTMLの再発明は、大げさな言い方をすれば人類全体にとって一種のチャレンジといえるかもしれません。
本件に関しては本日現在でもW3CのNewsやHyperText Markup Language (HTML) Home Pageに関連する言及が見当たらず、ある意味では極めて異例の事態といえるでしょう。しかしなんといってもWebの発明者であるTim Berners-Lee氏自らが発した言葉だけに、その内容は確かであると思います。このアナウンスを最初に読んだとき、喜びと不安が入り混じったなんともいえない感情を覚えましたが、しかしとにかくHTMLの今後がとても楽しみであり、またその再発明プロセスには私も積極的に参加していきたいと考えています。
W3C10 Asia
最後にお知らせがあります。今年は慶應義塾大学にW3Cアジアホストが設置されて10周年にあたります。それを記念する祝賀式典「W3C10 Asia」が、11月28日にホテル日航東京にて催されます。そのイベントにおいて公開シンポジウムも予定されており、私は「日本のIT産業とWeb標準との微妙な関係」がテーマの公開討論にパネリストとして登壇いたします。一般の方でもイベントにご参加いただけますので(有料、要事前登録)、ご興味をお持ちの方がもしいらっしゃいましたら、是非ご参加ください。
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