Webの向上・改善につとめるHTML 5
フロントエンド・エンジニア 矢倉 眞隆2008年1月22日に最初の草案が公開されたことから、今「HTML 5」という新しいHTMLの仕様が話題となっています。HTML 5ではこれまでのHTML 4.0やXHTML 1.0と比べてどのような変更がおこなわれ、また改善されているのでしょうか。
文書を記述する言語から、Web構築のための言語へ
HTMLの最終バージョンは、1999年12月に勧告された「HTML 4.01」となっています。後にXMLで再定義されたXHTML 1.0や、モジュール化されたXHTML 1.1も登場していますが、各フォーマットを構成する要素や属性、そして「文書を記述するシンプルな言語」という理念は変化していません。一方、Webは絶えず大きく変化しています。
例えば、Webのデザイン手法。10年前のWebデザインはtableを利用したものがほとんどでした。しかし今では、「Web標準」と呼ばれる、ページの構造を適切に表現したHTML文書とCSSによるWebサイト構築が普及し始めています。
また、Webアプリケーションという新しい表現形態も広く使用されてきています。Webアプリケーションは、デスクトップアプリケーションと比べて遜色ない直感的な操作性と、煩わしいページの移動を必要としないなど数々の利点を持ち、「Web 2.0」と呼ばれる動きの原動力となっています。
こうしたWebの変化に、従来のHTMLは追従できていません。これは、ページの構造化やアプリケーションのインターフェースを定義するための語彙が、現在のHTMLに不足していることが大きな理由です。HTML 5はこれらに足りない語彙を補い、またそれらを簡単に操作できる仕組みを定義することにより、Webの機能性や柔軟性を高めようとしているのです。
相互運用性を高めるための手段でもある仕様策定
HTML 5の策定は、W3Cでの活動が始まった2007年よりも前である、2004年にスタートしています。策定を始めたのはブラウザベンダであるApple、Mozilla、Operaが組織したWHATWG (Web Hypertext Application Technology Working Group)という団体です。
ブラウザベンダが仕様策定の中心にあることには、いくつかの利点があります。一つは、実装側からのフィードバックを逐次仕様に反映することができるというものです。そしてもう一つは、ブラウザ同士の相互運用性を向上させる取り組みにもなるということです。これは、過去のブラウザ戦争の教訓でもあります。
HTML 4が策定された1997年の前後は、MicrosoftとNetscapeがWebでの覇権を握るため、ブラウザの機能拡張にやっきになっていた時代でした。結果、一方が導入した独自拡張機能が、もう一方では利用できないなどといった互換性の問題が多発し、CSSやJavaScriptなどの普及が遅れてしまったのです。
技術の普及は、一つの団体やソフトウェアだけで成せるものではありません。誰でも利用できる、オープンで安定した仕様を同時に実装することが重要なのです。
ユーザーを知り、段階的に前進させてゆく
しかし、実装する側が協調すれば普及するというわけでもありません。実際にその製品や技術を利用する者を考えない技術は、どれだけ業界がバックアップをおこなっても普及しないものです。
HTML 5はユーザーのニーズも考慮した仕様とするため、既存のWebサイトを対象としたさまざまな調査をおこなっています。例えば、よく使われている要素の分類名について統計を取り、新しい語彙を追加する、これまで仕様に取り込まれていなかった独自拡張を、相互運用性を考えたうえで実装するなどがおこなわれています。
また、ユーザーが現在利用するソフトウェアについても一定の配慮をおこなっています。新しい機能が現在のブラウザで動作しないといったことがないように、後方互換性の確保も慎重に考慮したうえで拡張をおこなうなどしています。
こうした後方互換性をふまえた機能拡張は、理想的な解決策ではないことがしばしばあります。しかし、ソフトウェアはある日一斉に新しいものになるわけではありません。利用者もまた、新しい技術をすぐに習得するわけではありません。少しずつ向上させてゆくことも重要なのです。
完成までの道のり
さて、HTML 5は2010年9月の勧告が予定されていますが、現段階での実装状況や仕様の完成度を考えると、遅れるのではないかと感じています。また、ユーザーが理解し実際に普及が始まるのはそれより少し後になるでしょう。
HTML 5に関する動きは、定期的にWeb標準Blogにて取り上げています。また、日本語での情報を広めようと、関連文書の翻訳などもおこなっています。
ミツエーリンクスは今後も、Web標準にかかわるさまざまな活動に取り組んでいきます。
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