デッサンのススメ
アートディレクター 片野 範康アート・アンド・ブレイン「脳の右側で描く」社内セミナー開催
2010年1月13日に、アート・アンド・ブレインの齋藤さんをお招きし、デッサンセミナーを社内で開催しました。開催にあたり、齋藤さんがやられている通常の講義内容を一部弊社用に変更して開催にこぎつけることができました。
講義内容はアート・アンド・ブレインが月一回行なっている5日間デッサン研修の導入になります。アート・アンド・ブレインは、「脳の右側で描け」という書籍で有名な、ベティ・エドワーズ博士の理論を、実践し、絵を描くことを楽しむワークショップを多くの方に提供している団体です。通常のデッサンセミナーでは数時間石膏とにらめっこしてデッサンを描き上げる、実技中心の講義が多いのですが、アート・アンド・ブレインの行なっているセミナーは、5日間の研修を受けることで絵を描く技術が向上するというものです。その向上の秘密が「脳の右側」にあります。社内セミナーでは実際に研修を体験した方の事例を中心に講義していただきました。
今回のデッサンセミナー開催の背景には、制作スタッフの技術向上とデッサンする行為に少しでも触れて興味を持ってもらう目的がありました。
社内で参加したスタッフは、入社3年目から4年目あたりの中堅が中心となる10名です。実技が必要になる講義内容でしたので、実技のフィードバックなどを考慮し人数制限が設けられました。
受講したスタッフの評判も高く、全員がセミナー内容に興味を持つことができ、良いセミナーを開催することができたと思っています。
デッサンとは
私も高校時代にデッサンを学び始めました。
デッサンは美術大学を目指す方が受ける科目です。当時の私も受験目的でデッサンを勉強していました。予備校に通い始めたころは、何をどうしてよいのか分からず、毎回講師の方にきついアドバイスを受けていました。半年後、夏季講習で集中的にデッサンを毎日行なっていました。その夏期講習の時に、それまで見えてこなかった石膏の形が見えるようになりました。石膏の陰影が理解でき、大きな塊をとらえられるようになりました。それ以来、デッサンすることがなんとなく理解できたと思います。
一般的にデッサンと聞くと、物を描くことに囚われがちですが、私が思うデッサンの本質は物を見ることにあると思います。デッサンにとって物を見るというのは、単純にそのモチーフをよく見ることだけではなく、見えないところを見たり、見えるところをより深く見たりすることです。
例えば、石膏デッサンや人物デッサンなどでは、人物の骨格を見るようにします。頭と首の関係、頭、肩、腰の関係、それらをつなぐ背骨の流れ、そこに付随する、腕や足の骨格です。これは表面的にモデルを見ているだけでは見えてこない部分です。
また、静物デッサンではそれぞれの物が持つテクスチャや、物と物との関係性などが重要になります。ガラス素材が持っている光の屈折とプラスチックの持つ屈折の違い、布地の模様の流れ、有機物と無機物の違いなどです。
これらの見るという行為は物を見ているだけではなく、それらの本質を見抜く重要な行為に近いと思います。ガラス素材に映りこむ反射と、プラスチック素材に映りこむ反射の違いは、それぞれの素材自体の違いを理解する必要があります。また、腰と肩、首と頭などの関係も人体の骨格を知っている必要があります。
このように、デッサンを通じて物を見てその本質を探る(見る)習慣がつきました。
余談ですが、デッサンに熱中していた当時は、缶ジュースの入っている残量の違いも描き表せるのではと思っていました。実際中身の残量を描き表すためには影の付け方を微妙に変えることで表現できると思います。
デッサンから学ぶこと
その物の本質を見抜こうとする習慣は、デッサン以外にもWebサイトをデザインする上で多く役立っています。
当たり前のことなのですが、Webサイトのデザインに入る前には、その企業の情報や案件情報を念入りに把握します。案件自体の発生した原因や目的、なぜこの企画がこのタイミングでその企業に制作する必要があるのか、その案件自体のターゲットユーザは何を意識して、どんなことに興味があるのかなどです。これらの内容をじっくり見る(知る)ことで必要なデザイン要素、表現しなければいけないことが自然と分かってきます。
例えば、「クライアントにとって良いデザインとは?」、「クライアントのユーザにとって必要なデザインとは?」、これらの疑問に答えるためには、そのクライアントが何の目的でサイトを立ち上げ、その目的を達成するためにはサイト上で何をしなければいけないのか、ターゲットユーザがそのクライアントに何を求めてサイトに訪れているのか、そして、どんな情報に魅かれるのかなどを充分に知る(見る)必要があります。その案件自体を深く見ることで、その案件に対して必要なデザインが見えてきます。
私はデッサンを通じて多くのことを学ぶことができました。今後もこの見る力を養いつつ、表現を続けていきたいと思います。
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