TPAC 2015 現地レポート3
アクセシビリティ・エンジニア 黒澤引き続きTPAC 2015のレポートをお届けします。TPAC 2015 3日目、10月28日はWorking Group個別のミーティングではなく、全体向けのセッションと特定のトピックにわかれた議論をするBreakout Sessions(分科会)が行われました。
Breakout Sessionsは、
- 事前に、提案者がW3CのWikiにセッション案を記入
- 当日、各セッションの部屋割りを調整
を経て実施されます。セッションの部屋割りは、大きなホワイトボードにセッション名を書いた付箋を貼って行われます。あるセッションの提案者が別のセッションに呼ばれているため2つのセッションが重ならないように調整する、などのように、部屋割りは調整を繰り返して決まります。28日はホワイトボードの前に人だかりができて、付箋をあっちに移動、こっちに移動ということを30分ほど繰り返していました。また、Wikiに事前記載のないセッションが追加されるなど、柔軟に実施されています。
最終的な部屋割りはW3CのWikiの他、会場のサイネージでも表示されていました。
さて、私もいくつかのセッションに参加しましたが、中でもFuture of HTMLと題された、HTML仕様の今後の標準化に関するセッションが印象的でした。
HTMLのW3Cにおける標準化はこれまでHTML Working Groupが行ってきましたが、今後はWeb Platform Working Groupが行います。Web Platform Working GroupはHTML Working GroupとWeb Applications Working Groupの活動を1つにまとめたWorking Groupで2015年10月にできました。TPAC 2015はWeb Platform Working Groupにとって最初のFace to Faceミーティングですが、Working Groupのミーティング枠(26日・27日)ではHTMLの今後については議論されていない模様です(ミーティング議事録1(草案)、ミーティング議事録2(草案))。
28日のFuture of HTMLセッションはWeb Platform Working Group共同議長のCharles McCathieNevile氏を中心に進められました。ブラウザーベンダーやコンテンツ制作者からの意見や要望は出ましたが、Web Platform Working Groupとしての結論は出ていません。セッションの議事録(草案)は公開されており、議事録を受けて書かれたSteve Faulkner氏による提案も公開されていますので、興味のあるかたは参照されると良いでしょう。なお、Steve Faulkner氏はHTML仕様のW3Cにおけるエディターの1人で、28日のセッションには参加していません。
この記事の残りでは、セッションで少し言及された、タブUIなどのパネルを表す要素について紹介したいと思います。現在のHTMLにはパネルを表す要素はなく、コンテンツの制作者がJavaScriptなどを使って実装しています。アクセシブルに実装できているものもありますが、アクセシブルではないものも存在します。パネルを表す要素が標準化されればJavaScriptは不要になり、コンテンツの制作者はアクセシブルなパネルを簡単にページに追加することができます。パネルを表す要素はLéonie Watson氏が中心となって検討が進められています。Léonie Watson氏はWeb Platform Working Groupの共同議長であり、HTML Accessibility Task Forceのメンバーでもあります。
- ※ Web Platform Working Groupの共同議長は現在4名です。
- ※ HTML WGとPF WGの合同Task ForceであるHTML Accessibility Task Forceの今後についてはTPAC 2015最終日(10月30日)の午後に議論される予定です。
パネルに関する要素はHTMLの拡張仕様の形をとっており、WebPlatform.orgで公開されています(Panels and Panel Sets Extension)。また、カスタム要素を使って実装されたプロトタイプも公開されています。このプロトタイプでは、マウスやキーボードによるインタラクションはJavaScriptで、開閉状態などのセマンティクスはARIAで補われています。また、仕様・プロトタイプともにGitHubリポジトリで管理されています。
HTMLの標準化ではResponsive Images Community Group(RICG)のpicture要素が成功例として引き合いに出されることが多いですが、パネルに関する要素の標準化も成功例の1つになってほしいと思います。