岡山情報ビジネス学院 Webデザイン学科の皆さんとの遠隔講義/インタビュー
エグゼクティブ・フェロー 木達11月9日、専門学校 岡山情報ビジネス学院 Webデザイン学科の皆さんに、Skypeを使ってアクセシビリティに関する遠隔講義/インタビューを行いました。参加してくださった学生の皆様、そして貴重な機会をくださったSAWADA STANDARD DESIGNの澤田氏に、御礼申し上げます。ありがとうございました。以下は、当日お話した内容の一部やその補足、あるいは時間の兼ね合いで割愛した内容のご紹介です。
私がアクセシビリティに関わり始めたきっかけ
2004年にミツエーリンクスに入社してまず取り組んだのが、Web標準の旗振り役でした。平たく言えば「Webの標準技術を適切に使いましょう」という運動ですが、より狭義には「レイアウトにはCSSを積極的に使いましょう」という運動です。その頃はまだ、ブラウザーの実装が今ほど統一的に進んでおらず、またブラウザー固有のバグも多かったため、CSSではなくHTMLで(表に関する要素を流用して)レイアウトを記述することが一般的だったのです(俗に「テーブルレイアウト」と呼ばれる手法)。Web標準に準拠した結果として期待されるメリットには、さまざまなものがありましたが(例えばSEO的な効果)、結局のところ全てのメリットはアクセシビリティに集約される、と思い至ったのがきっかけだったように思います。
また、商用大規模サイト(具体的にはWIREDのサイト)に初めてCSSレイアウトを採用したことで知られる、デザイナーのDoug Bowman氏の講演にも、大いに刺激を受けました。当時Bowman氏のもとには、リニューアルに関するさまざまな感想のメールが届いたそうです。その中の一通に、感謝を伝える内容と、末尾に「ところで私は目が見えません(By the way, I'm blind.)」と書き添えられたものがあったそうで......そのエピソードがすごく印象に残っており、アクセシビリティに注力するきっかけの一つになったと思います。
講義
あらかじめ3つのお題を澤田氏よりいただいていたので、それぞれについてごく簡単に、講義をさせていただきました。
世界のWebアクセシビリティ最新事情については、所属しているウェブアクセシビリティ基盤委員会のセミナーで使われたスライド「Webアクセシビリティ最新動向 ~JIS X 8341-3:2016と障害者差別解消法~」を見ていただくと、よく分かると思います。また、当日にお話したお隣の国・韓国の事情については、別のスライド(Web accessiblity in korea and its implications accesiblity camp 2013.01.25 japanese)をご覧ください。日本でも今年、障害者差別解消法の施行に伴い、諸外国に遅ればせながら法制化が実現されましたが、罰則も期限の類もないという点で、国内のWebアクセシビリティを底上げするにはやや弱い印象を持っています。
東京のWeb制作会社におけるアクセシビリティへの取り組みについては、あくまで個人的にですが、まだまだこれからという印象があります。もちろん、古くからごく当たり前のこととしてWebアクセシビリティに取り組んでいらっしゃる会社さんもありますが、それを強みとしてしっかり打ち出している制作会社というと、数として多くはないように思うのです。ただ、社会的なニーズの高まりと共に、各社で取り組みが進むのは時間の問題だと思っていますし、それによって技術的な面での切磋琢磨なり情報共有が業界全体で加速することを期待しています。
2020年の東京オリンピック/パラリンピックに向けた展望については、徐々にではありますが、それを一つの契機と捉えてWebアクセシビリティへの対応を強化し始める動きは認識しています。自分としては、そうした動きを歓迎する一方で、オリンピック/パラリンピックが終わった途端に取り組みがトーンダウンしてしまうことを強く懸念しています。そうではなく、2020年以後も年を追うごとに益々アクセシビリティが向上していくよう、持続的・継続的な取り組みとなるよう啓発し、また支援していきたいと考えています。
質問コーナー
アクセシビリティに配慮したWebページの制作時に一番大変だと思うことは?
理想と現実、仕様と現実のギャップの捉え方、バランスの取り方でしょうか。例えば、仕様に従ってこういう風に実装できれば理想だけれど、現実にはまだブラウザーや支援技術の対応が追いついておらず採用できない、といった場面があります。どこまで先の未来を見据えたうえで、どのような実装方法を採用するかは、常にバランスが求められます。ただこれはアクセシビリティに限った話でもなく、Webデザインとは概ね「常に動き続ける的を射るようなもの」だと思っています。
動きのあるWebサイトを制作する場合に、アクセシビリティを確保するうえで気をつけていることは?
採用する技術の視点と、その技術を使った結果としての表現の視点、それぞれに気をつけるべきことがあるように思います。技術的な視点からは、JavaScriptやCSSで「動き」を実装することが多いと思いますが、やはり何をどこまで採用するかという点は気をつける必要があります(上述の、仕様と現実のギャップと同じお話)。表現の視点からすると、例えば提供する動きに対して、ユーザーの側で何をどこまでコントロールできるかといった部分は注意が必要ではないでしょうか。例えば一部で流行っているようですが、スクロールハイジャックのような動き、表現はアクセシビリティ的には避けるべきです。
コミュニケーションデザインとは?
コミュニケーションとは、辞書的には人間が意思や感情、思考を伝達し合うこと。つまりコミュニケーションデザインとは、そのような行為における課題の発見と解決(ないし改善)。ミツエーリンクスの経営理念がSmart Communication Design Company
なので、そういう質問をいただいたのだと思いますが、ミツエーリンクスでは主にWeb技術を活用したコミュニケーション、Webを介したコミュニケーションを対象として、顧客にデザインを提供しています。
現在の仕事を始めて一番やりがいのあった仕事は?
正直、一番は選べませんが、規模の大きな(数千ページ単位の)構築/リニューアル案件は、どれもやりがいがあったと思います。もちろん自社サイトの運用も、やりがいがあるからこそ自ら担当し続けています。自社サイトについてはWeb標準準拠、マルチデバイス対応、最近では常時SSL/TLS対応と、常に「お客様にとって参考にしていただけるサイト」や「Web制作会社のWebサイトとしてあるべき姿」を模索し、また実践してきたつもりです。あとは業界に働く一人として、Web標準にしろ、Webアクセシビリティにしろ、その方向付けに微力ながら関わることには、とてもやりがいを感じます。
Webデザイン学科で教科書として使われている書籍「デザイニングWebアクセシビリティ」に対する意見、思いなど
「Webアクセシビリティについて学びたい」という方に対し、ようやく自信を持ってお勧めできる本が出版された、という思いがあります。著者のお二人にはとても感謝していますし、また査読協力という形で出版に参加させていただけたことを光栄に思っています。12月には電子版が発売されると聞いていますが、これからも内容をアップデートし続けることで、是非ロングセラーになって欲しいです。そしてまた、Webデザインの教育現場における教科書のスタンダードとなることを願っています。
地方でアクセシビリティの教育を受けた学生に対する興味は?
Webデザインについて、アクセシビリティをしっかりカリキュラムを組んで教えていらっしゃる教育機関は、まだそう多くないように認識しています。そういう意味では、岡山情報ビジネス学院 Webデザイン学科に通い、澤田氏の授業を受講されている皆さんは、非常に恵まれていると言えるのではないでしょうか。アクセシビリティの知識や経験を武器の一つとして、Web業界を目指していただけると嬉しく思います。