Webアクセシビリティ向上のためのマインドセット変革
エグゼクティブ・フェロー 木達去る7月23日、Web広告研究会の月例セミナー「誰のためのUX? ~アクセシビリティを再確認しよう~」に登壇しました。登壇者全員による最後のパネルディスカッションの直前、私は単独で「Webアクセシビリティ向上のためのマインドセット変革」と題した講演をさせていただきました。
Web担当者のあいだに根強く存在するかもしれない先入観や思い込み、誤解を払拭しようという趣旨の講演で、スライドはSlideShareの「Webアクセシビリティ向上のためのマインドセット変革」で公開してあります。しかし口頭での発表との構成上、スライドだけを見てもよくわからない内容としていますので、本記事で簡単に補足したいと思います。
スライドでは10個の「ありがちな誤解」を列挙したのですが、それぞれに対し以下のようなお話をさせていただきました。
ありがちな誤解 その1 障害者や⾼齢者はWebを使っていない
Webが誕生した30年前と異なり、障害者や高齢者も今やWebを積極的に使っています。それを実現するための支援技術(例:スクリーン・リーダーやモノラルオーディオ)は、ますます進化しながら普及し続けており、今や多くのスマートフォンやPC、タブレットに標準で備わっています。
ありがちな誤解 その2 Webアクセシビリティは視覚障害者だけが必要
Webアクセシビリティの文脈やイベントにおいて、視覚障害が中心的に取り扱われることがありますが、障害と一言でいっても多様です。視覚障害(全盲、弱視、見え方は多様)の他に聴覚障害や肢体不自由、認知障害、学習障害といったさまざまな種類があります。複数の種類の障害を合わせ持っているユーザーもおり、例えば高齢者は視力・聴力ともに弱く、また手先の器用さも損ないがちです。
ありがちな誤解 その3 アクセシビリティを必要とするのはユーザーの⼀部
Webサイトを利用するすべてのユーザーが、アクセシビリティを必要とします。必要とする度合いは人それぞれ異なりますが、たとえ先天的な身体障害を有しないユーザーであっても、一時的な状況の変化によってアクセシビリティの必要性が高まるケースもあります(例:怪我をして一方の腕が使えない)。
ありがちな誤解 その4 アクセシビリティを向上させるには特殊な取り組みが必要
何をもってして特殊と呼ぶか次第ですが、例えば見出しは見出し要素を使って(文書の意味や構造に即して)マークアップする、画像には代替テキストを指定する......そういった、ごく当たり前で工数も多くはかからない取り組みによって向上できるアクセシビリティは、少なくありません。
ありがちな誤解 その5 アクセシビリティは付け⾜す(オプション扱いする)ことができる
後付けすることで確保できるアクセシビリティも中にはありますが(例:指定し忘れた画像の代替テキストを指定する)、多くの場合、コンテンツの企画・設計段階から取り組まなければ確保は困難ないし不可能であり、オプション扱いすべきではありません。
ありがちな誤解 その6 コーディング担当者が頑張ればアクセシビリティは向上できる
前項と同じく、後工程までプロジェクトが進んでから確保できるアクセシビリティには限度があります。従い前行程から、プロジェクトの進行全体を通じて、コーディング担当者に限らずプロジェクトに携わる全員が、それぞれに求められる役割の中で取り組んでこそ、Webアクセシビリティは向上します。
ありがちな誤解 その7 アクセシビリティを向上させるには⼤きなコストがかかる
上述の「アクセシビリティを向上させるには特殊な取り組みが必要」の項で既に書いた通りです。確かに動画に字幕を付けたり、PDFコンテンツにタグを付与したりといった類のアクセシビリティ確保は、文書の意味や構造に即したマークアップや画像の代替テキスト指定より概して手間を要しがちですが、すべてのアクセシビリティ向上施策において常に大きなコストがかかるわけではありません。
ありがちな誤解 その8 アクセシビリティは⼀度だけ向上させれば良い
新規にサイトを構築したり、あるいは既存サイトをリニューアルするタイミングでアクセシビリティをてこ入れするのはよくあるお話ですが、日々の運用を通じ変化し続けるコンテンツにおいて、目標とするレベルよりアクセシビリティが下がってしまわないよう、継続的に取り組むことが重要です。
ありがちな誤解 その9 ⽂字拡⼤ボタンや⾊反転ボタンを⽤意すれば問題ない
そうした機能を必要とするユーザーは多くの場合、そのサイトを利用するときのみならず、どのサイトであっても文字サイズや文字色と背景色の組み合わせを変更する必要があるため、デバイス固有のOSが標準で備える支援技術を頼るのが一般的です。⽂字拡⼤ボタンや⾊反転ボタンを便利に使うユーザーも中にはいらっしゃるでしょうが、それを用意しさえすればアクセシブルかというと、そうではありません。
ありがちな誤解 その10 アクセシビリティを向上させると⾒た⽬が平凡で醜くなる
Webコンテンツのアクセシビリティを向上させるのにビジュアルデザインで考慮すべき事柄は、色のコントラストをはじめ少なからず存在しますが、それでビジュアルデザインが平凡で醜くなるとは限りません。そうした事柄を一種の制約と受け取る方も中にはいらっしゃいますが、誰もが使うからこそ、誰でも使いやすいビジュアルデザインが求められるのがWebであり、その前提において機能的価値と情緒的価値を両立させるのがデザイナーの務めであると思います。
[ 2019-09-30 追記 ] イベントのレポート記事が5ページにわたり掲載されました。
- 「iPhoneは視覚障害者にも使いやすい!? 当事者が語るバリアフリーとユニバーサルデザイン」2019年7月23日開催 月例セミナーレポート(1)
- 「Webアクセシビリティ 基本の『キ』。いますぐ実行できる10の"インクルーシブデザイン"テクニック」2019年7月23日開催 月例セミナーレポート(2)
- 「企業Webサイトが訴えられる? 増加するアクセシビリティ関連提訴の現状とWeb担当者がやっておくべき4つのアクション」2019年7月23日開催 月例セミナーレポート(3)
- 「Webアクセシビリティのよくある10の勘違い。あなたはマインドセットを変革できるか」2019年7月23日開催 月例セミナーレポート(4)
- 「Webアクセシビリティを社内で推進するには? 優れたサイトの例は? など10の疑問に専門家が回答」2019年7月23日開催 月例セミナーレポート(5)