「一部準拠」というWebアクセシビリティの対応度の位置づけについて
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)筆者はウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)に参加させていただいているのですが、そのWAICのSlackで、あるコメントをきっかけに先日ちょっとした議論が沸き起こりました。
そのきっかけとなったコメントの概要は、次のようなものでした。
- あるWebサイトでJIS X 8341-3:2016に基づく試験結果が公表されているのを見かけた。
- 試験結果には、達成基準ごとの試験結果が記載されている。
- レベルAのある達成基準に対して、不適合という結果が記載されている。
- レベルAの達成基準で不適合のものがあるため、当然レベルAには準拠しないが、そのサイトでは「満たしている適合レベル」として、「JIS X 8341-3:2016の適合レベルAAに一部準拠」と記載されている。
- このサイトの記載はおかしいと思うが、WAICの公表している文書では明文化されていないのでは。
WAICではウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドラインという文書を公表しており、「準拠」「一部準拠」「配慮」という表記をこの文書で定めています。この文書の「3.2. JIS X 8341-3:2016 に一部準拠」では、
目標とした適合レベルに該当する達成基準を全て満たしていない場合、今後の対応方針を示すことで「JIS X 8341-3:2016に一部準拠」と表記することができる。
とだけ書かれているので、一見前出のウェブサイトの「レベルAAに一部準拠」はもっともらしく見えます。しかし一方で、(JIS X 8341-3:2016と技術的に同等な)WCAG 2.0の適合要件には次のように記載されています。
適合要件 ウェブページが WCAG 2.0 に適合するためには、以下に挙げるすべての適合要件を満たしていなければならない:
1 適合レベル: 以下に挙げる適合レベルの一つを完全に満たしていること。
- レベル A:レベル A (適合の最低レベル) で適合するには、ウェブページがレベル A 達成基準のすべてを満たすか、又は適合している代替版を提供する。
- レベル AA:レベル AA で適合するには、ウェブページはレベル A 及びレベル AA 達成基準のすべてを満たすか、又はレベル AA に適合している代替版を提供する。
- レベル AAA:レベル AAA で適合するには、ウェブページがレベル A、レベル AA、及びレベル AAA 達成基準のすべてを満たすか、又はレベル AAA に適合している代替版を提供する。
つまり、WCAG 2.0でレベルAAに適合であるための条件としては、レベルAの達成基準をすべて満たした上で、基本的にはレベルAAの達成基準をすべて満たさなければならない、ということになります。これは言い換えると、上位レベルを満たしていると言うためには、下位レベルを満たしていることが条件である、というのがJIS X 8341-3の根本にあることになります。このことから、レベルAの達成基準を満たしていないにもかかわらず、レベルAAに一部準拠と前出のWebサイトで表記するのはおかしいのでは、という最初のSlackでのコメントにつながります。
Slack上でのやりとりが進む中で、総務省の公表している「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」の5.3.5. 適合レベルと対応度の設定 (3) 対応度には次のような記載がなされているという指摘がありました。
- レベル A に準拠:レベル A の全ての達成基準を満たす。
- レベル AA に準拠:レベル A、レベル AA の全ての達成基準を満たす。
- レベル A に一部準拠:レベル A の達成基準を一部満たしていない。
- レベル AA に一部準拠:レベル A の全ての達成基準を満たす。しかし、レベル AAの達成基準を一部満たしていない。
- レベル AAA に一部準拠:レベル A、レベル AA の全ての達成基準を満たす。しかし、レベル AAA の達成基準を一部満たしていない。
みんなの公共サイト運用ガイドラインにのっとるならば、少なくともレベルAの達成基準を全部満たさなければ、レベルAAに一部準拠とは名乗れないということになります。このことは、「JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン」からすぐに読み取れるものではありませんから、対応度表記ガイドラインに誤解がないように加筆するのが必要ではないだろうか、という話につながっていきました。実際筆者もそのように感じていますし、この対応度表記ガイドラインの管理を担当するWAICワーキンググループのメンバーの方も、WAIC内の議論・意見集約を通して、より明確な記載にしていきたいという趣旨のコメントをされています。
それはそれとして、「一部準拠」を明確にうたっているWebサイトというのもあまり多くはないというのが筆者個人の雑感ではあります。Webアクセシビリティの対応を目指す上で、「準拠」が一つの目標になってくると思いますが、部分的な対応となる「一部準拠」はあまりよくない印象を抱いている向きもあるのでは、というようなSlackでのコメントもありました。そもそも「一部準拠」というラベル付けでよいのかどうかというのは議論の余地がありそうです。また、JIS X 8341-3の普及を促すというWAICの活動目的の視点からも、「一部準拠」をうまくWebサイトで活用していただくため方策が求められているのかもしれません。