大学におけるWebアクセシビリティに関連する科目
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)今年の7月初頭に高校の「情報」教科に見るWebアクセシビリティと題して、高校におけるWebアクセシビリティの教育について見てみました。では、大学の科目等でWebアクセシビリティに関して学べるものはあるのでしょうか。ごく簡単にですが、Webで調べてみたところ、アクセシビリティに関して学べる2種類のものを見つけることができました。
1つは、アクセシビリティリーダー育成協議会が実施する、アクセシビリティリーダー育成プログラム(ALP)です。2020年現在では、19の大学でプログラムに基づいた科目が開講されているようです(会員団体による)。
例えば、最初期からこのプログラムに参画している広島大学のアクセシビリティリーダー育成プログラム(ALP)をのぞいてみますと、実際にどのような講義が行われているのかを垣間見ることができます。
第1教育課程と位置づけられているオンライン講座について、その概要はオンラインアクセシビリティ講座から見ることができます。
プログラムの名称からもわかりますが、Webアクセシビリティに限らず、アクセシビリティ全般についての講座となっています。そもそもアクセシビリティとはどのようなものなのか、といったところから始まり、「情報とアクセシビリティ」という観点から、Webアクセシビリティが検討されていくと思われます。
第2教育課程と位置づけられる講座については、実習のものと座学のものが開講されています。座学に関しては、障害者支援アクセシビリティ概論、現代アクセシビリティ研究がそれぞれシラバスになります。シラバスからは、どの程度Webアクセシビリティに触れるのかを伺い知ることは難しいですが、個人的には、障害者支援アクセシビリティ概論で各種の障害と支援方法というものが興味を惹くところであります。
しかし、受講するにあたっては、基本的には開講している大学に入学していることが前提になります。また、社会人が働きながらこのようなプログラムを履修するのはかなりハードルが高いと考えられます。その点、もう1つの放送大学であれば、特別な入学資格なしに科目履修生として履修することができます。
もっともWebアクセシビリティに近しい科目としては、情報コースの情報社会のユニバーサルデザイン('19)が挙げられます。科目名にもあるとおり、ユニバーサルデザインに主眼を置いて講義がなされますが、アクセシビリティについても触れられています。実際に「第9回 コンテンツのアクセシビリティ」では、
Webコンテンツのアクセシビリティを確保するために必要な配慮について解説する。また、Webアクセシビリティは電子書籍などWeb以外の様々なコンテンツにも応用されていることについて解説する。
とあり、Webアクセシビリティそのものが取り上げられる回もあります。放送大学「情報社会のユニバーサルデザイン('19)」(テレビ科目紹介)という動画もYouTubeにあるので、興味のある方はのぞいてみるとよいかもしれません。
あるいはWebアクセシビリティから離れて、生活と福祉コースに目を向けてみますと、障害を知り共生社会を生きる('17)という科目も目を惹くものがあります。講義概要には、
障害者といえば、車いすを使っている人を連想する人が多いが、障害の種類は多く、それぞれの障害の特徴は多様である。障害の概念や障害をめぐる思想を理解するだけでなく、権利の尊重、日常生活や社会生活の実態、国の障害者施策や法律など、障害者理解を促進させる内容を多角的に学習する。さらに、理解しにくいと考えられる障害を取り上げ、個別の障害の特徴を詳細に学習する。
とあり、障害を取り巻くものを包括的に学べるようになっているようです。また、大学院の講義になりますが、情報学研究法「障がい者支援研究法」といった研究科目も伺えます。
とても簡単ではありますが、Webアクセシビリティに関連する科目を眺めてみました。ここで取り上げた大学の講義を通してWebアクセシビリティを学ぶことを考えますと、Webアクセシビリティそのものを学ぶよりかはむしろ、Webアクセシビリティを取り巻くものを通してWebアクセシビリティを捉え直すような格好になると思われます。これは、Web自体が誕生してから30年ほどしかたっていないことも挙げられるでしょうが、「アクセシビリティ」という言葉の概念自体が日本の社会のみならず、学術的にもあまり浸透しているとは言えない、とも捉えることができるのかもしれません。
Webアクセシビリティというところから離れた自省的なまとめになってしまいますが、アクセシビリティとはなにか、どのような文脈で捉えるとよいのか、という素朴な問いかけに筆者の中で改めて向き合う必要性を感じました。