民間に対する法律上の「合理的配慮」の見直しについて
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)年末に【独自】障害者配慮、民間も義務化へ...スロープ設置や手話対応 : 社会 : ニュース : 読売新聞オンラインという報道を目にした方も中にはいるかと思いますが、障害者差別解消法でこれまで民間では努力義務であった「合理的配慮」が義務化される公算が出てきました。
実際に、昨年12月に開催された第53回障害者政策委員会の議事次第での資料8 障害者差別解消法の改正に盛り込む事項(案)では、「事業者による合理的配慮の提供を義務化」が挙げられていることが確認できます。
ここでWebアクセシビリティと「合理的配慮」にはどのような関係があるのかおさらいをしてみたいと思います。総務省が公開しているみんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)では、「障害者差別解消法を踏まえて求められる対応」として、以下のような記述があります。
2.2.2. 障害者差別解消法を踏まえて求められる対応
障害者差別解消法を踏まえて求められるウェブアクセシビリティに関する主な対応は以下のとおりです。
(中略)
(2) 合理的配慮の提供
障害者等から、各団体のホームページ等のウェブアクセシビリティに関して改善の要望があった場合には、障害者差別解消法に基づき対応を行う必要があります。
なお、公的機関が取組の対象から除外しているページなどがある場合も、障害者が実際にウェブアクセシビリティの問題に直面し、障壁の除去の要望を申し出た場合に、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者差別解消法に基づき合理的配慮の提供が求められます。
改善の要望に対して、ホームページ等の改善を即座に行うことが困難な場合等は、要望した当事者と必要に応じて協議を行うことなどにより要望の内容を確認し、ホームページ以外の方法で情報を提供するなどの対処も含めて、できる限りの最善の対応を行うことが必要です。
改善の要望があった箇所の改善等の対応を行うとともに、同じような問題が各団体のホームページ等の他の箇所でも生じないように、ホームページ等の全体の改善計画へ反映することが求められます。
現行法では行政が義務、民間が努力義務でありますから、仮に法改正されて義務化されると、行政と同様の対応が求められることになります。なお、Webアクセシビリティについては以下にあるように「環境の整備」という位置づけと解釈されており、これに関しては現行法で行政も民間も努力義務となっています。
(1) 環境の整備
ウェブアクセシビリティを含む情報アクセシビリティは、合理的配慮を的確に行うための環境の整備として位置づけられており、各団体においては、事前的改善措置として計画的に推進することが求められます。
ところで、みんなの公共サイト運用ガイドラインはあくまで公的機関を対象にしたガイドラインに当たります。民間では、行政とは異なりより多彩なWebサイトの構成が考えられます。何が「合理的配慮」に当たるのかについては、これを機に改めて確認する必要があると個人的に感じているところです。また、公共サイトに限らないガイドラインについても、必要とされてくるのかもしれないと個人的に思った次第です。
とはいえ、コロナ禍にあり特定地域に緊急事態宣言が行われていること、オリンピック・パラリンピックが開催予定であること、また今年は衆議院の任期満了の年であり総選挙を控えていることなどから、すんなりと法改正の審議が行われるのかについて、政治的に不透明ではあるでしょう。