W3C WAIによる音声や映像メディアをアクセシブルにするための手引き
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)いまさらながらですが、今年の4月に公開されていたW3C Strategic Highlights April 2021(W3C公式訳2021/04 W3C活動概要)を読み返していたのですが、その中のウェブアクセシビリティのセクションにMaking Audio and Video Media Accessible(音声・映像メディアをアクセシブルにする)というW3C WAI (Web Accessibility Initiative)のページが参照されており、中身が興味深いものであったのでごく簡単に紹介してみたいと思います。
Making Audio and Video Media Accessible自体は全部で8つのセクションで構成されているわけですが、特に音声・映像コンテンツの性質上、作成する前からアクセシビリティを考慮することが肝要になってきます。ではそもそもの話として、WCAG 2.1ではどういった達成基準があるのか?ということがPlanning Audio and Video Mediaで説明されています。WCAG 2.1を認識している方はご存じかと思いますが、ガイドライン1.2 時間依存メディアとして、実に9つの達成基準が存在します。注意深く読めばどの達成基準がどういった音声・映像メディアに当てはまるのかがわかるのですが、内容が似ている記述もあり、WCAG 2.1(と解説書)だけでは混乱しやすいものになっています。このPlanning Audio and Video Mediaでは、メディアが収録済かライブか、音声のみか映像のみか音声付きの映像か、といった観点からトランスクリプト(書き起こし)、キャプション(字幕)、音声解説、手話の4つのアクセシビリティの機能との関係性が改めて整理し直されています。
これら4つのアクセシビリティの機能はそれぞれのセクションで詳しい説明が行われていますが、音声・映像コンテンツを制作するに当たってどういったことを考慮すればよいのか?ということがAudio Content and Video Contentで説明されています。ここではWCAG 2.1には直接書かれないような「録音するに当たっては高品質な音声を作成する」「話し手はゆっくりはっきり話す」といった一般的事項、あるいは「発作を引き起こさないようにする(達成基準 2.3.1 3 回の閃光、又は閾値以下」といったWCAG 2.1のガイドライン1.2ではないものの関連する達成基準などがまとめられています。
また、Transcribing Audio to TextではDIYとして外部に依頼することなく自前でテキストに書き起こす場合に、書き起こすポイントにも触れてられています。さらにMedia Playersでは再生するプレーヤーの紹介があります。もちろんイントロダクションとしてのUser Experiences and Benefits to Organizationsではユーザー体験とビジネス上のメリットにも触れられており、アクセシビリティに考慮した音声・映像メディアを制作する側にとっても、またアクセシビリティ対応がなされているかチェックする側にとっても、至れり尽くせりなリソースである言っても過言ではないと思います。
最後に、Making Audio and Video Media Accessible自体は英語のリソースではありますが、難解な内容ではないことも手伝って、機械翻訳を使うことでそれなりに意味がわかるものになっているという印象です。Translating WAI ResourcesというページでW3C WAIのリソースに関する翻訳方法についてアナウンスをしています。ボランティアとして翻訳活動に興味がある、という方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。