PowerPointでアクセシブルなスライドを作成する
アクセシビリティ・エンジニア 大塚1年以上前になりますが、新卒研修について振り返りつつ、アクセシブルな資料を提供する方法の一例をまとめた記事を当Blogで公開しました(新卒研修とアクセシビリティ)。その中で、PowerPointでアクセシブルなスライドを作成できる一方、個人的な経験ではあるものの、PowerPointで作成されたスライドは読みづらいと感じることが多いとお伝えしました。
私はこれまで、PowerPointで作成されたスライドは、スライドをビジュアル的に発表することを念頭に作られていることから、スクリーンリーダーである程度読みづらいものとなってしまうことについては諦めていました。
しかし、PowerPointのアクセシビリティに関して追加で調べたところ、アクセシブルなスライドの作成や共有に関してより詳細に書かれたページを見つけました(WebAIM: PowerPoint Accessibility)。こちらのページでは、Web上でのスライドの共有には、Microsoft Officeが必要なことや、ファイルサイズの削減、スライドの切り替えやすさという観点から、PowerPoint形式(pptx)ではなくPDF形式での共有を推奨しています。また、PowerPointで適切にアクセシビリティに関する設定を行い、PDFファイルに変換することで、タグ付けされたPDFファイルを作成できるともありました。
実際にこのページの情報を参考にアクセシブルなスライドからPDFファイルを作成したところ、Acrobat ReaderとNVDAの組み合わせでPDFが構造化されていることを確認でき、見出しやテーブルといった要素間やテーブル内を移動するコマンドを利用することができました。
そこで、今回から2回にわたりPowerPointを使用し、スクリーンリーダーで効率的に閲覧可能なPDFファイルを作成する方法について説明します。1回目となる本記事では、PowerPointでのアクセシブルなスライドの作成方法についてお伝えします。
PowerPointのアクセシビリティ
PowerPointのアクセシビリティについては、以前の記事でも紹介したとおり、Microsoftもサポート記事を公開しています(障碍のある方に対する、PowerPoint プレゼンテーションのアクセシビリティを高める - Office サポート)。
冒頭に示したWebAIMのページにも、アクセシビリティに関する設定項目が記載されています。それぞれの記事には、文字サイズや色の設定など、見た目に影響する項目も記載されていました。ただ、私は全盲で日常的にスクリーンリーダーを利用しているため、本記事ではスクリーンリーダーユーザーの目線からアクセシブルなスライドの作成手順を説明したいと考えました。そこで、今回はWebAIMに記載されているスクリーンリーダーでの読み上げに影響が及ぶと考えられた以下5項目をピックアップしました。また、スライドの作成や閲覧には、PowerPoint for Office 365 MSO(16.0.13127.21668)を利用しました。
- タイトルプレースホルダーに一意のスライドタイトルを設定
- 画像や図形への代替テキストの追加
- リンクへの説明の追加
- テーブルにタイトル行が設定されていることを確認
- 読み上げ順を設定
具体的な手順
タイトルプレースホルダーに一意のスライドタイトルを設定
それぞれのスライドが区別できるよう、各スライドには異なるタイトルを設定します。[ホーム]タブの[スライド]グループにある[レイアウト]を選択すると表示される一覧から、タイトルと書かれたものを選択します。[タイトル]テキストボックスに入力された文字がスライドタイトルとして認識されます。
当然ではあるのですが、他の種類のテキストボックスにテキストを入力し、フォントを太くするなど、視覚的なレイアウトの変更を行ってもタイトルとしては認識されません。
タイトルは、スライドを切り替えたり、スライド一覧を表示させたときに読み上げられます。タイトルが設定されていない場合、スライド番号のみが読み上げられ、スライドの内容をすぐに判断することができません。
画像や図形への代替テキストの追加
画像や図形の内容をスクリーンリーダーユーザーが把握できるよう、代替テキストを追加します。設定する画像や図形を選択し、右クリックメニュー(キーボードではアプリケーションキーを押すことで表示)から[代替テキストの編集]を選択し、設定したい代替テキストを入力します。画像や図形がレイアウト目的など、スライドの内容と直接関係のない装飾用として使用されている場合、[装飾用にする]のチェックをオンにします。
設定された代替テキストは、スライド一覧で画像にフォーカスが当たったときに読み上げられます。装飾用に設定された画像は、無視され読み上げられません。
リンクへの説明の追加
リンク先の内容を素早く把握できるようにするため、リンクに説明を追加します。リンクを選択し右クリックメニューから[リンクの編集](新規でリンクを追加する場合は[リンク])を選択します。[アドレス]にリンク先のアドレス、[表示文字列]にリンクの説明を入力します。
設定したリンクの説明は、リンクにフォーカスが当たったときに読み上げられます。説明が設定されていない場合、リンク先のURLがそのまま読み上げられ、リンク先の内容の把握に時間がかかったり、読み飛ばす手間がかかったりします。
とはいえ、URLの情報も併記するのが望ましいと考えられる状況もあるかと思います。そのような際には、例えばリンクの直前にリンク先を表す説明を記載し、リンクにURLを記載するなど、隣接した場所にリンクの説明とURLを記載することで、最小限の操作でリンク先に関する情報を確認できるようになります。
テーブルにタイトル行が設定されていることを確認
スクリーンリーダーの読み上げによってテーブルの行と列の関連付けを行えるようにするため、タイトル行(テーブル見出し)が設定されていることを確認します。テーブルを選択し、[テーブルデザイン]タブの、[タイトル行]のチェックが入っていることを確認します。なお、テーブルは[挿入]タブの[表]を選択し、行と列を指定することで作成できます。
なお、現状NVDAではPowerPointで設定したテーブルのタイトル行を認識せず、テーブル内を移動するためのコマンドについても使用できません。この問題について調べると、過去には本家版のNVDAのGitHubに同様の問題に関し報告が挙げられていたようです(Reporting Tables in Microsoft Powerpoint · Issue #5350 · nvaccess/nvda · GitHub)。とはいえ、例えばナレーターではタイトル行を認識しますし、タイトル行の設定はPDFへ変換した際にも影響するため、設定の確認は行いましょう。
読み上げ順を設定
視覚的な表示順序と読み上げの順序を一致させるため、読み上げ順序の確認を行います。[ホーム]タブの[図形描画]グループにある[配置]から、[オブジェクトの選択と表示]を選択し、適切な読み上げ順序に設定します。通常、PowerPointでは、何も設定しない場合、要素が追加された順に読み上げ順序が設定されています。
順序が適切に設定されていないと、必要以上に内容をさかのぼったり、読み飛ばす必要が生じるため、内容の把握に時間がかかってしまいます。
まとめ
上記の設定を行うことで、アクセシブルなスライドを作成することができます。
テーブルに関するもの以外のすべての設定項目がPowerPointとNVDAでの読み上げに影響します。中でも、タイトルと読み上げ順の設定は重要だと考えています。タイトル情報が設定されていることで、特定のスライドを探すときなどに、スライドの内容をより早く把握することができますし、読み上げ順が正しく設定されていることで、発表者とのレイアウトに関する認識が一致し、発表内容をスムーズに把握できます。
ただ、設定を行ったとしても、スライドを切り替えた際に、場合によってはフォーカスを先頭へ移動させる必要があったり、スライドのアニメーションを飛ばすために複数回Enterキーを押す必要があるなど、PowerPointのUIの問題により閲覧効率は大きく変化しません。2本目の記事では、作成したスライドをPDFへ変換する方法について説明します。