PowerPointのスライドをスクリーンリーダーで閲覧可能なPDFファイルに変換する
アクセシビリティ・エンジニア 大塚PowerPointを使用し、スクリーンリーダーで効率的に閲覧可能なPDFファイルを作成する方法について、前回の記事ではPowerPointでのアクセシブルなスライドの作成方法をお伝えしました。2本目となる本記事では、PowerPointで作成したファイルをPDFファイルに変換・出力する方法について説明します。また、私が実際に出力したファイルをスクリーンリーダーで閲覧して気づいた点と、PowerPointからPDFファイルを作成するメリットやデメリットについても併せてお伝えします。
スクリーンリーダーで閲覧可能なPDFファイルとアクセシブルなPDF
そもそも、アクセシブルなPDFとはどのようなものでしょうか。Adobe Acrobat でのアクセシブルな PDF の作成にあるように、
- 画像への代替テキストの追加
- 見出し、段落、テーブルなどに適切なタグを設定
- フォームへのラベル付け
といった設定を行うことで、アクセシブルなPDFファイルを作成することができます。また、画像の代替テキストや文書構造を示すタグは、PDFを作成する前にWordやPowerPointでもととなる文書の画像に代替テキストを設定したり、アウトラインを作成することでも追加できます。
上記の記事に書かれているように、PDFをアクセシブルにするためには、Adobe Acrobatを用いてさまざまな調整を行うことが必要です。しかし、今回はMicrosoft Officeを必要最小限の環境として、スクリーンリーダーで内容を確認するという観点から、どの程度アクセシビリティを考慮したPDFファイルを作成できるのかを検証したいと考えました。そのため、Microsoft Officeの標準機能を利用してPDFを作成しました。なお、今回のPDFの作成に使用したPowerPointのバージョンは、PowerPoint for Office 365 MSO (16.0.13801.20772)となります。
したがって、今回作成するPDFは、アクセシビリティを考慮したものの、WCAGの達成基準すべてを考慮したアクセシブルなPDFではないことにご注意ください。
PowerPointによるPDFの具体的な作成方法
PowerPointをはじめとしたMicrosoft Office製品で作成したファイルからPDFファイルを作成する方法については、いくつかの方法があります(ASCII.jp:Officeに複数あるPDF出力機能はどれがベストか?なども参照ください)。
今回は、[ファイル]タブの[エクスポート]から、[PDF/XPSドキュメントの作成]、さらにその中の[PDF/XPSの作成]を選択し、PDFファイルを作成します([ファイル]タブに[エクスポート]が表示されていない場合は、[その他]から[エクスポート]を選択します)。作成時には、ファイル名などを入力するダイアログで、[最適化]の設定が[標準 (オンライン発行および印刷)]に設定されていることを確認して発行します。この設定を行わないと、PDFのタグ付けが行われません。
なお、前提としてPDFの作成元のPowerPointのスライドは、前回の記事で紹介したアクセシビリティに関する設定を行っているものとします。
作成したPDFファイルの閲覧環境について
PDFファイルの具体的な読み上げ方について説明する前に、今回閲覧を行った環境について触れておきます。事前にいくつかのスクリーンリーダーやブラウザを組み合わせて確認したところ、組み合わせによってはタグの一部が正しく解釈されませんでした。その中でも、NVDAとAdobe Acrobat Readerの組み合わせが、少なくとも今回作成したファイルについてタグを最も正確に解釈して読み上げていると考えられました。そのため、今回はNVDAとAdobe Acrobat Readerを使い閲覧を行いました。
以下で、前回の記事で設定した項目がスクリーンリーダーを用いたPDFファイルの閲覧にどのような影響を与えるのかを説明します。
また参考として、WCAG 2.0の達成基準(リンク先はWCAG 2.0 解説書)とどのように関係するのかについて示しつつ、PDF の達成方法 | WCAG 2.0 達成方法集に記載されている達成方法との対応についても示しました。
タイトルプレースホルダーに一意のスライドタイトルを設定
[タイトル]テキストボックスに入力された文字は、PDFの見出しとして設定されます。NVDAの見出しを移動するためのコマンドを使用することで、スライド間をスムーズに移動できます。
画像や図形への代替テキストの追加
画像や図形にフォーカスを当てると、代替テキストに入力された文字を読み上げます。装飾用に設定された画像については、無視され読み上げられません。
- 達成基準 1.1.1 非テキストコンテンツ
- PDF1: PDF 文書の Alt エントリによって画像にテキストによる代替を適用する
- PDF4: PDF 文書の Artifact タグによって装飾的な画像を隠す
リンクテキストの設定
リンクにフォーカスが当たると、PowerPointで[表示文字列]に入力された文字を読み上げます。
- 達成基準 1.3.1 情報及び関係性
- 達成基準 2.1.1 キーボード
- 達成基準 2.4.4 リンクの目的 (コンテキスト内)
- PDF11: PDF 文書内で Link アノテーションと /Link 構造要素を使用してリンクとリンクテキストを提供する
テーブルにはテーブル見出しを設定する
NVDAの設定でテーブルの行と列の見出しの読み上げを有効にした状態でテーブルにフォーカスを移動すると、テーブルのどの行を閲覧しても見出し行の内容を確認できます。また、テーブル内を移動するためのコマンドも利用できます。
読み上げ順を変更する
PowerPointで設定された順序で内容を読み上げます。
PowerPointからアクセシブルなPDFファイルを作成するメリット・デメリット
PowerPointからのPDFファイルの作成について、以前紹介したマークダウンからの作成方法とも比較しながらメリットやデメリットを説明します。
まずは、作成者側のメリットとして晴眼者の方であれば、レイアウトの調整などを通常のPowerPoint作成の要領で行うことができます。以前に紹介したマークダウンのスライド作成では、マークダウンからスライドを生成しないとどのように表示されるかがわからず細かい調整が難しい、というコメントが新卒研修のスライド作成者からありました。そもそも、マークダウン記法そのものになじみのない方も多くいらっしゃるかと思います。
また、スクリーンリーダーを利用する閲覧者は、Adobe Acrobat ReaderとNVDAを組み合わせることで、適切に構造化された資料を閲覧することができます。そのため、スライドの切り替えやテーブルの確認をプレーンHTMLのようにスムーズに行うことができます。
一方デメリットとしては、PowerPointでアクセシブルなスライドを作成するための項目がそれぞればらばらの場所にあり、設定のための操作が煩雑になってしまいます。また、上述したように適切に閲覧できる環境も限られてしまいます。
まとめ
PowerPointでアクセシビリティに関する設定を行って作成されたスライドから、アクセシブルなPDFファイルを作成できました。また、Acrobat ReaderとNVDAという限られた組み合わせではあるものの、作成したスライドをWebページを閲覧するような感覚でスムーズに閲覧することもできました。
しかし、前述したようにスクリーンリーダーで効率よく閲覧できる環境は限られており、より多くの環境での効率的な閲覧を実現するためには、現状ではマークダウンからのスライド資料の作成を検討したほうが良いのではと感じます。PowerPointでスライドを作成する場合は閲覧者に対し、事前に適切に閲覧できる環境について周知する必要があるでしょう。
作成や閲覧を行うユーザーの状況に応じて、適切な方法を選択することが重要です。