アクセシブルなHTML rubyの提起に思うこと
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)先月に日本DAISYコンソーシアム技術委員会から「Open Letter to Browser Vendors, W3C, and WHATWG: Towards Accessible Ruby」という公開書簡が提出されました。
この書簡ではアクセシブルなHTML ruby(プログラミング言語のRubyと紛らわしいためにこう記しています)の現状についていくつか取り上げられています。
これに関連して、今年のTPACでA role for indicating whether a given ruby represents phoneticsといったissueについてARIA Working Groupで議論されました。さらにこれらの延長で、Internationalization Working GroupにてText to Speech of Electronic Documents Containing Ruby: User Requirementsという文書がEditor's Draftとしてまとめられています。
アクセシブルなHTML rubyという話は興味深いところではありますが、ここでは内容の詳細には触れず、https://www.w3.org/TR/にあるW3C文書のおさらいをしてみようと思います。前述のURLで"ruby"で検索すると、5つの文書がヒットします。
- Ruby Annotation:HTML rubyに関する最も古い文書であり、2001年にXHTMLのモジュールとして定義されたW3C勧告です。ただし、ご存じのとおりXHTML 1.xはSuperseded Recommendationとして廃止されており、Ruby Annotationが現在も実効性のあるW3C勧告なのかは疑わしいと考えます。
- W3C HTML Ruby Markup Extensions:Working Group Noteとして、2014年に発行された文書です。これは当時策定中だったW3C HTML 5.0に対して特に
rtc
要素を追加することを意図しており、(結局HTML Standardに取り込まれていないものの、)W3C HTML 5.1には取り込まれたため、現状ではメンテナンスされていない文書であるという認識です。 - Use Cases & Exploratory Approaches for Ruby Markup:Working Group Noteとして2013年に発行されたものです。これはRuby Annotationと策定途上のW3C HTML Ruby Markup ExtensionsとW3C HTML 5.0の比較を行ったものですが、これもメンテナンスされていない認識です。
- Rules for Simple Placement of Japanese Ruby:Working Group Noteとして2020年に発行されています。jlreq(Requirements for Japanese Text Layout、日本語組版処理の要件)の拡張を試みているものと思われますが、jlreqからはこの文書が参照されていません。ただし、後述のCSS ruby仕様からは参照されています。
- CSS Ruby Annotation Layout Module Level 1:Working Draftとして策定中のスタイルシート仕様です。
このようにマークアップとしてのHTML ruby関連のW3C文書は整理されているとは言いがたい状況です。HTML ruby関連についてW3C文書として発行するのであれば、現状のHTML Standardに対しての関係性の明確化を行ってもらいたいところです。
また、冒頭のEditor's Draftは、この記事の執筆時点で現状のHTML Standardを参照せずに、XHTML2を参照するといういびつな文書になっていますから、その点でも何らかのHTML rubyに関するW3C文書が求められるのかもしれません。
また、読み上げという意味では以前に本Blogで発音に関する2つのW3C技術草案文書についてとして以前に少し書きましたが、APA (Accessible Platform Architectures) Working GroupのPronunciation Task Forceから、文書がいくつか発行されています。
これとは別に、EPUB 3 Text-to-Speech Enhancements 1.0という文書がEPUB 3 Working Groupから発行されています。これらの読み上げに関連する文書についてもEditor's Draftでは言及できていません。
もっとも、アクセシブルなHTML rubyに関する議論は始まったばかりであり、文書が整備されるのはこれからという認識です。読み上げと言う観点ではいくつかのWorking Groupが興味・関心を既に示しているわけですから、関連するWorking Groupを巻き込んでの議論が期待されるところです。