総務省の統計で見る日本企業のWebアクセシビリティの認知度
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)社内SNS経由で知ったのですが、総務省が通信利用動向調査:報告書及び統計表一覧(企業編)という統計データを公表しています。 この中で、「ホームページのJIS規格への準拠の状況の推移」というデータがあり、平成30年(2018年)報告書から、現時点で最新の令和2年(2020年)報告書まで、3年分のデータを閲覧することができます。(平成29年報告書でも調査されていますが、質問項目が異なるものになっています)
質問に対する回答の選択肢は次のようになっています。
- この規格(相当する国際規格などを含む。以下同じ)を満たしている
- この規格を満たしていない、または満たしているか分からないが、満たすための取組を行っている
- この規格を満たすことを目指していないが、何らかのアクセシビリティに関する取組を行っている
- この規格またはアクセシビリティとは何かを知っているが、取組は行っていない
- この規格およびアクセシビリティとは何かを知らなかった
1~3が「Webアクセシビリティを知っていて何らかの取り組みをしている」ということになります。
令和2年の報告書では、全体と業種別の取り組み状況がグラフで示されています。
全体のデータとして、22.6%がWebアクセシビリティを知っていて何らかの取り組みをしている一方で、51.7%はWebアクセシビリティを知らないと回答しています。世の中の半数の企業はWebアクセシビリティを知らないと捉えることができる一方で、世の中の半数の企業はWebアクセシビリティを何らかの形で認知しているともいえます。
業種別では、金融・保険業が全業種と比較すると突出して取り組んでいることがグラフから見て取れます。Webアクセシビリティを知っていて何らかの取り組みをしていると回答した企業は60.3%となっており、半数以上の企業がWebアクセシビリティに取り組んでいると答えています。また、Webアクセシビリティを知らないという回答は17.5%となっており、金融・保険業での認知度の高さがうかがい知れます。
一方で、運輸業・郵便業はWebアクセシビリティを知らないと答えた企業が58.1%にのぼっており、この業種での認知が進んでいないといえます。もっとも、この中には貨物業や倉庫業といった旅客を運送しない業種も含まれているというのはあるものの、一方で運輸業は人の移動を伴う物理的なアクセシビリティに取り組んでいるはずであり、その観点からは個人的にはやや期待外れと感じました。 2019年末に国交省の公共交通機関ガイドラインという記事で公共交通機関のガイドラインが作成されていることに言及しましたが、これからの取り組みに期待したいところです。
情報通信業はといいますと、全体と比較すると良好な数値になっています。Webアクセシビリティを知っていて何らかの取り組みをしていると回答した企業は32.4%であり、Webアクセシビリティを知らないと回答した企業は31.1%でした。テレビや新聞、出版といった業種もここに含まれるため、必ずしもIT企業だけというわけではありません。しかし、IT企業は業種としてもっともWebアクセシビリティに関わると考えられるわけで、「知らない」と答えた企業が金融・保険業のほぼ倍の割合になっています。いわばお膝元の業種での認知度を先に上げていくことが必要なのかもしれません。
ところで、Web関連企業従事者を対象にしたアンケートが2021年に公開されています。(freee・サイバーエージェント・サイボウズ、 Webアクセシビリティに関する調査結果を公開) このアンケートによれば、Webアクセシビリティについて、「内容を知っている」と答えたのが38.0%、「知らない」と答えたのが29.3%という結果でした。調査対象や回答項目こそ違えど、統計の情報通信業では「知っていて何らかの取り組みをしている」が32.4%、「知らない」が31.1%であり、両者のポイントが近い値を示しているのは興味深いところではあります。
調査結果の数値について捉え方はいろいろあると思いますが、Webアクセシビリティの認知度を高めるためにも、取り組みを加速させるような世の中の仕組み作りが求められるのは確かであるといえます。