英語の辞典からみるアクセシビリティ
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)以前にISO/IEC Guide 71にみるアクセシブルという言葉という似たようなBlog記事を書いたのですが、最近アクセシビリティという言葉の説明を改めて考える機会がありましたので、今回は英語の辞書を当たってみました。
オンラインで利用できるOxford Learner's Dictionariesでは、accessibilityとして以下の3つの意味が載っています。
- how easy something is to reach, enter, use, see, etc.
- how easy something is to reach, enter, use, etc. for somebody with a disability
- how easy something is to understand
まず、冒頭の2つをみてみましょう。面白いことに、2は、1とほとんど同じようなことをいっているのが見て取れます(useまで同じ文言です)。
2についてはdisabilityとあるとおりで「障害のある人にとって」というように意味が取れます。障害という言葉にはいくつかの捉え方があると思いますが、ここでは病気や事故などで身体的・精神的にハンディキャップがある状態と考えてみましょう。さまざまな背景や事情がある、障害のある人にとって、到着する・入る・使用するというようなことの容易さというのが2でいうところアクセシビリティということになります。
その一方で、1については、2と比較して人への言及がありません。そのかわりに「見る」が記述されていますが、「容易さ」というところは変わりません。容易というのは、多くの労力や時間を必要としないことといえます。
この1と2をあわせて、Webという条件を設定して考えてみると、いろいろなことがいえそうです。思いつくままにいくつか挙げてみます。
- Webページへの到達のしやすさと捉えるのであれば、そもそもWeb上にリソース(ページ)が存在しないことには、どれだけハイパーリンクをたどっていっても、たどり着くことができない。
- 逆説的に、Webページが存在するだけでアクセシビリティがあるといえる。
- Webページへの到達のしやすさは、ページが存在するだけではなく、ページが存在することを発見できなければならない。Web上で検索エンジンに発見してもらわないことにはたどり着くことができない。
- つまり、検索エンジンに発見してもらえるような、(検索エンジンという)機械が可読である必要がある。これは言いかえると、マシンリーダブルであることがアクセシビリティということができるだろう。
- Webページへの入りやすさと捉えるのであれば、典型的なものとして、ユーザー名とパスワードを使ったログインが必要なページが挙げられる。
- 本人であるという証明のためにそういった仕組みが必要とされる。例えば、銀行のサイトで自分以外の人がログインできてしまうと困ったことになるのは簡単に想像がつく。
- 例えば、ユーザー名とパスワードの代わりに生体認証でログインできれば、アクセシビリティがより高いということことができるかもしれない。
- Webページの使用のしやすさと捉えるのであれば、端的にはユーザビリティといえる。
- アクセシビリティとユーザビリティは同一とはいえないが、共通するものがあるといえる。
- Webページの容易さと捉えたとき、そもそも障害があろうとなかろうと関係なく、アクセシビリティというものがあって、必要とされるものといえる。
少しWebアクセシビリティに触れたことがあるという方であれば、上記のいずれかをどこかで見かけたことがあるのではないでしょうか。これらをまとめて捉えますと、さまざまなWebアクセシビリティの説明の仕方があるものの、アクセシビリティという言葉自身が多義的であるがために、1つの言葉で端的に説明しきるのは難しいといえます。
ところで、3についてまだ触れていませんでした。1や2とは趣向が異なり、「容易に理解できるか」というような意味となります。Webページを読むのは、人かもしれないですし、機械かもしれません。ここで何をもって「容易に理解できる」とするのかについては、いろいろな考え方があるでしょう。1つの考え方としては、この文章を読んでいる方の多数がそうであると思われますが、筆者の第1原語は日本語ですので、ページが日本語で書かれているならば理解するのは容易です。
昨今では機械翻訳を用いて、第1原語以外の原語で書かれたページを閲覧するハードルが下がりました。機械翻訳を使う場合、翻訳エンジンも機械で処理するわけですから、機械可読性というものを備えておく必要があるといえます。
まとめますと、英語の辞典を調べたところ、アクセシビリティという言葉自身が、多くの意味をもつ多義的なものであることがわかりました。何がWebアクセシビリティかと聞かれたときに、端的に答える必要はあるのですが、これもWebアクセシビリティであると追加していえるようになるとよいのかなと考える次第です。