WCAG 2.2の勧告候補が発行されました
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)W3Cのアナウンスにあるとおり、WCAG 2.2の勧告候補(Candidate Recommendation)が2022年9月6日付けで発行されました。(前回の記事、「WCAG 2.2のドラフトが更新されました」もあわせて参照してください)。更新のタイミングとしては、今月に開催される、年に一度のW3Cの会議であるTPAC 2022の前に、文書の更新を行った格好といえます。
さて、勧告候補というステータスになったことで、WCAG 2.1から新たに加わる達成基準(Success Criterion; SC)の数とレベルはひとまず確定したと考えられます。新たに加わる達成基準については、WCAG 2.2に記載されているNew Features in WCAG 2.2のとおりですが、WAIのWhat's New in WCAG 2.2 Draftというページがわかりやすくまとめられています。以下、前回草案からどの程度達成基準に変化があったのかを中心に、達成基準のアルファベット順にごく簡単にまとめてみました。
SC 3.3.7 Accessible Authenticationについては、前回ドラフトではレベルAとされていましたが、今回の勧告候補ではレベルAAとなっており、達成基準の内容も大きく変更されています。さらに、SC 3.3.8 Accessible Authentication (No Exception)として、例外なしのレベルAAAが新設されました。
SC 3.2.6 Consistent Helpについては前回草案と同じく、レベルAとレベルについては変化はありません。達成基準の内容については前回草案より長くなっており、精緻化されていると思われます。
レベルAAのSC 2.5.7 Dragging Movementsについては、前回草案とほとんど変更ありません。
前回草案ではFocus Appearance (Minimum)とFocus Appearance (Enhanced)という2つあったものが、今回の勧告候補ではSC 2.4.11 Focus Appearance(レベルAA)として集約された格好になっています。 内容については精査できていないのですが、例外として、「The focus indicator and the indicator's background color are not modified by the author.」という1文が追加され、ブラウザーデフォルトのインジケーターのままであれば、この達成基準を自動的にクリアできるものと思われます。
ただし、このSC 2.4.11 Focus Appearanceについてはat risk(不安定なもの)とされています。最終的な勧告では削除される可能性があります。
今回の勧告候補では新たにSC 2.4.12 Focus Not Obscured (Minimum)(レベルAA)とSC 2.4.13 Focus Not Obscured (Enhanced)(レベルAAA)という達成基準が追加されています。 おおざっぱには、リンクやボタンがフォーカスを受け取ったときに、それらが隠されないことを求めるものと受け止めています。
SC 3.3.9 Redundant entry(レベルA)については逆に、文言を削っている部分があります。 しかし、前回草案にあったEditor's noteは削除されており、達成基準としては比較的安定した文言となったことが伺えます。
SC 2.5.8 Target Size (Minimum)(レベルAA)については、達成基準の骨格には変化ありませんが、加筆がされているようです。 達成基準に添えられているEditor's noteについては前回草案のままとなっており、まだ達成基準に変更が加わる余地があるのではないかと個人的には考えます。
なお、前回草案にあったPage Break NavigationとVisible Controlsはそれぞれ削除されました。いずれもワーキンググループ内の合意が取れなかったためとされています。
達成基準のレベル別の数についてまとめておきます。
- WCAG 2.2として、WCAG 2.1から追加される達成基準の数が9であることに前回草案から変化はありません
- 適合レベルの内訳は、レベルAが2、レベルAAが5、レベルAAAが2です
- 前回草案では、レベルAが4、レベルAAが4、レベルAAAが1でした
今後のスケジュールについては、W3C WAIのWhat We're Working Onでは、この記事の執筆時点で2022年12月までにWCAG 2.2勧告(Recommendation)を発行するとしています。WCAG 2.2の年内勧告については、8月中旬までの個人的な感覚として、まずあり得ないだろう、「そうであったらよい」という一種の願望であると筆者は高をくくっていました。ところが実際にこうして勧告候補が発行されました。可能性として万が一にもあり得るかもしれないという認識に変わりましたが、at riskとしてマークされたSC 2.4.11 Focus Appearanceについての議論が収束しなければ難しいものになるだろう、というのが今のところの雑感です。
最後に、この勧告候補へのコメントは10月4日まで受け付けられています。コメントは、GitHub w3c/wcagにて受け付けられています。