WCAG2から達成基準4.1.1が削除されそうな話
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)個人的にはなぜこのタイミングに達成基準そのものを削除する話が...と思っているところではありますが、達成基準4.1.1をWCAG 2.2から削除するという話を筆者が確認したのは、11月22日のAG WG (Accessibility Guidelines Working Group)の議事録でした。(実際の議事録:Question 3 - Removing 4.1.1 Parsing from WCAG 2.2)
あまり議論の流れは追いかけられていないのですが、発端は「達成基準4.1.1の書き直しの提案」だったようで(該当issue:Proposal to Rephrase Success Criterion 4.1.1)、ここから議論して改めて整理した結果、この達成基準がなくてもよいという結論に至ったというのがざっくりとした流れのようです。
WCAG 2.1の達成基準4.1.1 構文解析を改めて見てみますと、
マークアップ言語を用いて実装されているコンテンツにおいては、要素には完全な開始タグ及び終了タグがあり、要素は仕様に準じて入れ子になっていて、要素には重複した属性がなく、どの ID も一意的である。ただし、仕様で認められているものを除く。
となっています。HTMLを解析することを踏まえた内容になっているわけです。
焦点となっている達成基準4.1.1については、もともとWCAG 2.0にあった達成基準、つまりWCAG 2.0が勧告された2008年にはすでに存在していたものです。2008年当時は、その1年前に発足した、W3C HTML Working GroupでHTML5の策定作業が進められていた時期であり、HTML5がW3C勧告に至ったのは6年後の2014年になります。
HTMLを解析するときにHTMLの構文エラーを検出した場合、当時はエラーの処理方法が十分に規定されていなかったため、このような達成基準4.1.1が必要だったものの、今日ではHTML Standardとして処理できるためもはや不要である、ということのようです。
12月頭にWorking Group関係者に取られたアンケートの結果(該当ページ)をのぞいてみると、質問自体が達成基準4.1.1の文言を丸ごと削除するのか、あるいは廃止されたことがわかるようにするのか...というような設問になっているのが見て取れます。また、WCAG 2.0/2.1からも達成基準4.1.1を削除することが示唆されています。
達成基準4.1.1が削除されたWCAG 2.2が勧告されたときに、2.0や2.1と整合性が取れなくなることが危惧されるわけですが、確かにWCAG 2.0や2.1からも達成基準4.1.1を削除してしまえば、仕様の整合性自体は取れます。そうすれば、アクセシビリティチェックツールで達成基準4.1.1のありなしのモードを切り替えずに済みます。もっとも、筆者も言われるまでその考え方の発想はありませんでしたが。
とにもかくにも、WCAG 2.2から達成基準4.1.1を削除することはWorking Groupの既定路線で、WCAG 2.0/2.1からも達成基準4.1.1が削除されることが視野に入ってきます。では、これまで達成基準4.1.1として報告していたものをどうすればよいのか?1つの解決方法として、別の達成基準にマッピングするとよいのではないかという意見があります。このアプローチはAdrian Roselli氏のThe 411 on 4.1.1という記事にまとめられています。
筆者の予測ですが、何らかのまとまった見解がAG WGから出されると思われ、改めて達成基準4.1.1を削除したWCAG 2.2の草案が発行されるものと思われます。いずれにせよ、WCAG 2.2が勧告となるのが遅くなるのは確かでしょう。