障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(改定案)へのパブリックコメントを提出しました
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)昨年12月15日から今年1月13日までに募集されていた障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(改定案)に関する意見募集についてに関して、有志と議論した上で、当社としてパブリックコメントを提出しました。パブリックコメントの内容は次のとおりです。
「3 合理的配慮」 -「 (3)環境の整備との関係」において、 「ア 環境の整備の基本的な考え方」では、「障害を理由とする差別の解消のための取組は、法やいわゆるバリアフリー法等不特定多数の障害者を対象とした事前的な措置を規定する法令に基づく環境の整備に係る施策や取組を着実に進め」とある。
しかし、情報分野では、バリアフリー法に相当するような、特にウェブサイトやモバイルアプリを対象とした「情報アクセシビリティ」に関して、技術的な要件を定めた法律は制定されていないために「法令に基づく環境の整備」が困難であると認識している。「情報アクセシビリティ」に関する法整備に向けた議論が今後進展することに期待する。「イ 合理的配慮と環境の整備」の例示の2ポツ目について、以下のような修正を提案する。
オンラインでの申込手続が必要な場合に、手続を行うためのウェブサイトが障害者にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求める申出があった場合に、求めに応じて電話や電子メールでの対応を行う(合理的配慮の提供)とともに、障害者のオンラインでの申込手続がウェブサイトのみで完結できるように、ウェブサイトの改修を行う(環境の整備)。
その理由を以下に示す。
- 「オンライン申込みの際に不便を感じることのないよう」について、障害のある人でも、オンラインでの申込手続きが、オンラインで完結できるようにすることが重要であると考える。しかし、現状の文言からはそのことを十分に提示できていない。
- 「改良」については、「利用しづらい」サイトを相対的に使いやすくすることを意味するものと思われるが、相対的に使いやすくなったとしても、障害のあるなしに関わらずサイトの利用が可能になるとは限らない。そこで、ある一定の基準を満たすことが要件として求められることになる。その要件を満たすために必要な修正を行うという意味で「改修」とすべきである。
そもそもの話として、この意見募集の対象である「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(改定案)」とは何なのでしょうか。それは基本方針(改定案)自身の冒頭に以下のように記載されています。
政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成 25 年法律第 65 号。以下「法」という。)第6条第1項の規定に基づき、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を策定する。基本方針は、障害を理由とする差別の解消に向けた、政府の施策の総合的かつ一体的な実施に関する基本的な考え方を示すものである。
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律というのは、障害者差別解消法として知られる法律です。この法律の第6条第1項には以下のようにあります。
第六条 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。
障害者差別解消法は、「合理的配慮」を義務とし、その前段階としての「環境の整備」を努力義務とする法律です。基本方針は、合理的配慮を提供するにあたって、適切な対応をするためにどういったものが必要とされるのか、ということが記載されています。
今回のパブリックコメントの対象となった基本方針(改定案)では、合理的配慮と環境の整備の関係性について、とくにWebアクセシビリティについての具体的な言及がなされています。そのため、Webアクセシビリティに関係した内容に対して、コメントを行ったというのが経緯となります。
パブリックコメントでの「ア 環境の整備の基本的な考え方」については、WCAG 2.0や2.1といった技術仕様は知られていますが、例えばWCAG 2.0のレベルAを満たさなければならない、と日本の法律で定められているわけではありません。その状況に対して、法律の整備が議論されることを期待するという趣旨です。
「イ 合理的配慮と環境の整備」については、「オンラインでの申込手続」や「ウェブサイト」について、具体的なWebサイトの対応例が示されています。基本方針(改定案)では、以下のように示されています。
オンラインでの申込手続が必要な場合に、手続を行うためのウェブサイトが障害者にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求める申出があった場合に、求めに応じて電話や電子メールでの対応を行う(合理的配慮の提供)とともに、以後、障害者がオンライン申込みの際に不便を感じることのないよう、ウェブサイトの改良を行う(環境の整備)。
この対応例に対してより実態に沿う文言を提案したものになっています。
最後になりますが、筆者の個人的な感想として、業務に関連した政府施策に関するパブリックコメントについて、筆者が提出に携われたことに大きな意義を感じています。
このパブリックコメントの提出先での取り扱いはさておき、しっかりと意見を届けていくことが肝要だと思います。この機会にこういった方面に興味を持っていただける方が少しでも増えれば幸いです。