WCAG 2.2の勧告候補が更新されました
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)W3Cからの公式なアナウンスはありませんが、2023年1月25日付けのWCAG 2.2の勧告候補(Candidate Recommendation)が発行されました。(前回の記事「 WCAG 2.2の勧告候補が発行されました」もあわせて参照してください)。
前回の勧告候補からの変更点としては、去年12月にWCAG2から達成基準4.1.1が削除されそうな話で書いたように、達成基準4.1.1が削除されたのがもっとも大きなものとなります。実際にParsing (Obsolete and removed)という見出しに変更されており、達成基準の内容も削除された状態になっています。2.5.8 Target Size (Minimum)の中のSpacingとInlineに文言の変更が行われているのもポイントでしょう。その他比較的軽微な変更がいくつか入っています。前の勧告候補からの変更点については、Change Logでまとめられています。
なぜ達成基準4.1.1が削除されたかについての公式の回答は、WCAG 2 FAQのWhy is success criteria 4.1.1 Parsing obsolete in WCAG 2.2? What about Parsing in WCAG 2.0 and 2.1?に記載があります。ここに記載されていることをかいつまんでみますと、
- 昔の支援技術は独自にHTMLを解析していたが、現在の支援技術はブラウザーが解析したものを利用している
- 達成基準4.1.1の問題は、達成基準1.3.1「情報及び関係性」や達成基準4.1.2「名前 (name) ・役割 (role) 及び値 (value)」でも問題となる
- よって、達成基準4.1.1の規定は不要になった
- 既に勧告になっているWCAG 2.0や2.1も達成基準4.1.1について更新するかもしれない
とあります。
ところで、このFAQにはDoes W3C plan to send WCAG 2.1 or WCAG 2.2 to ISO for endorsement?という項目がいつの間にか追加されていることに同僚が気づきました(ログをたどっていくと去年の3月に追加されていたようです)。要旨としては、WCAG 2.1はISOにするつもりはなく、WCAG 2.2をISOにするつもりということです。
ご存じの方も多いとは思いますが、2023年時点では、WCAG 2.0はISOであり、ISOがJISになっているという構図です。ですので、ISOが改正されればJISも更新されるというのが1つのシナリオになっています。もちろん、WCAG 2.2をISOにするには、W3Cで文書の策定を完了した、勧告(Recommendation)になっている必要があります。
現在のWCAG 2.2の文書のステータスとしては勧告候補であるわけですが、前回の勧告候補はCandidate Recommendation Snapshot(以下CR)であり、今回の勧告候補は、Candidate Recommendation Draft(以下CRD)という位置付けになっています。この2つのステータスの違いはDocuments published at W3Cに簡単に説明されていますが、ものすごく大雑把に言ってしまうと、W3Cで必要なレビューを受けたものがCRであり、レビューを受けていないものがCRDという位置付けになります。今回はレビューを受けていないものであり、勧告に進むためには、一度所定のレビューを受けてCRのステータスとなる必要があります。では、勧告になるまでどのようなスケジュール感になるのでしょうか。
少なくとも、今回の勧告候補のコメント受付期間である2月17日までは、CRになることはないと考えてよいでしょう。もう一度CRDとして更新されることはあるかもしれませんが、そこまで高速に文書が更新されるイメージが個人的には湧いてきません。
CRの次のステータスは勧告案(Proposed Recommendation)となり、その次が勧告になりますが、勧告案に進むためには、A. Candidate Recommendation Exit CriteriaとB. Items at Riskに書かれている条件を満たす必要があります。
執筆時点のWhat's New in WCAG 2.2 Draftでは、4月に勧告にするスケジュールであることが示されていますが、上記の条件をすべてクリアした上で勧告案にステータスを進めて、4月に勧告にすることができるのか...については怪しいところでしょう。