PDF/UA-2という規格の話
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)CSUN 2023のセッションを斜め読みしていたところ、PDF/UA-2: What's New?というものが目に付きました(セッションのスライドが公開されています)。このPDF/UA-2とは何なのでしょうか。
PDF/UA-2は、ISOの規格策定ルールのもとで策定中の規格であり、以前はISO/CD 14289-2.4として作業されていました(詳しい理由は不明ですが、削除されています)。現在はISO/DIS 14289-2として開発中です(参考:ISO/IEC規格の開発手順)。3月時点ではDIS投票期間中であり、早くて年内にはISとして発行されていると思われます。
ISO/DIS 14289-2は、「Document management applications -- Electronic document file format enhancement for accessibility -- Part 2: Use of ISO 32000-2 (PDF/UA-2)」という規格名になっています。ISO 32000-2というのは、PDF 2.0の規格名です。大雑把に言ってしまえば、アクセシビリティのためにPDF 2.0に制約を加えた規格ということになります。
ところで、PDF/UA-2という規格があるのならば、PDF/UA-1という規格があるのではないか、と思われた読者もいるでしょう。それはそのとおりで、PDF/UA-1は、ISO 14289-1として発行されています。規格名は、「Document management applications -- Electronic document file format enhancement for accessibility -- Part 1: Use of ISO 32000-1 (PDF/UA-1)」です。ISO 32000-1は、PDF 1.7の規格であり、これは普及しているPDFのバージョンです。PDF/UA-1は、PDF/UA-2と同様に、アクセシビリティのためにPDF 1.7に制約を加えた規格という位置付けです。(PDF/UA-1がどういうものなのかについてはこの記事では詳しく説明しません。英語版WikipediaのPDF/UAやPDF AssociationのPDF/UA in a Nutshellを参照してください。)
ところで、PDF 2.0とPDF 1.7の関係性はどのようなものでしょうか。WikipediaのHistory of PDFによれば、
Elimination of all proprietary elements, updating, enhancing and clarifying the documentation, and the establishment of tighter rules. PDF 2.0 also includes many new features.
とあります。PDF 1.7の(Adobeによる)プロプライエタリな機能を削除して、新機能を加えたのが2.0ということになります。ですので、PDF 1.7と2.0で完全な互換性があるものではありません。
ここまでをまとめますと、
- PDF/UA-2は、PDF 2.0
- PDF/UA-1は、PDF 1.7
- PDF 2.0は1.7の後継規格だが、完全な互換性はない
これは言いかえると、PDF/UA-2とPDF/UA-1を同時に満たすことはあり得ないことになります。また、PDF/UA-2はPDF/UA-1を置き換えるものでもないことになります。
そのような前提はありますが、セッションスライドでは、PDF/UA-2とPDF/UA-1の比較がされています。いくつかのPDFタグが追加され、また許可されなくなっており、これは想像ができるところです。しかし、ARIAロールが使えるようになること、またMathMLがサポートされるというのは注目に値するものといえます。
実際にISO/DIS 14289-2のプレビューでは、Normative referencesでDPub ARIA(参考日本語訳)が参照されています。非マークアップ言語であるPDFがマークアップ言語の機能を取り込んでいくともいえるわけですが、ARIAを取り込むことで支援技術との親和性が高まると同時に、DPub ARIA仕様の存在感も高まっていくとも捉えられるでしょう。また、PDFとEPUBの親和性も上がると思われます。
2月にはMicrosoft EdgeにAcrobat Readerが組み込まれるという発表もありました(プレスリリース)。ゆっくりと、そして確実にPDFをとりまく環境が変わりつつあるといえそうです。