EPUB Accessibility 1.1が勧告案に
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)W3Cからアナウンスがあったように、EPUB Accessibility 1.1が勧告案(Proposed Recommendation)となりました。前のバージョンとなるEPUB Accessibility 1.0は、もともとはEPUB推進団体であるIDPFで策定されていたものでした(現在はW3Cに統合されています)。そのためEPUB Accessibility 1.0は、Member SubmissionというW3Cの文書策定プロセス外のステータスとして発行されています。
なお、EPUB Accessibility 1.0は、ISO化を経て、JIS X 23761:2022として規格化されています(EPUB AccessibilityのJIS規格化もあわせて参照してください)。
一方EPUB Accessibility 1.1は、W3Cの文書策定プロセスに沿って、勧告(Recommendation)化されるものです。勧告案は勧告の1つ前のステータスであり、勧告案から勧告に文書のステータスを進めるに当たって技術的な変更は許されません。そのため、勧告案は技術的には固まった状態であるといえます。
では、EPUB Accessibility 1.0から1.1への変更としてはどのようなものがあるのでしょうか。
Change logには実質的な変更点が挙げられていますが、その中で最も目に付くものは、WCAG 2への適合性要求でしょう。
EPUB Accessibility 1.0では、「EPUB出版物は、WCAG 2.0レベルAを満たさなければならない。WCAG 2.0レベルAAを満たすことが推奨される。」というものであったのに対し、EPUB Accessibility 1.1では以下のように変更されています。
- 最低限WCAG 2.0を満たさなければならない。WCAG2の最新バージョンを満たすことが強く推奨される。
- どのWCAG2を選んだとしても、レベルAを満たさなければならない。レベルAAを満たすことが強く推奨される。
言いかえると、最低限WCAG 2.0レベルAが要求されるわけですが、今年後半には勧告になるだろう、WCAG 2.2レベルAAを満たすことが強く推奨される、ということになります。
このような書きぶりになったのは、国によって要求されるレベルが異なることにあるため、とEPUB Accessibility 1.1から読み取ることができます。
現にEUのDirective 2019/882(EUのアクセシビリティ指令についてもあわせて参照してください)であったり、米国のSection 508であったりと、各国の法律によって求められるものが変わってきます。
その一方で、日本に目を向けますと、法令上で、何らかの技術規格を満たさなければならないとは、どこにも書いていない状況です。それ以前の問題として、電子書籍のEPUB規格のアクセシビリティを満たすためには、Webのアクセシビリティ規格であるWCAGに取り組んでいく必要があるということをどこまで世の中に認識してもらっているだろうか、という疑問を最近抱きつつあります。
電子書籍のEPUB規格と、Webアクセシビリティ規格WCAGは密接に関係しているということを今以上にアピールしていく必要があるのかもしれません(参考:「日本DAISYコンソーシアム共催: 普通の書籍が読めない人に読書機会を提供する: EPUB電子書籍のアクセシビリティ」に登壇)。