視覚障害者の読書環境の一例
アクセシビリティ・エンジニア 大塚先日、当Blogで、EPUB Accessibility 1.1が勧告案にという記事が公開されました。規格の詳細についてはリンク先の記事などを参照いただきたいのですが、EPUB Accessibilityには、その名前のとおりEPUB形式の書籍(以下「EPUB書籍」)をアクセシブルにするための要件が記載されています。そして、EPUB書籍がこのような規格に適合してアクセシブルになることには、スクリーンリーダーユーザーにもメリットがあることは漠然と想像いただけるかと思います。しかし、現状のスクリーンリーダーユーザーの読書環境については、ご存じない方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は一例として、私が日常的にどのように読書をしているかをお伝えします。
私が現在読書に最も利用しているのはAmazonのKindleで、購入した書籍の閲覧にはiOS版のアプリを利用しています。これは、Kindleストアで販売されている多くの書籍がiOSのVoiceOverでの読み上げに対応しているためです。なお、読み上げに対応していることは、書籍ページにある「Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能)」の項目に「有効」の記載があるかどうかで確認できます。
私は小説やノンフィクション、実用書などを読むことが多く、こうした書籍は大半がテキストによって書かれているため、読み上げから内容を問題なく把握できます。一方、多くの漫画や一部の雑誌など、固定レイアウトで作成された書籍については読み上げに対応しておらず、読むことができません。内容の理解に視覚的な要素が必須ともいえる漫画はともかく、テキスト情報も多く含まれるような雑誌が読み上げに対応していないことには、もどかしさを感じてしまいます。
このように、一部読み上げに対応していない書籍があるとはいえ、テキストベースで書かれた多くの書籍を簡単に購入して読むことができるようになったことは、私にとって本当にインパクトの大きい出来事でした。Kindleが利用できるようになるまで、点訳された本や録音図書を読んでいたのですが、こうした書籍は作成に多くの時間がかかったり、作成に携わる人数が限られていることもあり、読むことのできる書籍の選択肢は限られていました。Kindleが利用できるようになり、読める書籍の選択肢が広がったことはもちろん、個人的には発売直後の書籍が読めるようになったことにも、感動しました。
冒頭に触れたEPUB書籍については、技術的な内容が多く書かれたものや学習に必要なものなど、何度も反復して読み返したり、頻繁にキーワードをメモする必要がある場合などにPCで閲覧することが多くあります。閲覧には、Thorium ReaderとNVDAを利用しています。そうした状況では、素早く見出し間を移動するなど、Webページを閲覧するように書籍を読むことができるEPUB書籍が適していると感じています。一方、現状アクセシブルなEPUB書籍を見つけることが難しかったり、アクセシブルな閲覧環境についての情報が限られているという課題もあると感じています。
今回は、一例として私の読書環境についてお伝えしましたが、視覚障害者の読書環境はさまざまです。EPUB書籍がよりアクセシブルになったり、閲覧環境がより整い、私を含めより多くの視覚障害者の読書の幅がさらに広がることに期待したいです。