セミナー「改正障害者差別解消法とWebアクセシビリティ」でお寄せいただいたご質問への回答
エグゼクティブ・フェロー 木達昨日オンラインで開催したWeb担当者のためのピンポイント講座、改正障害者差別解消法とWebアクセシビリティには大変多くの方々にご参加いただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。また、質疑応答の時間ではすべてのご質問に回答することができず、申し訳ございませんでした。
本記事では、開催後にアンケートへのご回答を通じてお寄せいただいたものを含め、いただいたご質問にお答えさせていただきます(セミナーの時間中に回答できたものについては割愛しております、あらかじめご了承ください)。字数の兼ね合いから、回答にご満足・ご納得いただけない場合もあるかと思いますが、その場合には是非お気軽にお問い合わせをいただければ幸いです。
アクセシビリティに対する意識の高さを鑑みると、日本国内サイトよりグローバルサイトを優先的に着手すべきでしょうか?
おっしゃる通り、そのような考え方で優先順位を定義することには、一定の合理性があると考えます。しかし、最終的にどのサイトで優先的にアクセシビリティ向上に取り組むべきかについては、単に法制化の度合いのみならず、実際のユーザーの利用状況(サイトへのアクセス数やユーザーから寄せられる「使えない」「使いにくい」といった声の多寡など)や、ビジネス戦略なども総合的に勘案すべきかと思います。
環境の整備についても今後義務化は予想されますでしょうか。
将来的に、環境の整備が努力義務ではなく法的義務となる可能性はゼロではないと私は思いますし、またそうなって欲しいと個人的に期待もしています。といいますのも、セミナーでご紹介したとおり2020年版のDAREにおいて日本のデジタルアクセシビリティはかなり劣っていましたし、行政機関や公共性の高いサービスを提供する事業者においては特に、事業そのものと環境の整備が不可分と考えるからです。
WEBアクセシビリティ対応は、重要度が高く、できることからチェックシートを作って対応しています。 対応すべきことは、どのように抽出するのがおすすめでしょうか?
できることから、という現実的な対応は、大変素晴らしいと思います。対応すべきことについては、基本的には世界中で利用されているW3Cのガイドライン、WCAG2の達成基準から取捨選択する方法が考えられます。まずは適合レベルAのものから順に取り組んでいただき、すべてに継続的に対応できたならば、続いて適合レベルAAの達成基準にも取り組んでいく、といった具合です。なお、WCAGの最新バージョンは2.1ですが、近く2.2が勧告予定である点にはご注意ください。
他言語対応しているWebサイトのアクセシビリティ対応は外国の基準で制作した方が良いのでしょうか?
現地法人が運営しているWebサイトであれば、その現地法に従う必要があります。しかし現地法に従うといっても、実際にWebアクセシビリティの文脈で取り組むべきこととしては多くの場合W3Cのガイドライン、WCAG2に適合するようWebコンテンツを制作ないし修正することだと思いますから、国や地域によって取り組む内容が大きく変わってしまうようなことは無いと私は思います。どの国にどのような関連法が存在するかは、Web Accessibility Laws & Policies | Web Accessibility Initiative (WAI) | W3Cのページが参考になると思います。
アクセシビリティを担保したいが、例えば以下が上手くいかず、既存のページの表示が逆に見にくくなるが、どう対応するのがベストなのか?
・テーブル結合した表が上手く読み上げられない
・「-」や「~」などの記号の読み上げがうまくされず使用NGにした方がよいのか
スクリーンリーダーの読み上げ方に、過度に配慮する必要はないと思います。なぜなら、同じ実装であってもスクリーンリーダーの種類やバージョン、設定によって読み上げ方は変わり得ますし、そもそも現在の技術レベルでは誤読の類を完全に無くすことはできないためです。しかしながら、表の構造については、できるだけシンプルになるよう心がけていただくことが、スクリーンリーダーを使わないユーザーにとっても概ねアクセシブルになりますから、そのように取り組んでいただけたらと思います。
海外からアクセスする可能性のあるサイトについて(アメリカなど)は現地の法律に基づくアクセシビリティ対応が必要かと思いますが、具体的にどちらで情報を取得されていますか。
Web Accessibility Laws & Policies | Web Accessibility Initiative (WAI) | W3Cが参考にはなります。必ずしもすべての国・地域が網羅されているわけではありませんし、また必ずしも最新の法制化状況が反映されているとも限りませんが、私はよくこのページをご紹介しています。
webアクセシビリティ準拠=環境整備 努力義務ということですが要求があった内容が、webアクセシビリティ準拠(AAAなど)となる内容の場合は、やはり合理的配慮範囲内となり、法的には、対応(義務)や処罰の対象になりますか?
Webサイト上にあるバリア、障壁を取り除くのに、Webサイトの改修は必ずしも必要というわけではありません(短期的に改修することで障壁を除去できるなら、それがベストですが)。それこそは合理的配慮の「合理的」の意味であり、対応を求めた障害当事者にとって現実的かつ実行可能なWebとは別の手段を提供することで同じゴールを達成できるのであれば、その方向で調整していただければ良いと思います。
対応レベルの目標設定が重要ということがわかりました。ありがとうございます。 その上で、費用対効果を加味して目標設定する必要があると思うのですが、その時の検討軸や、参考となる基準、基準値などあれば教えてください。また段階的に対応する時の、コツを教えてください。
先に「段階的に対応する時の、コツ」についてお答えしますと、可能なことから着実に実行していただくのが良いと思います。高すぎる目標は、かえって継続性を損ないがちですので、たとえば「画像には代替テキストを提供する」ということだけからでも、組織にしっかり根付かせることが肝要と考えます。そのうえで、W3CのガイドラインであるWCAG2の達成基準で適合レベルAのものから順に取り組んでいただく(すべての適合レベルAの達成基準に継続的に対応できたならば、続いて適合レベルAAの達成基準にも取り組んでいく、といった具合)のが良いと考えます。
今日のセミナーからすると、特に「Webアクセシビリティでこういう対応をWebサイトでとっておくと法改正に対応できた」というよりは、サイト上で対応できない場合、他の手段(電話などをもって対応できれば、法改正に対応できているという理解でよろしいでしょうか?
おっしゃる通りで、Webサイトの改修(=アクセシビリティ向上)による対応が短期的に困難であり、なおかつ対応を求めた障害当事者にとって現実的かつ実行可能なWebとは別の手段を負担が重すぎない範囲で提供することで同じゴールを達成できるのであれば、その方向で調整・合意形成を行うことが、合理的配慮の提供に相当します。
障害者のため、、だとどうしても「余計なこと」だと思われるのか、社内では大きな動きにはならないので、そうではなく「自分たちのビジネスゴールにも合致した活動である」というアプローチをしたく、その辺の情報を得たいです。
まさに、そのようなアプローチを実現していただくためのご支援として、当社ではWebアクセシビリティ コンサルティングや社内教育支援、出張アクセシビリティセミナーといったサービスをご提供していますし、また不定期にWebアクセシビリティ入門セミナーを開催しておりますので、ぜひ個別にお声がけをいただくか入門セミナーへご参加いただけたら幸いです。
今まではウェブサイトは合理的配慮に入るという説明だったかなと記憶しています。環境の方に入る整理になった経緯についての理由を伺いたいです。
情報アクセシビリティ(Webのアクセシビリティを含む)は、障害者差別解消法の改正前も改正後も、変わらず環境の整備の一環として求められてきました。もちろん、Webサイトのアクセシビリティを向上させることが配慮として求められ、なおかつそれが実現可能な(合理的な)ケースというのもあり得ますが、基本的な考え方は先述のとおりです。従い、私の過去のセミナーで誤解を与えてしまう表現、説明がございましたら、お詫びいたします。申し訳ございませんでした。
障害者当事者から見ると、Webサイトの使いやすさはもちろんのことですが、ECサイトにおける決済方法やID/Passwordなど認証確認におけるバリアが指摘されることがあります。事業者としては前者は自社努力で改善しうることですが、後者はなかなか難しいと思います。この点について、ご私見でも構いませんのでご教授いただけると幸いです。
決済や認証につきましては、それを専門とするベンダーのサービスを組み込むケースが少なくないと思います。ですので、ベンダーを選定される際にしっかりアクセシビリティ品質について確認を行ったり、導入テストの段階でアクセシビリティ検証を実施するなどし、導入後になって初めてアクセシビリティ上の問題が明るみになるようなリスクを最小化していただくことが必要と思います。提案依頼書、いわゆるRFPのなかで明確に一定程度のアクセシビリティ品質をベンダーに求めることも、有効かもしれません。