2023年8月時点のWCAG 3.0の状況について
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)先月の話になりますが、WCAG 3.0の作業草案(Working Draft)が更新されていました。
2021年6月にWCAG 3.0の草案が更新でも書いているのを思い出しましたが、相変わらずChange logのセクションは見出しのみ存在していて、内容は空という状況が続いています。何がどう変わったのか、しっかりと記録してもらいたいところです。 さて、1つ前の草案から実際にはどう変わったのかですが、少なくとも表面上は章の構成自体が大幅に変更されています。また、一見すると、進展はないように見える箇所もあります。例えば、前の草案では3章にあったGuidelinesではいくつかの例が示されていましたが、今回の草案では2章にあるGuidelinesでは、見出しのみになっています。その意味では、前進したというよりかはむしろ後退したようにも捉えられます。
ところで、このGuidelinesの章には、見出し付近に「Placeholder」というステータスが付与されています。このステータスについては、1.2 Section status levelsで5つの段階で言及されています。「Placeholder」については5つのうち、最初の段階のもので、以下のように記載されています。
Placeholder: This content is temporary. It showcases the type of content or section to expect here. All of this is expected to be replaced. No feedback is needed on placeholder content.
これは簡単に言ってしまえば、仮置きという状態とのことです。今回の草案でのGuidelinesは、いわば「イメージ」であって、具体的には一切決まっていないと捉えることができます。前回までの草案では、Guidelinesの中身を記載してみたものの、具体的な記述がかえって混乱を招くと判断されたのでしょうか。もしかしたら、WCAG2でいう達成基準について、具体的なものを想像しながらWCAG 3.0を考えていく、ということを現段階であまりしてほしくないのかもしれません。いずれにせよ、何も決まっていないわけですから、そのような捉え方をしないのがよいのでしょう。
ステータスについては、今回の草案で3番目の「Developing」とされるものがもっとも進んだものであり、3.3 Outcomes and methodsと3.4 Assertions and proceduresという2つの節に付与されています。
この2つの節について説明されているのが、3.2 Approaches to conformanceという節です(3.2節には何もステータスが付与されていないようですが、3章には2番目のステータスにあたる「Exploratory」が付与されています)。具体的には以下のように書かれています。
There are two main approaches to evaluating accessibility that are promising. There are also detailed ideas that support these approaches. The two main approaches are:
- Outcomes with tests: Outcomes are verifiable statements that allow testers to reliably determine if the content being evaluated satisfies the user needs identified in the Guideline. Outcomes are addressed in Section 3.3.1 Outcomes. Tests are addressed in Section 3.3.2 Testing Outcomes.
- Assertions and procedures: Assertions are attributable statements by a person or organization that they followed a procedure to improve accessibility. Assertions are addressed in Section 3.4.1 Assertions.
3.3節の「Outcomes」はこれまでのWCAG 3.0の草案にも出てきましたが、ここではGuidelineで決められたものを満たしているかどうかについて、アクセシビリティのチェックをする人が確実に検証可能なもの、というように定めています。
一方で、3.4節の「Assertions」は、これまでのWCAG 3.0の草案にはなかったものです。これは、アクセシビリティを向上させるために、ある手順(例えばユーザビリティテスト)を行ったという表明となります。
「Assertions」については、3.4.2 Using assertionsを斜め読みする限りでは、あるGuidelineに対して許可される場合に、testの代わりにAssertionを利用できるというようなアプローチを想定しているようです。
上記の引用箇所の直後には、
There are additional ideas that support these two approaches and can be used or combined in many different ways.
とあり、2つをサポートする追加のアイデアとして、
が挙げられています。果たしてConformance levelsが「追加のアイデア」という位置付けでよいのかどうかが謎ですが、いずれにせよそのように記載されています。また、上記の追加のアイデアのリストから、なぜか3.8 Percentagesが飛ばされていますが、ここではあまり深く考えないことにします。
このように若干の進展があるものの、前回の草案の発行が2021年12月であり、1年半以上の期間が開いての更新となると、あまりよいペースには見えません。WCAG 3.0の具体的な姿が見えてくるのはまだまだ先のことだと思われます。
もっとも、当Blogで逐次お伝えしているとおり、WCAG 2.2の策定が並行して行われています。WCAG 2.2に関しては先月の記事で「8月にも勧告へ」と書きましたが、残念ながら現時点では勧告には至っていません。WCAG 3.0の進展については、ガイドラインの策定を行っているワーキンググループがWCAG 3.0に注力できるのかどうか次第といったところでしょう。
なお、現時点でのWCAG 3 Introductionに掲げられているTimelineでは、
We plan to publish updated drafts every 3-6 months.
とされてはいます。次の草案について、長い間隔が置かれずに更新される可能性に期待することにしましょう。