「WCAG 2.2 解説セミナー」でお寄せいただいたご質問への回答
エグゼクティブ・フェロー 木達去る12月14日、オンラインで開催したWCAG 2.2 解説セミナーには、大変多くの方々にご参加いただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。また、質疑応答の時間ではすべてのご質問に回答することができず、申し訳ございませんでした。
本記事では、参加をお申し込みいただいた際に寄せられた質問(ただしセミナー時間中に回答できたものは除く)や、開催後にアンケートへのご回答を通じてお寄せいただいた質問への回答を、掲載させていただきます。WCAG 2.2とは関連性の低いご質問にもお答えしておりますが、回答にご満足・ご納得いただけない場合には、ぜひお気軽にお問い合わせをいただければ幸いです。
アクセシビリティは何をどこまでやればよいのか
一律の正解はございません。個人的には最低限、WCAG2で適合レベルAの達成基準を満たすよう取り組んでいただきたいと思いますが、アクセシビリティ品質をそれ以上どこまで求めるかは取り扱う製品やサービス、組織の規模や成熟度、市場環境などを総合的に勘案のうえ定義する必要があるかと思います。ご相談いただければ当社のコンサルティングサービスのご提供が可能です。私は、目指すべきアクセシビリティ品質の高低よりむしろ、取り組みの継続性こそ大切ではないかと思います。セキュリティと同じく、Webサイトを運営し続ける限り、常にコンテンツのアクセシビリティ確保に取り組んでいただく必要があると、ご理解いただけたら幸いです。
ウェブアクセシビリティは今後も継続的に取り組む課題という認識。組織の体制として、専任を設けた方が良いのか?どのような体制が望ましいのか。
組織の規模が大きいようであれば、専任の方がいらっしゃったほうが、取り組みを推進しやすいと思います。そして、規模がそれほど大きくなく専任担当者の設置が難しい場合、兼任であっても誰かしら組織内で「わかりやすい」旗振り役がいらっしゃったほうが、望ましいと私は考えます。専任であれ兼任であれ、大切なのは組織内でWebサイトにかかわるすべての担当者の方々と調整や分業できるよう、連携のための横串をしっかり通すことだと思います。そうした組織横断的な横串組織を構成することが、体制的には望ましいと考えます。
来年法改正に向けた優先課題、企業の取り組みについての進め方を知りたい。
ご質問は、いわゆる障害者差別解消法についてのものと理解します。本セミナーはWCAG 2.2のご紹介に特化した、時間の比較的短いセミナーですので、改正障害者差別解消法への言及は控えさせていただきました。年明け、1月18日にそれに特化したセミナーを開催しますので、よろしければそちらへの参加をご検討いただければと思います。あわせて、コラム「続・障害者差別解消法の改正とWebアクセシビリティ」をお読みいただけますと幸いです。
3.3.8や3.3.9の代替手段というのは、ICTを用いた代替手段以外(例えば電話や対面など)でもよいのでしょうか?(すべてオンラインで解決しなくてもよいのか、ということが知りたいです)
WCAGはあくまでWebコンテンツのアクセシビリティについてのガイドラインであり、達成基準3.3.8や3.3.9で言及されている代替手段とは、オンラインで実現可能な代替手段と認識しています。もちろん、Web以外の媒体を介した手段を提供できれば、そのほうが総じて望ましいとは思いますが(障害者差別解消法でいうところの「合理的配慮」に相当し得ます)、その存在が当該達成基準の適合・不適合の判断には影響しない認識です。
支援技術がブラウザと協調するものが多くなってきている中、「フォーカス外観の調整」は支援ツールでもあるでしょうし、「冗長な入力」はブラウザに保存機能がありますが、サイト側で独自対応することは、アクセシビリティ・オーバーレイにならないのでしょうか?
アクセシビリティ オーバーレイについては、コラム「アクセシビリティ オーバーレイに対する見解」で紹介したように、サードパーティのスクリプトを読み込むことで画面表示のカスタマイズなどを行うUIを提供するもの、という認識です。コンテンツを提供する側が主体的にアクセシビリティを高める施策とは、基本的に異なります。
EAA(欧州アクセシビリティ法)ですが、WCAG 2.2のAAに準拠していれば問題ないと考えて大丈夫でしょうか?EU各国の法整備は、まだまだこれからだと思いますが。
何をもってして「問題ない」とするかは、判断の難しいところかと思います。しかし、2025年にはEN 301 549規格が更新、WCAG 2.2が組み込まれることが予想されています。従い、断言はいたしかねますが、今から(WCAG 2.1ではなく)WCAG 2.2に基づく対応を検討することは、有意義かつ有効ではないでしょうか。Web Accessibility Directive -- Standards and harmonisation | Shaping Europe's digital futureを参照いただいて、今後の方針をご検討いただけたらと思います。
2.4.11隠されないフォーカスについて。満たしている参考になるサイトがあれば、教えていただきたいです。またアクセシビリティ対策で素晴らしいサイトも知りたいです。
基本的にスティッキーヘッダーやスティッキーフッター、ダイアログといった、コンテンツの一部を覆い隠してしまう可能性のあるUIがページ中に存在しないページであれば、達成基準2.4.11に適合しているはずです。アクセシビリティ対策で素晴らしいサイトにつきましては、具体的な例示はご容赦願えればと思います。
今後アクセシビリティ対応への重要性が増してくると思いますが、アクセシビリティエンジニアの育成・教育プログラムやアクセシビリティエンジニア認定制度のようなサービスについては、提供のご予定はないでしょうか?
当社独自に、というかたちでは、お書きいただいているようなサービスを提供する予定はございません。しかし、アクセシビリティ社内教育支援の一環として、個別に人材育成や教育をご支援することは可能です。もし具体的なニーズなりお困りごとがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
3.3.7を達成するには具体的にどのような技術が必要となりますでしょうか?
達成基準3.3.7に適合するためには、ユーザーが一度入力した情報について、(同達成基準において例外としているケースを除き)再入力が必要とならないよう、サービス提供側で適切に保存・管理のうえ、活用できるようにする必要があります。Understanding Success Criterion 3.3.7: Redundant Entryや、G221: Provide data from a previous step in a processをぜひご覧ください。
線形化(一本の線)とはどのようなページになりますでしょうか?
ご質問は、達成基準3.2.6(一貫したヘルプ)に関するものと認識します。私の説明が言葉足らずで申し訳ございませんでしたが、HTMLソースに記載された順にコンテンツが並んだ状態を「線形化」と呼んでいます。線形化した状態の並びは、HTMLソースを読み解かずとも、WebブラウザでCSSを無効化することで視覚的に確認が可能です。また、合成音声でコンテンツを読み上げるスクリーンリーダーを使いますと、線形化した状態でコンテンツを聞くことができます。
アクセシビリティガイドラインを無視したコンテンツの法的措置や社会的な制裁等が有ればご教示頂きたいと存じます。
日本では、Webアクセシビリティの不足そのものを罰するような法律は存在しない認識でおり、社会的な制裁についても同様です。しかし、来年4月1日の改正障害者差別解消法の施行に伴い、例えばWebアクセシビリティの不足に関し合理的配慮を提供しなかった事業者が、指導や勧告を受ける可能性はあります。また、その合理的配慮の提供義務違反が広く報道されるなどすれば、それが社会的な制裁につながる可能性もあるかと思います。