2024年のGAADにあわせたWCAG 3.0の更新
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)タイトルのとおり、WCAG 3.0が5月の第3木曜(今年は5月16日)のGlobal Accessibility Awareness Day (GAAD)にあわせる形で更新されました(W3C Blogの記事、前回の更新2023年8月時点のWCAG 3.0の状況についても参照してください)。振り返ってみると、おととしのW3Cは、リニューアルしたARIA Authoring Practices Guide (APG)をGAADにあわせて公開していたことからも、GAADを節目の日に捉えているように思われます(リデザインされたARIA Authoring Practices Guideについても参照してください)。
さて、今回のWCAG 3.0の更新は何が変わったのかについては、Deque Systems社のWilco Fiers氏によるBlog記事W3C unveils 174 new outcomes for WCAG 3.0がとても詳しいです。ここでは、DequeのBlog記事の内容をかいつまんで見ていくことにします。
最も大きな変更点は、WCAG 3.0のGuidelineのセクションに、174ものoutcomes(WCAG2でいうところの達成基準に相当するもの)が提示されたことでしょう。これは一見かなりの量に見えますが、WCAG 3.0自体が最初期のドラフトである、つまりは何も決まっていないに等しいような状態であることに注意してください。
WCAG 3.0の議論が進むにつれ、outcomeが削除されたり、統合されたりするなどして、数自体が減ることがあります。また、これらのoutcomeの適合レベルも何も決まっていません。とりあえず、並べるだけ並べてみたと言ってしまってもよいかもしれません。
なお、比較のためにWCAG2の数を挙げると、WCAG 2.2の達成基準は86であり、レベルAAAを除くと55となります。
200に迫るoutcomesの中で、DequeのBlog記事では、3つのoutcomeがピックアップされ、簡単に説明されています。
Non-verbal cues: Media alternatives explain nonverbal cues, such as tone of voice, facial expressions, body gestures, or music with emotional meaning.
(仮訳)非言語的手がかり: メディアの代替は、声の調子、顔の表情、身振り、感情的な意味を持つ音楽など、非言語的な手がかりを説明します。
非言語的な手がかりを理解することが難しい人が、画像や動画、その他のメディアの目的を理解できるようにするものです。自閉症スペクトラムなど、社会的な手がかりを理解するのが難しい人にとって有益です。
Single idea: Each segment of text [such as sentence, paragraph, bullet] presents one concept.
(仮訳)1つのアイデア:(文、段落、箇条書きなど)テキストのそれぞれの区切りが1つのコンセプトを提示します。
複数の話題を扱った長い文章を小さな段落に分割して、それぞれが異なるトピックを扱うようにすると、文章の理解度が向上します。特に短期記憶の問題がある人に役立ちます。適度に分割された文章であれば、興味のあるトピックに戻って読み直しやすくなります。
Disability information privacy: Disability information is not disclosed to or used by third parties and algorithms (including AI).
(仮訳)障害情報のプライバシー: 障害情報は、第三者やアルゴリズム(AIを含む)に開示されたり、使用されたりすることはありません。
障害のある人のニーズ、好み、支援技術の使用はきわめて個人的なものです。他の医療情報と一緒に掲載されています。この情報は、教育、住宅、保険、雇用などを拒否するために使用される可能性があります。最近のサイトでは、ウィジェットが使用されており、障害に関するニーズをウィジェットのプロバイダーに開示しない限り、情報にアクセスできなくなっています。このoutcomeは、そのような行為から守ることを目的としています。
繰り返しになりますが、WCAG 3.0は初期段階の草案であり、outcomesはどんどん変化していくことが容易に予想されます。最終的にはW3C勧告となって利用可能になっていくでしょうが、どの時期に程度まとまった案が提示されるのかは未知数です。
とはいえ、筆者の見立てとしては、2030年までにはある程度成熟した勧告候補(Candidate Recommendation)として提示されることにはなると思います。いずれにせよ、WCAG 3.0については気長に待つことをおすすめします。