WCAG2の適合レベルとはなんなのかというW3CのGitHubでの議論
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)先月のことになるのですが、WCAG2をメンテナンスしているW3CのGitHubレポジトリに1つのイシューが立てられました。
No definition of what constitutes an A, AA, or AAA conformance Level
https://github.com/w3c/wcag/issues/3889
日本語に訳すならば、「適合レベルA、AA、AAAを構成するものの定義がない」といったところでしょうか。
このイシューを見る前に、WCAG2を見返してみましょう。適合レベル自体は、WCAG 2.2にセクションが設けられています。かい摘まんでいうと、
- レベルAは最低の適合レベルです。
- レベルAAはレベルAより高いレベルです。
- レベルAAAは最高のレベルです。レベルAAAの中には一部のコンテンツでは、レベルAAAをすべて満たすことができないものもあります。
これはつまり、適合レベルのレベルは相対的なものでしかない、ということになります。
解説書に適合レベルを理解するというセクションがあります。WCAGを作成したときに、達成基準を3つの適合レベルのうちの1つにどうやって割り当てたのかの指標が書かれています。そのまま日本語訳を引用してみましょう:
- その達成基準が必要不可欠かどうか (言い換えれば、もしその達成基準が満たされなかったとしたら、支援技術でさえもコンテンツをアクセシブルにすることができない)。
- その達成基準が適用されるすべてのウェブサイト及びコンテンツの種類 (例: 様々な主題、コンテンツの種類、ウェブコンテンツ技術の種類) が、その達成基準を満たすことができるかどうか。
- その達成基準が必要とするスキルは、コンテンツ制作者が無理なく習得できるものかどうか (つまり、その達成基準を満たすための知識及びスキルは、1 週間あるいはそれ以下のトレーニングによって習得できるか)。
- その達成基準が、「ルック&フィール」及び/又はウェブページの機能に制限 (機能、提示、表現の自由、デザイン又は審美的な面において、その達成基準がコンテンツ制作者にかける制限) を強いるかどうか。
- その達成基準が満たされない場合、次善策がないかどうか。
つまるところ、達成基準のレベルは、どのレベルに割り当てるのかの議論に関わったメンバーで合意を得たというものに過ぎません。いいかえると、何か厳密な根拠があったり、数式のようなものがあるわけではないのです。
冒頭のイシューに戻りますと、適合レベルが何を意味するかを明確にしたいという動機で作成されたものでした。
イシューでの議論はやや迷走していますが、@mbgower氏のコメントが1つの着地点といえそうです。
Conformance levels are not indicative of issue severity for a given site. The conformance level of a failing success criterion (whether A, AA, or AAA) should not be used to apply severity to individual issues. Instead, the impact of any one issue will be dependent on the context of the page and the real-world impact to users.
翻訳すると次のようになるでしょうか:
適合レベルは、特定のサイトの問題の重大度を示すものではありません。失敗となる達成基準の適合レベル(A、AA、AAA のいずれか)は、個々の問題に重大度を適用するために使用しないでください。その代わり、1つの問題の影響は、ページのコンテキストとユーザーへの実際の影響に依存します。
また@GreggVan氏のコメントはこのイシューの目的がよくわからないとしつつ、3つのポイントをまとめています。ここでは、そのうちの2つをピックアップしてみます。
- Severity - depends on WHO (What is severe to one user is not relevant to another. and things that seem to be "usability" to some users are showstoppers for others. There is no absolute scale of severity that people will agree on unless you want to pick which disabilities are more important. And cognitive always seems to fall into "usability" rather than showstopper even though they are showstoppers for some users )
- Priority - is context dependent (What is the highest priority on one site may not be on another. And there are many factors that go into setting priorities)
こちらも翻訳すると次のようになるでしょうか:
- 重大度 - 人によって異なります(あるユーザーにとって深刻なものは、別のユーザーには関係ありません。また、一部のユーザーにとっては「ユーザビリティ」に見えるものが、他のユーザーにとっては致命的な問題となります。どの障害がより重要であるかを選択しない限り、人々が同意する重大度の絶対的な尺度はありません。そして、認知は、一部のユーザーにとっては致命的であるにもかかわらず、常に「ユーザビリティ」に分類されるようです。)
- 優先度 - コンテキストに依存します。(あるサイトで最も高い優先度が別のサイトではそうではない場合があります。そして、優先度の設定には多くの要因があります。)
これといった締めの言葉を持ち合わせていないのですが、アクセシビリティのチェック結果を見たときに、どこから手を付ければよいのか?という疑問に対する1つの答えになるのではないか、というのが雑感です。