NV AccessがNVDA Roadmapを公開
アクセシビリティ・エンジニア 大塚オープンソースのスクリーンリーダーであるNVDAを開発するNV Accessが、9月19日付けでNVDA Roadmapを公開しました。
ロードマップには、NVDAとそのサポートインフラの開発計画の概要が、短期的な優先事項、中期的な優先事項、長期的な優先事項に分けて記載されています。本記事では、ロードマップの内容と、個人的に印象的だった点についてお伝えします。
短期的な優先事項
短期的な優先事項としては、以下8項目が挙げられています。
- MathCATの統合:NVDAで数式コンテンツを扱うためのアドオンであるMathCATをNVDA本体に統合し、数式コンテンツへのシームレスなアクセスを提供します。
- ARIA準拠:NVDAのARIA(Accessible Rich Internet Applications)サポートの継続的な改善と更新を行い、最新のWebコンテンツとの互換性を確保します。
- 点字に関する機能強化:既知の問題に対処し、NVDAの点字サポートの全体的な安定性と信頼性を向上させます。
- 点字フォント属性:点字フォント属性のサポートを追加し、よりカスタマイズされた点字表示を可能にします。
- プロジェクトのリンティングの更新:コード品質とプロジェクト全体の一貫性を向上させるため、リンティングツールとルールを更新します。
- 認証システムクエリの最適化:NVDA認証システムで使用されるデータベースクエリを最適化し、パフォーマンスを向上させ、レイテンシーを削減します。
- サーバーインフラのコンテナ化:サーバーインフラをコンテナに移行し、拡張性、保守性、デプロイの柔軟性を向上させます。
- アドオンストアの自動更新:NVDAアドオンストアからダウンロードしたアドオンの自動更新を可能にし、ユーザーが最新の機能とバグ修正を確実に利用できるようにします。
中期的な優先事項
中期的な優先事項としては、以下9項目が挙げられています。
- NVDA Remoteの統合:NVDAがインストールされたPCを遠隔で操作するためのアドオンであるNVDA RemoteをNVDA本体に統合し、機能性とセキュリティを強化します。
- 複数行点字出力のプロトタイプ:対応した点字ディスプレイでの複数行の点字出力サポートのプロトタイプ開発を行い、点字で情報を提示する新しい方法を探索します。
- Excel UIAサポートの強化:Microsoft ExcelのUIA(User Interface Automation)サポートを改善し、スプレッドシートのナビゲーションと操作をより堅牢で直感的にします。
- Microsoft Natural Voicesのサポート:ナレーターなどで利用できるテキスト読み上げエンジンであるNatural Voicesのサポートを追加し、ユーザーの選択肢を拡大し、高品質な合成音声へのアクセスを提供します。
- アドオンストアのWebフロントエンド:NVDAアドオンストアのWebベースのフロントエンドを作成し、よりアクセシブルで、簡単なアドオンの閲覧と検索を可能にします。
- アドオンインストールのテレメトリ:アドオンのインストールに関する匿名データを収集して使用パターンを把握し、アドオン エコシステムを改善するための開発作業の優先順位付けに役立てます。
- ARMインストールのテレメトリ:ARMインストールに関する匿名データを収集し、変化する使用パターンについての洞察を提供します。
- 匿名識別子:NVDAのインストールに関するユニークで定期的に変更される匿名識別子を生成するシステムを実装し、ユーザーのプライバシーを損なうことなくより良いデータ収集と分析を可能にします。
- Windows 8.1、Windows Server 2012/2012 R2のサポート終了:古いバージョンのWindowsのサポートを公式に終了し、最新のオペレーティングシステムとアクセシビリティ機能の開発に集中できるようにします。
長期的な優先事項
長期的な優先事項としては、以下7項目が挙げられています。
- NVDAに統合されたAI画像説明:無料で、安全で、高性能で、プライベートで、視覚障害者に焦点を当てたAI画像説明を標準で利用可能にします。
- セキュアなアドオン環境:より安全なアドオンエコシステムを構築し、ユーザーを潜在的に悪意のあるアドオンから保護します。
- 画面拡大機能のプロトタイプ:ロービジョン(弱視)のユーザーをより適切にサポートするため、NVDA本体に組み込む画面拡大機能のプロトタイプ開発を検討します。
- 機能使用テレメトリ:NVDA 内の機能使用状況を追跡するための匿名テレメトリを実装し、ユーザーがソフトウェアをどのように操作しているかを把握し、改善すべき領域を特定するのに役立てます。
- NVDAアクセシビリティテスター向け公式トレーニング資料:NVDAアクセシビリティテスターになることに興味のある個人向けの包括的なトレーニング資料を開発し、高品質のテストとフィードバックを確保します。
- NVDA支援AIチャットボットプロトタイプ:NVDAに関するよくある質問にすぐに回答し、サポートを提供するAI 搭載チャットボットの開発を検討します。
- 自動化されたC++とMarkdownのリンティング:プロジェクト内のコード品質と一貫性をさらに向上させるため、C++とMarkdownファイルの自動化されたリンティングを実装します。
全体を通じて個人的に印象的だったのが、MathCATやNVDA Remoteなど、これまで別途提供されていた機能のNVDA本体への統合について触れられていた点です。既にScreen CurtainやAdd-on Updaterなど、アドオンとして提供されていた機能が本体へと組み込まれている例はいくつかあり、今後もこうした動きは継続されるのではないでしょうか。NVDAのみのインストールで利用できる機能が増えれば、NVDAを導入するハードルの低下や、より柔軟な機能追加が行われることにもつながるのではと考えています。
また、より長期的な目標として掲げられている、AIによる画像説明の提供にも注目しています。機能が実装されれば、PC上に保存した画像の内容をシームレスに確認したり、Webページ上の画像について、代替テキストに書かれている以上の内容を深掘りするといったことが、より手軽に行えるようになるのではないでしょうか。
NVDAがより高機能で、導入しやすいスクリーンリーダーとなることに期待したいです。