特別寄稿:国立海洋博物館(National Maritime Museum)が実現するインクルーシブなアクセス
海外担当マネージャー / コンサルタント ヒラノ・ブラウンコラム「欧州アクセシビリティ法:インクルーシブな顧客体験の推進」の補足として、私がヨーロッパ出張中に見聞きしたアクセシビリティ/インクルーシビティについて、寄稿します。
ロンドンのMaritime Greenwichという世界遺産がある地区には、インクルーシブへのコミットメントを反映し、すべての来館者に豊かな体験を提供するべく、アクセシビリティの確保に努めているNational Maritime Museumがあります。そこでの高齢者や障害者が円滑に利用できるための工夫や、さまざまな配慮について紹介します。
身体機能への配慮:館内にはスロープとエレベーターがあり、車椅子での移動が可能です。出入り口も車椅子が通れるように設計されており、館内にはバリアフリートイレがあります。また、車椅子の貸し出しも行っています。
アシストサービス:ガイドツアーでは聴力補助装置、展示には音声解説が提供され、聴覚に障害のある来館者にもアクセシブルな展示となっています。さらに、イギリス手話のレベル1の教育を受けているスタッフが働いています。展示やギャラリーで上映されるすべての映像コンテンツには、イギリス手話と字幕が含まれます。博物館のオーディオガイドも、イギリス手話で利用できます。
視覚障害者へのサポート:視覚障害のある来館者は、触覚模型、音声ガイド、拡大印刷版の点字テキストを利用できます。スタッフは、視覚障害のある来館者を支援するための研修を受けており、要望に沿った案内が可能です。19世紀に建造され紅茶を運んだイギリスの帆船、Cutty Sark号の点字ガイドは、Webサイトでダウンロードできます。
認知・学習障害への配慮:博物館は、認知・学習障害のある来館者にとって快適な環境を確保するための措置を講じています。これには、静かなエリア、明るい照明のエリア、触れるものなどを指定した「センサリー・マップ」という間取図が含まれます。
また、来館者がさまざまな方法でミュージアムにアクセスできるよう、「センサリー・エクスプローラー・バックパック」というインクルーシブなリュックを用意しています。このリュックは、教育的支援の必要なお子様や障害のあるお子様と、そのご家族と一緒に作られました。さらに、子供と大人兼用の「イヤー・ディフェンス」と呼ばれる、高機能防音ヘッドホンも貸し出しています。同館のサイトには、ペリツェウス・メルツバッハー病類似疾患(PMLD)、限局性学習障害(SLD)、感覚処理障害を持つ人々を支援するためのアクティビティや実験も、数多く掲載されています。また同館は、認知症の人にとっても安心して来館できる場所で、認知症の来館者のための資料まで作成されています。
バリアフリー/アクセシビリティ関連情報の提供:アクセシビリティに関する情報は、同館のWebサイトおよび館内の総合インフォメーション・デスクで閲覧できます。これには、駐車場、入館ルート、館内施設などの詳細が含まれます。
デジタルアクセシビリティ:同館のWebサイトやデジタルリソースは、Webコンテンツのアクセシビリティガイドラインに沿って設計されています。これにより、すべての訪問者が展示、イベント、教育リソースに関する情報を利用できるようになっています。
教育カリキュラム:同館では、教育支援を必要とする学校やグループなど、多様な学習ニーズに合わせたインクルーシブな学習計画を提供しています。それらのプログラムは、個々の能力に関係なく、すべての参加者が参加し、教育を受けられるようデザインされています。また、特別教育ニーズ・コーディネーターが常駐しているほか、スタッフは自閉症関連の研修を受けています。
従業員レーニング:スタッフは、アクセシビリティに対する理解と、さまざまな障害のある来館者を受け入れるためのベストプラクティスについて、定期的にトレーニングを受けています。これにより、すべての来館者が、敬意ある丁寧なサポートを受けられるようになっています。
国立海洋博物館は、海洋遺産の歴史と重要性を多くの人々と共有するという使命の中核に、アクセシビリティを重視しています。その多くは、Webサイトやその他のデジタル手段を通じて実現されています。アクセシビリティ機能と関連サポートを継続的に改善することで、同館はすべての来館者を歓迎し、豊かな体験を提供することを目指しています。