特別寄稿:アクセシビリティ・ディスカバリーセンター(ADC)を訪問
海外担当マネージャー / コンサルタント ヒラノ・ブラウンコラム「欧州アクセシビリティ法:インクルーシブな顧客体験の推進」の補足として、私がヨーロッパ出張中に見聞きしたアクセシビリティ/インクルーシビティについて、寄稿します。
英国滞在中に、ロンドンに開設されているGoogleのアクセシビリティ・ディスカバリーセンター(ADC)を訪問する機会がありました。このセンターは、デジタル・アクセシビリティとインクルージョンの促進に専念しています。賑やかなKing's Cross/St. Pancras地区にあるGoogleイギリス本社の5階に位置するADCは、多様なコミュニティやユーザーニーズのための、情報共有とデジタル・インタラクションの未来形成の両方を目的としており、アドボカシー(社会的に弱い立場にある人たちの権利を守る / 主張を代弁すること)とイノベーションの道標となっています。
情熱的で知識が豊富なADCコーディネーターのHans Zimmermann氏が、親切にセンターを案内してくれました。アメリカ国外では初となる同センターに入ると、Hans氏の言葉にもセンター自体のデザインからも、深い目的意識とコミットメントを感じました。センターはワークショップ及びリサーチ・ラボのゾーンと、支援技術のデモンストレーション・ゾーンの2つのエリアに分かれていて、空間自体はもちろん、触覚の看板に至るまで、インクルージョンを念頭に置いて考え抜かれたデザインになっています。
触覚看板は、設置された当初、大きすぎてアクセシブルではなかったので、小さいサイズが製作され、壁に貼り付けられたのだとHans氏が教えてくれました。この裏話に関連して、Hans氏は「progress over perfection(完璧よりも進歩を重視)」「putting awareness into action (意識を行動に移す)」という言葉を使いました。アクセシビリティとインクルージョンを実現するための反復的なアプローチを表すこれらの言葉に、私はとても感銘を受けました。
人間工学に基づいた間取りのワークショップとリサーチ・ラボのゾーンは、学術界、産業界、支援団体など、アクセシビリティに関連するコミュニティとのコラボレーションのためのスペースです。ラボ内のホワイトボードには「指や手を使わずにどのようにコンピュータを操作するか?」「耳が聞こえないとしたら、携帯電話のどの機能が最も重要か?」といった問いが書かれていました。このエリアには、点字レゴブロック、点字版ハリー・ポッター、そしてダイバーシティ関連の賞も展示されていました。
アクセシビリティを基本的人権とするセンターの理念を強調するワークショップ・スペースに次いで、没入型の(イマーシブな)学習体験ができる、支援技術のデモンストレーション・ゾーンを訪れました。
デモンストレーション・ゾーンの片側には、ワークステーションが複数あり、それぞれが別個の支援技術に特化していました。あるワークステーションには、点字リーダーを含む視覚関連の支援技術のデモンストレーションがありました。
隣には聴覚関連のワークステーションがあり、支援技術の一例として、ニュース映像のライブ文字起こしが展示されていました。また、Google HomeのMatter対応デバイスに接続されたLEDランプは、赤ん坊の泣き声やドアベルの音など、音だけのイベントを色付きの照明で視覚的にあらわすことを目的としていました。
最後に見学したワークステーションは、器用さと認知に特化されていました。他にもChromeVox(Chromebook用のスクリーンリーダー)、TalkBack(視覚障害者が触覚や音声フィードバックを使ってAndroidデバイスの操作を支援するアクセシビリティ機能)、Appleのライブスピーチ、CoughDrop、GoogleのLook to Speakなど、多くの支援技術が紹介されていました。
センターでは他にもSteady Spoon(腕や指先が震えても安定して使えるスプーン)、Eoneの触覚腕時計、振動する目覚まし時計など、さまざまなツールや器具が体験できるかたちで展示されていました。
各ワークステーションは、アクセシビリティのための支援技術が日常生活に与える変革や影響を示していました。こうした技術革新が、多様な能力を持つ人々にどのような力を与えるかを目の当たりにし、自立と平等な社会的参加を促進するインクルーシブデザインの意義を再確認しました。
ワークステーションの反対側には、ADC Arcadeと呼ばれるゲームセンターがあり、ゲームにおける支援技術の役割をデモする3台のワークステーションから構成されていました。1台目は、顎で操作するコントローラーを使って、サッカーゲームをプレイするものでした。ジョイスティックにあごを乗せ、頭を好きな方向に動かすことで、サッカー選手を操作することができます。
別のワークステーションでは、頭部で操作できるコントローラーを使ったゲームがデモされていました。これは、視線追跡技術を利用して、カーレースゲーム「Dirt Five」をプレイできるようにしたものです。プレイヤーは、目の焦点を上に動かすとアクセル、左右に動かすとステアリング、下に動かすとブレーキ / バックというように、車を操作することができます。この操作に慣れるのはとても難しく、私はHans氏に完敗しました。
訪問を振り返って、バリアを取り除き、よりインクルーシブなデジタルの未来を切り開くための総合的な取り組みに感銘を受けました。センターは、誰もが活躍できる世界を創造するために共感、革新、そしてテクノロジーの力を連携することの重要性を強調していました。 私は、新たに得た知識とアクセシビリティへの新たな決意を胸に、仕事やその他の取り組みを通じて、インクルーシビティを支援していこうと思います。