Web Almanac 2024にみるWebアクセシビリティ
アクセシビリティ・エンジニア 中村(直)HTTP ArchiveによるThe 2024 Web Almanacが先月公開されていました。2023年版はWeb Almanac自体が公開されていませんでしたので、実に2年振りということになります。(2022年版のものについては、Web Almanac 2022に見るWebアクセシビリティもご覧ください。)
さて、この2024年版にもAccessibilityの章が設けられています。2022年版ではIntroductionからConclusionまで35の見出しが設けられていましたが、2024年版では38の見出しに増えています。ボリュームのある文章ですので、そのすべてを取り上げることは難しいですが、ここでは目に付いた箇所を、2022年の記事とも比較しつつ、掻い摘まんで紹介したいと思います。
総論としては、Lighthouseのスコアの中央値は2022年では83%だったものが2024年のデータでは84%と1ポイント上昇したとのことです。WCAG 2.2となったことで、達成基準4.1.1に関する(Lighthouseのエンジンである)axe-coreのルールが削除されたのがどこまで影響しているのかというのは読み取ることができませんでしたが、いずれにせよ、スコアとしてはわずかに改善していることになります。
Figure 10.3. Most improved Lighthouse accessibility tests (axe)では2022年と比較して大きな改善が見られたaxeのルールとして、次の5つを挙げています。
ARIAに関する3つのルールは脇に置かせてもらって、コントラスト比(23%から29%に改善)、<iframe>
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属性(36%から51%に改善)というデータについては興味深いところです。<iframe>
は単に埋め込んでいるもの(例えばYouTube)をピンポイントで修正すればチェックをパスできる一方で、コントラスト比は、大きくて複雑なサイトほど、より正確にはCSSによる色の組み合わせが増えるほどチェックをパスするのが難しくなってくると考えます。このスコアが目立って改善しているということは、それだけWebアクセシビリティに本腰を入れて取り組んでいるサイトが増えてきているのかもしれません。
ページの言語(lang
属性)のデータは、モバイルサイトで2022年では82.7%だったものが、2024年では84.0%と、1.3ポイント増加しています(Figure 10.7. Mobile sites have a valid lang attributeでは86%としていますが、元データを見るとデータを取り違えているように思われます)。ちなみに2021年では80.5%であり、2022年と比較すると2.5ポイントの増加でしたから、ポイントの伸びは鈍化していることになります。このデータをどう解釈すればよいのかは何とも言いがたいところではありますが、ひとつの仮説として、言語が設定されていないような古いサイトが、適切に言語の設定がなされる新しいサイトに置き換わるペースが鈍くなっているという推測が成り立つかもしれません。
見出しの階層のデータに注目してみます。これについては、モバイルサイトで2022年では57.7%だったものが、2024年では57.6%と、0.1ポイント減少となっています(Figure 10.13. Mobile sites passing the Lighthouse audit for properly ordered heading)。なお、2021年から2022年では0.4ポイントの減少であり、ほぼ横ばいであるという傾向には変化がないようです。適切な見出しの順序というものは、1つのページに見出しが複数ある場合に、適切な見出しレベルを選択するという人の手による判断が必要となってきます。そのような判断を行える人が増えているわけではない、という解釈ができそうです。
画像の代替テキストについては、2022年でalt
属性が提供されていたサイトが58.7%であり、2024年では66.2%と実に7.5ポイントもの上昇が見られます。2021年から2022年では約1ポイントの上昇に過ぎなかったものが、大幅に改善していることがわかります。このうちalt
属性を持ち、なおかつ代替テキストの内容にファイル拡張子を含むものは、モバイルサイトで7.5%と報告されており、これは2022年と同じ数値です。見出しのレベルは、ページ全体の構造を把握する必要がある一方で、画像の代替テキストは、前後の文脈を踏まえつつも基本的には画像単独で考えればよいというあたりが見出しのレベルの数値との違いになっているのかもしれません。
2022年版と比較して、2024年版ではアクセシビリティオーバーレイに関する記述が大幅に増えています(User Personalization Widgets and Overlay Remediation)。細かい話については原文を読んでいただくこととして、2023年5月に欧州障害フォーラム(European Disability Forum; EDF)が公開したAccessibility overlays don't guarantee compliance with European legislationという声明の一節がWeb Almanacでは引用されており、ここでも引用したいと思います。
Users of assistive technology already have their devices and browsers configured to their preferred settings. The overlay technology can interfere with the user's assistive technology and override user settings, forcing people to use the overlay instead. This makes the website less accessible to some user groups and may prevent access to content.
翻訳すると次のようになるでしょうか。
支援技術のユーザーは、すでに自分のデバイスやブラウザーを好みの設定にしています。オーバーレイの技術はユーザーの支援技術に干渉して、ユーザー設定を上書きし、オーバーレイを使用するように強制する可能性があります。これにより、一部のユーザーグループがWebサイトへのアクセスが困難になり、コンテンツへのアクセスが妨げられる可能性があります。
オーバーレイに対して、障害当事者も懸念を示しているということに留意すべきでしょう。
最後に、2024年版では、各国の政府機関のサイトがどの程度アクセシブルかというデータも出しています(Government)。上位の国を掲載しているグラフに日本は残念ながら名を連ねてはいないのですが、それでも85%という数値にはなっており、データとして上位と大きく引き離されているというわけではないと言えます。
まとめますと、マクロな視点では、Webアクセシビリティが大きく変化したわけではありません。これは、少し改善した点もあれば、そうでない点もあることも含めて、2022年版と同じではあります。LighthouseのスコアがWebアクセシビリティのすべてではありませんが、LighthouseでWebアクセシビリティについてわかることは結構ある(Dequeが主張する自動アクセシビリティチェックのカバレッジも参照)という言葉で締めくくりたいと思います。