2024年に印象に残ったアクセシビリティ関連の話題
アクセシビリティ・エンジニア 大塚12月も下旬に差し掛かり、2024年も残りわずかとなりました。さまざまな場所で今年1年を振り返る記事を見かけることが多くなりましたが、本Blogでも1年を振り返り、2024年で個人的に印象に残ったアクセシビリティ関連の話題についてご紹介したいと思います。
まず初めに触れておきたいのがAIによる画像/動画認識関連の話題です。3月にリリースされたiOS 17.4では、VoiceOverの画像認識機能が日本語に対応しました(VoiceOver認識についてのAppleのサポートページ)。この機能を利用し、写真やWebページ上の画像にフォーカスを移動すると、画像の説明を追加情報として確認できます。例えば、机に置かれたケーキが写った写真を「テーブルの上の皿の上のデザート」と読み上げるなど、他のアプリを使用することなく、画像に関する大まかな情報を確認できます。
Androidに目を向けると、9月にリリースされたTalkBack 15にGemini Nanoによる画像の詳細な説明機能が追加されました(Android Developers Blogの記事)。こちらは、画像の説明の取得に数秒かかるものの、上記と同じ写真を認識させると、「この画像は、白の四角いお皿に載せられたデザートです......(以下形状などの簡潔な説明)」と読み上げ、VoiceOverよりも詳細な説明を確認できます。
それぞれの機能はいずれもOSに標準で組み込まれていることから、これまで追加でアプリをインストールして利用していたAIによる画像認識が、より手軽に利用できるようになりました。
また、視覚障害者向けのアプリにもAIによる新機能が追加されました。10月にリリースされたSeeing AI 5.4にはビデオ説明機能が追加され、写真に加え動画の楽しみ方も広がり始めました(Seeing AIがビデオ説明に対応)。来年にはApple Intelligenceの日本語への対応が予定されているため、アクセシビリティに関連した機能の活用方法や、新機能の追加に注目したいです。
NVDAについて振り返ると、6月にリリースされた2024.2でオーディオ分割、8月にリリースされた2024.3でアドオン更新通知が追加されるなど、これまでサードパーティーのアドオンとして提供されていた機能の本体への統合が目立ちました。本体のみで利用できる機能が増えれば、NVDAを利用するハードルの低下や柔軟な機能更新、改善にもつながるのではないでしょうか。NVDA Roadmapには、短期的な優先事項として、数式コンテンツを扱うためのMathCATの統合が挙げられています。こちらも現状はアドオンとして提供されている機能であり、このようなコンテンツの読み上げ利便性の向上に直接影響する変更が積極的に行われることに期待したいです。なお、前述したオーディオ分割機能については、実際に利用した様子をまとめた記事「NVDAのオーディオ分割機能を利用してみた」を執筆しているので、よろしければご覧ください。
ここからは、当Blogではあまり扱ったことのない話題をいくつか取り上げてみたいと思います。まず、ゲーム関連の話題を振り返ると、ゲーム配信サービスのSteamのWindows向けクライアントがNVDAでの読み上げに対応したことが印象に残っています。これまでも、Steamで配信される個別のゲームがスクリーンリーダーでの読み上げに対応する例は見られましたが、クライアントソフトについては、ログイン画面などを十分に読み上げないという状況が続いていました。個別のゲームのアクセシビリティだけでなく、クライアントソフトやゲーム機本体などのハードのアクセシビリティの向上も進んでほしいと思います。
アクセシビリティ関連の製品については、視覚障害者向けのナビゲーションデバイスであるあしらせ2の発売が印象的でした。製品そのもののユニークさについてもですが、個人的にはビックカメラでの取り扱いや店舗スタッフへの研修を行うなど、視覚障害者、健常者それぞれが手軽に製品に触れられる環境が作られていることに驚きました。あしらせの例のように、視覚障害者向けの製品をより多くの場所で手に取り、購入できるようになってほしいと感じています。
最後に、日常生活に関連した話題を振り返ると、えきねっとがマイナポータルとの連携による障害者割引乗車券の購入に対応したことが印象に残っています(JR東日本のプレスリリース(PDF))。これまで、割引乗車券の事前購入には駅の窓口へ行く必要があったため、非常に購入しやすくなったと感じています。Webからの障害者割引でのチケット購入は、現状でも対応していないケースが多く、マイナポータルとの連携による対応がさらに広がってほしいです。
2024年はAI関連機能の活用の広がりや、えきねっとでの割引乗車券の購入など、方向性に違いはありますが、日常生活に直接影響するようなアクセシビリティ関連の話題が多かったように思います。来年も、アクセシビリティに関連した幅広い話題を当Blogで取り上げられればと思います。