製薬会社のWebサイトを改善する方法
ありきたりな表現を使わずに、自社らしさをアピールするためのベストプラクティス
(この記事は、 Bowen Craggs社のWebサイト「Our Thinking」において2023年1月20日に公開された記事「Overcoming digital mistakes in the pharmaceutical industry」の日本語訳です)
製薬会社のWebサイトを訪れると、イノベーションへの誓い、より健康的な社会や持続可能な世界への貢献という企業メッセージ、患者の笑顔の画像などを目にすることがあります。しかし、製薬会社がより詳細な情報を提供しなければ、これらのメッセージや画像が陳腐化する恐れがあります。
その結果、製薬会社のWebサイトは訪問者にとってありきたりなものとなり、企業の強みを際立たせる機会を失ってしまうことにもなりかねません。今回は、製薬会社のWebサイトによくある大きな課題4つと、それらを克服するためのベストプラクティスをご紹介します。
課題1:主張するイノベーションに関して、継続した情報追加がないこと
「イノベーション」は、製薬会社がアピールするメッセージの1つですが、多くの企業はその根拠を示していないケースが多くあります。「当社の画期的なイノベーション」などの大胆な表現で、訪問者の関心を集めているにもかかわらず、それを実証できておらず、このままでは求職者や投資家など、企業が獲得しようとしている重要な訪問者から良い評価を得にくくなってしまいます。ベストプラクティス: Roche - エビデンスに基づいた主張が印象的な「Innovation (イノベーション)」カテゴリー
スイスを拠点とする製薬大手のRocheは、ただイノベーションを主張するだけではなく、その革新性を行動で示しています。そこには、CEOによる率直かつ印象的なQ&A形式の動画があり、会社の研究開発のアプローチに関する質問に簡潔に答えています。
「Team & structure」「Innovation process」というページでは、インフォグラフィックやレイアウトを効果的に使い、イノベーションという主張を事実で裏付けています。
さらに、Rocheの「Group Innovation Engines」「Innovation process」では、新製品を生み出すまでの過程を紹介し、Rocheについてさらに深く知ることができます。
課題2 : 信憑性を代弁するため、笑顔の患者の画像を使うこと
製薬会社はWebサイトで、患者が笑っている画像を掲載しているケースが多くあります。患者の幸せそうな様子は、治療の成功をイメージさせる効果的なメッセージのように見えますが、必ずしもそうとは限りません。
すべての製薬会社のWebサイトで同じような画像を目にすると、訪問者が不審に感じてしまう可能性があります。このような画像を使用している企業は、少し挑戦的ですが、よりリアルで魅力的な体験を伝えることの価値を見落としています。
ベストプラクティス : Novo Nordisk - リアルな患者の写真を掲載
デンマークの製薬会社Novo Nordiskkは、トップページから下層ページまで、斬新な表現を取り入れています。笑顔の患者の写真も使用していますが、バランスの取れた編集により、くどい印象はありません。
例えば、「Disease areas (疾患分野)」カテゴリーの成長障害や1型糖尿病のページでは、実際に疾患と闘う患者の写真や体験談を紹介しています。また、アルツハイマー病のページのように、「紹介しているカップルはモデルであり、実際の患者ではありません」と注釈を掲載している場合もあります。
さらに、Novo Nordiskは、豊富な統計情報、世界中のR&D施設の紹介、各種データなどを用いて、患者のサポートに注力する姿勢をアピールしています。
課題3 :サステナビリティ目標の見分けがつかないこと
製薬会社のWebサイトでは、サステナビリティの目標として「地球にやさしい」や「人々に健康を」などのメッセージを掲げることが定番になっています。企業のデジタル担当者が、このようなスローガンを調整するのは難しいかもしれません。しかし、もし自社が競合他社と同じようなメッセージを採用していると気付いたら、どのように自社のデジタルチャネルでスローガンを実現していくのか、検討することが重要です。
事実に基づいたコミュニケーション手法を活用することで、使い古されたサステナビリティ・メッセージでも、印象的なものに変えることができます。
ベストプラクティス:Pfizer - 対応を具体的に示す
アメリカ製薬大手のPfizerは、Webサイト内の「Environmental Sustainability (環境サステナビリティ)」というサブカテゴリーで、決まり文句にとらわれず、事実と統計に基づいて自社の方針を説明することに重点を置いています。まず、ページタイトルの下で概要として、気候変動の緩和、資源の節約、廃棄物の削減など、明確な目標を掲げています。続けて、実績ベースの行動計画を掲載しています。
また、「Sustainable Medicines (持続可能な医薬品)」という見出しを付けた段落で、医薬品の環境負荷を低減する方法を追求するという、Pfizerの姿勢を強調しています。このエリアでは、「Waste (廃棄物)」や「Making a Greener Workplace (環境にやさしい職場づくり)」などのテーマが一覧できます。そして、+印をクリックすることで、Pfizerのコミットメントの概要と詳細情報へのリンクを展開・表示します。
最後に、「Performance Metrics (パフォーマンス指標)」という見出しの下に、CSRに関する重要業績評価指標を掲載したWebページへのリンクがあります。このページでは、目標がリスト化されていて、予測される目標に対する進捗を明らかにするデータを、表形式で提供しています。
課題4 : 医療従事者、介護者、患者のための案内が欠けていること
患者や介護者、医療従事者は、製薬会社のWebサイトで目当ての製品・サービス情報を見つけるのに苦労することが多いようです。これは、ヘルスケアや医療サービスに関するマーケティング規制が世界各地で異なるためです。
もし、製薬会社がリスクを回避するために厳格な対策を講じて、判で押したようなアプローチを選んだ場合、情報が乏しくなる可能性があります。患者や介護者、医療従事者といった閲覧者には、可能な限り、製品やサービスの関連情報や、地域に根ざした情報などへ、スムーズに導く必要があります。場合によっては、ユーザーに最適なサービスを提供するために、国や地域の規制当局と協力して、どのような情報であれば許容されるかを確認する必要があるかもしれません。
ベストプラクティス : GSK - 地域情報への明確な道筋を示す
イギリスの製薬大手GSKは企業サイト上に、医療関係者専用サイト「GSKPro」への明確な経路を提供しています。この医療関係者向けサイトでは、GeoIP機能を使って訪問者の位置情報を特定し、GSKの医薬品、ワクチン、副作用・副反応の報告、教育リソースなど、地域ごとの規制を踏まえた情報を提供しています。「GSKPro」へのリンクはヘッダーで表示していますし、「Products A-Z」というサブカテゴリーのトップページにもリンクを設置しています。
また、患者向けには、企業サイトからワールドワイドディレクトリへの道筋を用意していて、そこから国や地域別の規制の範囲内で、現地の情報やWebサイトにアクセスできます。
まとめ
最後に結論として、製薬会社のWebサイトにはいくつかの問題が見られますが、デジタルコミュニケーションのチームが、すべての訪問者に明確な道しるべを示し、演出された画像よりも実際の患者の写真を優先させ、事実に基づいた企業メッセージを発信することで、Webサイトの問題は解決できるでしょう。