企業コミュニケーションにおける「ピンクウォッシング」を乗り越える
企業のコミュニケーション・チームが「ピンクウォッシング」と非難されるのを回避する方法
(この記事は、 Bowen Craggs社のWebサイト「Our Thinking」において2023年7月7日に公開された記事「Navigating Pinkwashing in Corporate Communications」の日本語訳です)
企業のコミュニケーション・チームは、グリーンウォッシングのリスクをよく知っていると思いますが、毎年6月のLGBTQ+の権利を啓発する活動が世界中で行われるプライド月間には、ピンクウォッシングという顕著な問題に直面することでしょう。
「ピンクウォッシング」とは、企業がLGBTQ+に配慮しているかのように装いながら、実際は有意義な貢献をすることなく、マーケティングの機会として利用することを指します。「レインボーウォッシング」や「ピンクキャピタリズム」とも呼ばれます。
LGBTQ+ コミュニティーに対する企業のコミットメント、もしくはその欠如は、企業の Web サイト、公式 SNS アカウントなどのオンラインコミュニケーションで確認できます。それは、企業が環境配慮を装いながら、実際は有意義な貢献をせず、利益だけを得ようとする「グリーンウォッシング」と同じです。
第三者などの調査によって、反LGBTQ+法案を支持する議員への金銭的支援が明らかになることがあり、それが企業の主張と矛盾していた場合には論争に発展します。一方で、企業がLGBTQ+への支持を表明しますと、反対派からの批判につながる可能性があります。
このデリケートな状況を乗り切るために、企業のコミュニケーション担当者は、バランスを維持しなくてはなりません。言い過ぎてしまうとボイコットのリスクがあり、発言が少な過ぎると「気遣いがない」と非難される可能性があるからです。ここでは、適切なバランスを見つけるために、企業のコミュニケーション担当者が覚えておくべき3つのことを紹介します。
1. 主張を裏付ける
ピンクウォッシングの疑惑を晴らす、もしくは対処するためには、LGBTQ+グループやその取り組みへの寄付やサポートなどに関する、透明性のある情報を提供することが極めて重要です。
LGBTQ+コミュニティーを支援するための社内外の取り組みを、透明性をもって紹介しましょう。例えば、従業員のプロフィールや体験談などで、社内のインクルージョンを示す取り組みを強調する方法があります。また、LGBTQ+団体への寄付など、継続的な支援や活動を紹介する専用ページをWebサイト上に設けることも検討しましょう。
Accenture - インクルージョンとダイバーシティーをリードする
総合コンサルティング大手Accentureは、同社Webサイトの「About」カテゴリーにある「Diversity and Inclusion」という専用ページで優れた模範を示しています。
このセクションは、インクルージョンとダイバーシティーを踏まえ、さまざまな問題を取り上げています。例えば、LGBTQI+セクションでは、動画、引用、パートナーシップや受賞歴に関する情報、従業員のプロフィール、LGBTQI+コミュニティーに有益な影響をもたらすプロジェクトなど、魅力的なコンテンツを公開しています。このサブカテゴリーのコンテンツは、プライド月間だけではなく、年間を通じてアクティブに更新されています。
American Express - LGBTQ+の顧客にスポットライトを当てる
アメリカのカード会社American Expressは、LGBTQ+の中小企業経営者や助成金受給者のストーリーを紹介する専用ページを設け、独創的で魅力的なアプローチを採用しています。このプラットフォームは、LGBTQ+コミュニティーの声を届け、より多くの人に認知させることで、単なるマーケティング以上の支援を示しています。
2. 一貫性を保つか、透明性を優先するか
アメリカの小売大手Targetや、ビールブランドBud Lightが、反対派の批判を受けてプライドキャンペーンを撤回した事例は、論争をオープンに対処することの重要性を強調しています。批判を恐れて最小限の支援しかできない場合でも、一貫性を保つことが重要です。企業は自らの行動を説明したり、追加情報を提供したり、批判を受けても持続的な努力を紹介する機会として、デジタルプレゼンスを活用したほうが良いでしょう。
The North Face - キャンペーンにおける毅然とした態度
アウトドア製品メーカーThe North Faceもまた、「Summer of Pride」キャンペーンで、活動家のPattie Goniaと提携したことで批判を受けました。しかし、投稿を削除したり、支援を取りやめたりはせず、毅然とした態度で臨みました。The North faceの広報担当者は「The North Faceは常に、アウトドアがすべての人に歓迎され、公平で安全な場所であるべきだと考えています」と、ニュース紙Newsweek誌に確固としたメッセージを伝えました。この声明は、The North faceのデジタル・プラットフォームでは確認できませんでしたが、LGBTQ+コミュニティーへの支援に対する認識に大きな影響を与え、批判に耐えたことで称賛を集めました。
The LA Dodgers - 注意深く耳を傾けて、オープンにコミュニケーションする
アメリカのプロ野球チーム Los Angeles Dodgersは、プライド月間中にLGBTQ+のコミュニティーに積極的に耳を傾けることで、素晴らしい模範を示しました。
当初、Los Angeles Dodgersは毎年恒例のプライドイベントに、女装パフォーマーグループThe Sisters of Perpetual Indulgenceの招待を撤回し、不快な思いをした人々の気持ちに理解を示していました。しかし、数日後に球団はさらなる声明を発表し、フィードバックを受けてLGBTQ+コミュニティーと対話した結果、このグループを再び招待したことを説明しました。
これは、論争を解決する際に、透明性な企業のコミュニケーションがいかに効果的であるかを示す注目すべき事例であり、2つの声明はどちらも、球団の変動する思考プロセスをそのまま反映しています。
3. LGBTQ+コミュニティーの声を傾聴する
どんなに良い意図を持っていても、LGBTQ+コミュニティーと積極的に関わり、その声に耳を傾けることを怠る企業コミュニケーションチームは、プライドの本質を見落としてしまうリスクがあります。企業コミュニケーションが本当に共感を得るためには、LGBTQ+団体に知識を求め、LGBTQ+コミュニティーのメンバーから意見を募ることが重要です。
疎外されたLGBTQ+コミュニティーの懸念に取り組むことは重要であり、それは協調的な努力を通してのみ達成できます。そして、プライド月間だけではなく、年間を通してLGBTQ+の問題に取り組み、コミュニティーとのつながりを維持することも、同じように重要です。もし、7月から翌年の6月までの間にコミュニケーションが途切れてしまうなら、企業の支援はピンクウォッシュであると見なされるかもしれません。
P&G - 可視性を強調する
P&Gは、1990年代からの従業員の勇気と努力を具体的に紹介することで、LGBTQ+コミュニティーへの支援を、会社の歴史にしっかりと根付かせています。
このWebページの構造は、「be seen, be heard, be proud」というテーマに基づいていて、可視性の観点から、継続的なLGBTQ+のインクルージョンとサポートを強調しています。具体的には、企業サイト上でLGBTQ+コミュニティーに発言権を与えると同時に、認められたLGBTQ+団体とのパートナーシップを強調し、それぞれのサイトへのリンクを提供しています。可視性にフォーカスすることで、P&GはLGBTQ+コミュニティーへのコミットメントを示し、エンパワーメントの意識を育んでいます。