2025年:企業のデジタルコミュニケーション担当者が、押さえておくべき7つの重要トレンド
2024年は、世界情勢の混乱や生成AIの急速な普及など、変化と不安定、そして予測不能なことが続いた一年でした。
(この記事は、 Bowen Craggs社のWebサイト「Our Thinking」において2024年12月11日に公開された記事「2025: seven vital trends for corporate digital communicators」の日本語訳です)
この状況は、企業のデジタルコミュニケーションチームに、大きな影響を与えました。
企業の評判を脅かすような危機が頻発し、予算が削減される一方で、AI技術が人々の情報収集の方法を根本から変えつつあります。
では、企業のWebサイトや各種デジタルチャネルの担当者は、2025年にどのような課題に直面し、どのようなチャンスを得られるのでしょうか?
この記事では、7つの予測をご紹介します。
1. デジタルコミュニケーションのベストプラクティスが、今後はコンプライアンス上の必須条件になる
先週、あるグローバル銀行のWebサイト担当者が、電話で次のように話していました。「企業Webサイトのアクセシビリティは、今は対応を推奨されているだけです。しかし、いずれは法令で義務付けられることになるでしょう」。
多くの企業では、オンラインでのサステナビリティ報告についても、同様の状況が当てはまります。
ヨーロッパでのこうした動きは、主に2つの新たな規制によるものです。
- European Accessibility Act (欧州アクセシビリティ法):2025年6月に、すべてのEU加盟国で施行される法律です。ヨーロッパ全域で、誰もがデジタル製品やサービスを平等に利用できるようにすることを目的としています。もちろん、企業Webサイトも対象です。
- European Corporate Sustainability Reporting Directive. (企業サステナビリティ報告指令):2023年1月に施行され、2025年のサステナビリティ報告書から適用されます。企業のサステナビリティに関する情報開示を、より厳格に、より広範囲に、そして統一された基準で行うことを目指しています。
これはつまり、企業Webサイトの管理に関わるすべての人にとって、アクセシビリティ対応やサステナビリティ報告の質を高めることが、単に広報活動や企業イメージ向上のためだけではなく、企業が事業を継続するために不可欠な条件になったということです。
Bowen Craggsでは2025年初頭に、今回のEUの規制だけではなく、アメリカなど他の国々で施行される同様の規制についても、企業のデジタルコミュニケーション担当者に向けた実践的なガイドラインを作成する予定です。
2. 企業の危機は発生しやすくなり、デジタルチャネルが防衛の最前線となる
トランプ新政権がアメリカ国内、そして世界の企業コミュニケーションにどのような影響を与えるのか、現時点では多くのことが「未知数」です。しかし、トランプ氏自身の公約や過去の行動、そして主要な閣僚たちの動向から判断すると、ホワイトハウスを中心とした各政府機関は、意図的に予測不能な戦略をとる可能性が高いといえます。
このことは企業にとって、国内外への政策や提案が、突然に、劇的で、激しい議論が生まれるほど変化する可能性があることを意味しています。
企業コミュニケーションの危機が確実に多発する、とは言い切れません。しかし、その可能性は高まっています。
企業のデジタルコミュニケーション担当者には、急速に変化する状況の中でも明確なメッセージを発信できるように、企業Webサイトや各種オンラインチャネルの準備を、進めておくことが求められます。
もし、社会的に議論を呼びそうな問題に対して、自社の立場をWebサイト上で明確に示していないのであれば、今すぐにでも、わかりやすく透明性のある情報公開を始めるべきです。実際に危機が起きてから慌てて対応するよりも、事前に準備しておくほうが、はるかに安全です。
3. メディアとの関係構築は、抜本的に見直す必要がある
Bowen Craggsのポッドキャスト第3回でも議論しているように、2024年のアメリカ大統領選挙は、メディア環境の劇的な変化を浮き彫りにしました。何百万人もの人々が、ポッドキャストやTikTokから情報を得るようになったことで、従来のニュースメディアは、その存在意義が問われるようになりました。
「今や、あなた方全員がメディアです」――イーロン・マスク氏は2024年11月6日の朝、約2億人のフォロワーに向けてそうツイートしました。
マスク氏の言葉はさておき、貴社が2025年も効果的な情報発信を行いたいのであれば、ポッドキャスターやインフルエンサーが活躍する現代において、「メディアとの関係構築」が何を意味するのか、考え直す必要があるのは確かです。
多くの企業Webサイトにある「メディア」「プレス」「ニュース」といった情報発信カテゴリーは、メディア業界の急激な変化に、まだ対応できていません。2025年は、これを改善することを優先事項にするべきです。
4. AI検索は進化し、さらに重要性が高まる
2024年、人々の情報検索の中心であるGoogle検索に、生成AIが本格的に組み込まれました。
Googleの「AI概要(AI Overviews)」は、従来の検索結果ページの上部に配置され、ユーザーの質問に対する回答をAIが生成して表示する機能です。これまで以上に、検索結果の上部に表示されるケースが増えています。
AI Overiewで表示される文章は、それぞれ特定の情報源へのリンクが明示されています。ここで、企業のデジタルコミュニケーション担当者にとって重要な問いが生まれます。GoogleはAI Overviewを生成する際に、自社が発信したコンテンツを参照しているでしょうか、それとも自分たちが制御できない第三者の情報源を参照しているでしょうか、という点です。
2025年、AI検索は当たり前のものとなるでしょう。これに伴い、AIに参照されることを踏まえて、外部のユーザーが知りたい情報を、専門用語ではなく一般の人が使う言葉でわかりやすく網羅した、情報量豊富で透明性の高い企業Webサイトの重要性が、これまで以上に高まります。

GoogleはAI Overviewを生成する際に、貴社Webサイトのコンテンツを参照しているでしょうか? それとも、貴社が制御できない第三者の情報を利用しているでしょうか?
5. 人々は、より本物のメッセージを渇望するようになる
検索の世界だけではなく、企業内やニュースメディアなど、あらゆる場所で、コンテンツ制作に生成AIが活用されるようになるでしょう。
これは企業のコミュニケーション担当者の業務効率化につながる一方で、人々をうんざりさせてしまうリスクも伴っています。
オンライン上にAIが作成した情報があふれるにつれて、顧客や求職者、従業員などの人々は、ChatGPTのような生成AIではなく、人の手で丁寧に作られた、心の通ったコンテンツを求めるようになるでしょう。
企業WebサイトやSNSを運用する担当チームは、人間味あふれる動画や記事、お客様の声といったリアルなコンテンツ制作を、2025年の最優先事項とするべきです。
6. ソーシャルメディア戦略は、リスク分散が重要になる
2024年11月、ソーシャルメディア「Bluesky」は、1日あたり100万人という驚異的なペースで新規ユーザーを獲得しました。
一方で、2025年初頭には、TikTokがアメリカで禁止される可能性があります。
また、X(旧Twitter)は政治的な色合いが強くなったことから、2023年9月から2024年9月の1年間で、イギリスではユーザー数が3分の1、アメリカでは5分の1も減少したことが、イギリスの経済紙「Financial Times」の調査でわかりました。
目まぐるしく変化するソーシャルメディア環境は、企業のデジタルコミュニケーション担当者にどのような影響を与えるのでしょうか?
2025年以降は、特定のSNSチャネルだけに依存することは避けるべきです。まずは企業Webサイトに投資しましょう。SNSチャネルとは異なり、企業サイトは完全に自社でコントロールできますし、ビジネスのあらゆる側面においても信頼できる情報の発信源「マザーシップ」として機能させることができます。そうすることで、ソーシャルメディア環境が今後数カ月でどのように変化しようとも、企業は一貫した情報発信が可能になります。さらに詳しく知りたい方は、Bowen Craggsのポッドキャスト第3回をお聞きください。
7. デジタルコミュニケーション担当者の重要性が高まるが、その貢献度を数値化することが重要
2025年も自社の存在感を高め、評判を守りたいと考える企業にとって、ここまで述べてきた変化はすべて、企業サイトやその他のデジタルチャネル、そしてそれらを管理する人々を、これまで以上に戦略的に重要な存在へと押し上げるでしょう。
だからこそ、企業のデジタルコミュニケーションチームが、業績にどれだけ貢献しているのかを測定することも、同じくらい重要です。Bowen Craggsのベンチマーク調査や訪問者調査は、まさにそれを実現するために設計されています。
同僚や上司が本当に重視する指標を選び、それをきちんと示すことで、デジタルコミュニケーションチームの仕事がいかに重要で、その重要性が増しているかを証明できます。
先月、世界有数企業のデジタルコミュニケーション責任者が、私にこう言いました。「今こそ、私たちコミュニケーション担当者の時代だ」。