グローバルに成功するための言語(そして英語だけを使う多国籍企業の台頭)
(この記事は、2017年10月3日に公開された記事「The Language of Global Success (and the rise of the English-only multinational)」の日本語訳です。)
単一の言語によってグローバル企業が一致団結するという夢は、深遠なものです。従業員はお互いに自由に国境や文化の違いを乗り越え、生産性を向上させ、またアイデアを共有することになるのですから。
しかし現実はというと、その夢よりもかなり厄介です。
かといって、CEO達に夢を見ることを諦めさせるには至っていません。
日本において一流のeコマース企業(そして世界的にトップクラスの収益を誇る企業の一つ)、楽天のCEOである三木谷浩史氏は、夢を見続けてきた一人です。以下のスクリーンショットは、楽天のホームページです。同社はしばしば、同じ日本国内でAmazonと共に言及されます。
三木谷氏は2010年、同社の1万人に及ぶ従業員(うち90%が日本人)が2年以内に英語を使うよう移行することをアナウンスしました。Neeley教授がこの大規模な移行を最前線で指揮したのですが、5年以上にわたる取り組みをまとめたのが書籍『The Language of Global Success(グローバルに成功するための言語)』です。
もしあなたが企業のグローバル化に興味を持っているなら、同書は必読です。Neeley氏は楽天の従業員に対して完全にアクセスすることができました。彼女は調査を行い、日本だけでなくアジア、ヨーロッパ、アメリカ、ブラジルのスタッフにインタビューをしました。楽天のみならず、シーメンスやSAPと行った他の英語のみを使う多国籍企業についても、彼女は長年にわたり研究しました。
Neeley氏は、私がコンサルティング業務を通じてしばしば目にするところの、国境や文化が交差する際の対立的状況を、見事に捉えていました。同時に、5年に及ぶ英語化プロジェクトを通じて集められたエピソードの数々は、愉快なものです。例えば、英語に移行するという知らせをアメリカにいる楽天の役員が耳にしたとき、彼は「私の言語を三木谷氏が選んでくれたことを神に感謝します」と叫んだそうです。
しかし、アメリカのスタッフは結局のところ、共通語には予期せぬチャレンジがつきものであることを認識することになります。日本にある本社がますます英語に対応するにつれ、企業文化(や規則)をあらゆる支社に向け翻訳しやすくなりました。その結果、IDバッジを常に所定の位置に身につけるといったルールが詳述された、電話帳サイズの従業員マニュアルがアメリカのオフィスに届くことになります。取るに足らない、しかし本社では全くそうでないIDバッジのせいで咎められたアメリカ人従業員がどう感じたかは、想像に難く無いでしょう。
最終的に、誰もがこの移行により国外居住者のような存在となりました。Neely氏は3つにこれを分類しています:
- 言語的国外居住者:新しい言語環境において喪失感を覚えた日本人従業員
- 文化的国外居住者:英語は堪能だが新しいグローバルな(日本の)企業文化によって喪失感を覚える従業員
- 二重国外居住者:英語をもともと話していたわけでなければ日本文化に精通していたわけでも無い、ヨーロッパ圏などの従業員
この中で新たな「グローバル」文化に最もよく適合したのは、二重国外居住者でした。彼らは初日から言語と文化が入り混じった状態に直面した結果として、ステータスなりコントロールの喪失を途中で覚えることはなかったのです。
英語化 vs. アメリカ化
英語を共通語に選んだことは、分かり切った結果であると同時に、物議をかもす選択でもあります。英語は全世界で非公式の第二言語となっていますが、言語と文化を区別するのは大切なことです。楽天が共通語に英語を選んだからといって、同社のCEOがアメリカ文化ないし西洋の文化を取り入れることは意味しません。楽天の企業文化に(体制順応的よりむしろ起業家気質へ)変化がもたらされることを彼が望んだのは明らかですが、実際にもたらされたかを私は知りません。本の末尾で、楽天は今なおとても日本企業らしいけれども、しかし英語の共通語化を実現した企業として記されています。
公平のために、もともと英語を母語としていた人々については、第二言語の選択が求められることを、私は提案します。アメリカ支社であれば、スペイン語が妥当でしょう。そうすることが、英語が「最良の」選択というわけではなく、単にグローバル企業にとってそれが最も実用的であるというメッセージになります。
本の中から要点をいくつかご紹介:
- もしCEOが本気でないなら、忘れましょう。移行のあいだ三木谷氏が強力にこれを推進していなければ、失敗に終わっていたであろうことは明らかです。これは従業員に宛ててメモを書くかどうかだけにとどまりません。彼はある時点で、従業員を訓練するよう提案しています。
- 共通の言語は、共通の文化と同義ではありません。実際、完全に見える化され理解されるより前に、共通言語は文化的なチャレンジをある程度は浮き彫りにするものです。
- 言語のトレーニングには、異文化に対するトレーニングも含まれるべきです。人々は、(日本のような)集団主義的な文化と、(アメリカのような)個人主義的な文化のあいだにある違いを、理解する必要があります。
- ローカル企業の寄せ集めではなくグローバル企業になるというビジョンを、従業員は共有しなければなりません。
結論:それは苦労に見合うだけの価値があったでしょうか?
三木谷氏は価値があったとしており、多くの従業員も同意しています。生産性については道半ばですが、楽天はグローバル企業にとって不可避のことをやってのけたと主張できるでしょう。
同社はこの5年間で成長を遂げ、英語を話す人材をグローバルに採用するうえでより良い状況にあります。異なる地域性のあいだから、文化的背景が入り混じって生まれるアイデアは、明らかに同社にとって大きなプラスであり、恐らくは最も好ましいことでしょう。
The Language of Global Success: How a Common Tongue Transforms Multinational Organizations
Tsedal Neeley 著
Princeton University Press