減らした1文字を有効活用する
エグゼクティブエディター 上原日々、文章の読みやすさを追求している、上原です。この記事は、前回の内容からつながる話になっています。ぜひ、お時間があるときに前回記事「その1文字をけずりだせ」もご覧いただけますと、ありがたいです。
ちなみに、前回私がお伝えしたのは「文字数を1文字でもけずれるところは、けずりましょう」という話です。この工夫は、原稿用紙で文章を作っていた時代には、少しでも紙の枚数を減らすため、当たり前に行われていました。サーバやコンピュータなど、長音を省略した表記も、文字数にシビアだった紙文化の名残といえるでしょう。
さて、そのけずった1文字ですが、ちりも積もれば山となる。小さな工夫も、原稿全体では大きな「貯金」になります。しかし、「けずれて良かったね」で終わらせては、もったいないです。今回は、せっかく作った貯金を有効に活用する方法を2つご紹介します。
意図的に余白と空行を作る
これはミツエーリンクスで広報誌を作ったときの気づきですが、少し値段の高い雑誌やハイエンドな方向けの本は、余白や空行が広めに取られています。誌面をぜいたくに使っていることから漂う、余裕や高級感もあると思いますが、何より余白や空行があるほうが読みやすいです。
検索して表示させたページが、全体的に文字ばかりの黒い塊という印象だった場合、ユーザーはすぐに別のページを探すでしょう。パッと見たときに「読みやすそう」と思わせる工夫は、ページデザインという意味でも重要だといえます。見出しや写真、図表などはもちろん、余白や空行を盛り込むことは、「読みやすそう」という印象を作るのに役立ちます。
これは私の個人的な感覚ですが、どんなに長い段落でも、できれば5行まで。段落間には必ず空行を入れて、テキスト群の圧迫感を軽減しています。ただ、余白や空行を入れると、それだけページが長くなります。長いページはユーザーに嫌われますので、そのぶん掲載すべき情報を絞らなくてはなりません。情報の精査やページ構成などの十分な事前準備をすることが、自然な余白や空行を作ることにつながります。
たまに1文ごとに改行・空行があるページを見かけますが、個人Blogなら良いかもしれませんが、ビジネス向けとしてはそぐわないと私は思います。
意図的に読点を打つ
せっかくけずり出した1文字を、なぜ読点に使うのかと疑問に思われるかもしれません。本が好きで文章に慣れている人の中には、読点の数が多い文章を稚拙だと断じる人もいます。しかし、適切に適量の読点を打つのは意外と難しく、読点が少ない文章のほうが、私としては稚拙に感じるのです。
読点は、文章の意味の切れ目を示し、読む人が文章の意味を理解しやすくするための記号と、辞書には書いてあります。それに加えて、文章中に余白を作るもの、楽譜のブレス記号のように息継ぎを促すものと、私は考えています。
音楽演奏において、ブレス記号は重要です。息継ぎを必要としない楽器はたくさんありますが、ブレス記号を意識しない演奏は、落ち着きがなく聞き苦しいものになりかねません。それは、聞き手も無意識のうちに、ブレス記号で呼吸をしながら演奏を聴いているからです。ブレスを意識した演奏は聴きやすい。文章も同じことがいえます。
再び例え話で恐縮ですが、オリンピック級の水泳選手を見ると、クロールは2~3ストロークごとに1度ブレスをしています。ブレスなしで泳ぐのは苦しいし、ブレスしすぎは疲れてしまう。つまり、リズム良くブレスするのが、一番効果的というわけです。私はだいたい20~40文字ごとに読点を打つようにしていて、どこの1行にも必ず1つは読点が入るよう心がけています。
間隔の次は、場所の話。文章のどこに読点を打つのが、適切で効果的でしょうか。ちまたには多くの「読点論」があふれていますが、中でも次の3つは、必ずといって良いほど紹介されている例です。
- 原因と結果
- 昨晩飲み過ぎたため、今朝から頭が痛い。
- 対立する文節の間
- 梅雨は明けたはずなのに、まだ雨の日が多い。
- 誤解させない
- 彼は泣きながら、出て行く彼女を見送った。
彼は、泣きながら出て行く彼女を見送った。
読点については、どこを適切とするのか、主張する人によって違うのも事実です。また、読点には今回紹介した以外にも、ユーザーを助ける効果があると、私は考えています。このテーマは別の機会に、改めて掘り下げてみようと思います。
今回は、余白・空行・読点の話をしましたが、いずれもユーザーに「読みやすそう」という印象を与えるために欠かせない、重要な技術です。引き続き私も、この技術の研鑽を続けていこうと考えています。