二重言葉に御用心
エグゼクティブエディター 上原日々、文章の読みやすさを追求している、上原です。
先日、ある人にお礼のメールを書いていました。その人にはある案件でとてもお世話になったことから、冒頭で感謝の言葉を述べた後、メールの締めでも「重ね重ね御礼申し上げます」と感謝を表現したのです。が、途中で「重ね」は1つ減らして「重ねて御礼申し上げます」にしても、意味は一緒だと気づき、後者の表現でメールを送信しました。
これはあくまで私見ですが、「重ねて」よりも「重ね重ね」のほうが仰々しく感じられ、謙った表現をしたいときについ使ってしまいます。ただ必要以上に謙るのは、逆に無礼になってしまうケースもあります。今回は私が過剰と判断し、一重にしたという次第です。
こうした同じ単語を反復して一語とした言葉を「畳語(じょうご)」といいます。「初々しい」や「一人一人」も畳語です。繰り返すことで意味を強めたり、複数あることや継続していることを表現したりする効果があります。状態や感情、物音や動物の鳴き声などを象徴的に表したオノマトペにも、畳語が数多く含まれます。畳語は文章を豊かにしますので、適所で効果的に使いたいものです。
一方で、同じように同義の言葉を重ねた表現であるものの、使うと悪印象を与えかねないのが重言(二重表現)です。特に有名な重言が「頭痛が痛い」「馬から落馬する」。こんな表現はしないよ、と笑うのは少しお待ちください。話し言葉で慣れてしまい、気づかずに書き言葉でも重言を使ってしまっている人が、実はかなり多いのです。
情報を載せ過ぎた文章は、誤配・不達の危険が
ここから、重言の主な例を並べます。実は気づかずに使ってしまっている言葉、ありませんか? 私も会話の中ではつい使ってしまっている言葉があります......。
重言 | 正しい表現 |
---|---|
違和感を感じる | 違和感がある/違和感を覚える |
あとで後悔する | 後悔する |
まだ未定 | 未定 |
従来から | 従来/前から |
各部門ごとに | 各部門に/部門ごとに |
被害を被る | 被害に遭う/被害がある |
製造メーカー | 製造会社/メーカー |
過半数を超える | 過半数に達する/過半数を占める |
そもそもの発端 | 発端 |
期待して待つ | 期待する |
あらかじめ予約する | 予約する |
加工を加える | 加工する |
まず最初に | 最初に |
一番最後 | 最後 |
約20人くらい | 約20人/20人くらい |
内定が決まる | 内定する |
ここに挙げたのは、私が社内の原稿チェックで頻繁に出会う、数ある重言の中の一部です。ほとんどの重言は誤用とみなされます。社内や同僚とのやり取りで重言が含まれていても、特に問題は起きないでしょう。しかし、お客さまなど外部に向けた文章では、重言が書き手の評価を下げたり、ブランドに傷を付けたりする可能性もあります。
世の中には、すでに汎用的に使用されている重言(違和感を感じる、従来から、など)もあり、もはや誤用ではないとする意見もあります。しかし、文章は読み手がどのように受け取るのかを、あらかじめ考えながら作るもの。現時点で、ほとんどの重言は誤用とみなされる以上、読み手に配慮するのであれば、わざわざ重言を使う意味はありません。これからも私は、気づかずに重言を使ってしまうことがないよう、気を付けていきたいと思います。