国際的ユーザビリティテストの実施ノウハウ(国別の特徴)

UXエバンジェリスト 金山

11月4日の時点で、2017年の訪日外国人数が、過去最高だった昨年の2403万9700人を上回りました。この状況を追い風にして、訪日を検討している外国人に向けて情報提供やサービス紹介をするには、それぞれの母国語に対応したWebサイトを用意するのが主要な施策の1つと思われますが、単に言葉を翻訳するだけで、情報やサービスの魅力が正しく伝わるものでしょうか。もしかしたら日本人と外国人では魅力に感じる点や適切な伝え方に違いがあるかもしれません。

そこで、効果的なのは現地の人に対するインタビューやユーザビリティテストです。アクセスログでは見てもらえたことまでは分かりますが、その結果、どのように感じたのか、どのように行動したのかまでは把握できません。インタビューやユーザビリティテストを実施することで得られた、文化や価値観の違いを踏まえた改善を行うことで、Webサイトを通した情報の理解度やサービスの訴求度も格段に向上するでしょう。

本記事では、当社がメンバー企業として加盟するUXalliance(ユーザーエクスペリエンス企業の国際ネットワーク)が公開している資料から、国際的ユーザビリティテストの実施ノウハウを取り上げ、面白そうなものをピックアップしてご紹介します。

Planning(計画で考慮すること)

  • 国ごとに祝祭日や休暇期間は様々なので、現地のカレンダーをチェックしましょう。避けるべき時期として、カナダはアイスホッケーシーズン、ブラジルはカーニバルシーズン、ドイツはオクトーバーフェストなどがあげられます。日本はゴールデンウィークやお盆が特徴的です。(訪日観光客にも避けてもらったほうがよいかもしれません。)
  • 実施に適した時間帯は国によって異なります。スペインや南米では日中はお昼寝タイムなので適しません。逆にランチを持ち込んで話を聴けるので適している国もあります。日本では仕事の関係で平日の定時後か休日に実施することが多いですが、米国では休日は家族と過ごすと相場が決まっているのでNGです。交通事情などで予定した時間に参加者が到着しないことが多い国(インド、中国など)もあるので、そのような国で実施する場合は開始予定より20分早いスケジュールを連絡しておきましょう。
  • 国によって高齢者の定義が変わってきます。50歳以上の国もあれば、70歳以上の国もあります。高齢者のリテラシーも国ごとに様々です。実施する国における人口統計やリテラシーレベルに気をつけてプランニングしましょう。

Running sessions(テスト実施における注意事項)

  • テスト実施においては、実施スキルよりも文化的背景を理解していることのほうが重要です。国ごとに適した言葉やインタビュアーの性別などを選ぶ必要があります。
  • 国によって適切な距離感が変わってきます。ブラジルでは初対面同士でもスキンシップが普通です。カナダ、イギリスでは、2フィート以内に近寄ると不快に感じます。南アフリカでは、男女が目を合わせない地域もあります。
  • 思考発話(タスク実行時に考えていることを話してもらう)が適する国と適さない国があります。ブラジルやアイルランドは話し好きな人が多く、中国ではタスク実行中は無口になります。インドではグループインタビューで皆が同時に話してしまいます。ドイツやイギリスでは、世間話から始めて話しやすくしておくことが効果的です。

Interpreting results(結果を正しく解釈するために)

  • 国際的ユーザビリティテストでは、同時通訳をつけることが多くなります。国によってはよい通訳者を確保するのが困難な場合があるので、実施する場合は早めに手配しましょう。(ちなみに、UXallianceのパートナー間はすべて英語でのやりとりになります。必要に応じてそれぞれの母国語に翻訳したり、通訳をつけたりして対応しています。)

これまでのところ、日本市場に進出したいグローバル企業からの依頼で、日本人を対象にユーザビリティテストを行う機会がかなり多くありました。これからは、グローバル対応したWebサイトを海外でテストするような機会が増えてくるのではないかと予想しています。

本記事で取り上げたノウハウは、ごく一部ですので、より詳細にご覧になりたい方は、Cultural differences in usability testing around the world (November, 2011)(英文)をご参照ください。