仕事もデートもUXも、段取りをデザインするということ
インフォメーション・アーキテクト 前島
段取りが悪い人、と言われてドキッとする人は少なくないでしょう。
仕事においても日常生活においても「段取り」はよく取り上げられるキーワードです。
段取りの悪さが与えるネガティブな影響
株式会社ヴァル研究所による乗り換えダンドリ調査によると、「あなたは部下や後輩の乗り換えの段取りの悪さで遠回りをさせられた時、どのような気持ちになりますか?」という質問に対し、18%の人が「相手の評価は下がり仕事もできない奴と思ってしまう」、36.2%が「評価は特に下がらないが気分はあまりよくない」と答えています。部下や後輩と乗り継ぎをしたことがない27.4%を除くと、約74%の人(つまり4人に3人)が段取りが悪いことで気分を害していることになります。
また、同調査では「あなたはデート時に電車の乗り換えの段取りの悪さで相手に遠回りをさせられた時、どのような気持ちになりますか」と女性に質問した場合、15.7%が「幻滅する」、32.3%が「評価は下がる」と答えており、電車で乗り継ぎを伴う移動をしたことがない18.8%を除くと、約6割の女性が段取りの悪さからデート相手にネガティブな感情をもつことがわかります。
このように段取りの悪さは人間の体験にマイナスの影響を与えます。
ユーザー体験のマイナスは滞りから生まれる
ではなぜ段取りの悪さによって人は気分を害すのでしょうか?
それは「滞り」が生まれるからだと言えます。
例えば先日こんなことがありました。
引っ越しを予定しておりインターネットで物件を探していたところ気になるものを見つけ、とある仲介会社のウェブサイトの問い合わせフォームに記入し送信しました。問い合わせが正常に受け付けられた旨が記載された自動返信メールを受け取り、そこには担当からあらためて連絡すると書かれていました。
しかし2~3日待っても一向に連絡が来ないため、仲介会社の電話番号を調べこちらから電話をしてみました。すると電話に出た方から「ちょうどよかったです。お問い合わせいただいた物件はすでに入居予定の方がいらっしゃいまして、他にご希望に合った物件をいくつか見つけましたのでご連絡しようとメールを書いていたところでした。」と言われたのです。
ここで生まれた滞りとは、問い合わせ受付完了連絡からしびれを切らして電話をかけるまでの時間であり、その段取りの悪さがネガティブな印象につながっているのです。彼にとってはちょうどよいのかもしれませんが、私にとっては全くちょうどよくないことに気付いていないわけです。
おそらく彼は私の問い合わせた物件がすでに入居予定であることがわかった段階、もしくはもっと言うと問い合わせた物件の空室状況をこれから確認するタイミングで私に一次連絡を入れることができていれば、2人の間で滞りは生まれず、私のユーザー体験にネガティブな影響はなかったことでしょう。
また別の例では、タクシーの支払い時にも滞りが生じることがあります。
急いでいて目的地まであと数メートルというところで信号につかまったとします。信号待ちの時間にメーターを見て表示された金額を用意し、あとはそれを支払ってタクシーを降りようと準備をしていたところ、車が停まる寸前にメーターが上がり小銭を数えなおさなければならなくなってしまうようなシーンも、ある種の滞りであると言えるでしょう。
タクシーは目先の数十円というプラスを得ることができましたが、ユーザー体験でマイナスされてしまっているのです。
同様のことは、買い物をするとき、レストランで食事をするとき、など日常生活の様々なシーンで起きています。気付く人と気付かない人がいるだけなのです。
段取りをデザインしてUXを改善する
このような視点で言うと、UXの手法であるユーザーシナリオやカスタマージャーニーマップは段取りのデザインであると言えます。ユーザー体験全体において、如何に滞りを無くし、気持ちよく目的が達成される地図を描くことができるかが重要なのです。
年末年始はみなさんお出掛けされる機会が増えると思いますが、出先でのそのやりとり(体験)の中に滞りが生じていないかあらためて考えてみるとUX改善のアイデアにつながるかもしれませんね。
それでは良いお年を。