【UXと倫理】ユーザーデータをどう扱うか

UXリサーチャー 亀山

今回のUXブログのテーマは「倫理」です。

最近、国内のニュースでもWeb上の倫理について取り上げられることが多くなりました。今年私が参加したUXPA2019のオープニングとクロージングの基調講演のテーマがそろって「倫理」でした。UXPAで「倫理」が基調講演のテーマに上がること自体がおそらく初めてであり、オープニング、クロージングともに共通テーマであったことにその重要性が伺えます。個人の情報があまりにも無秩序に、あまりにもずさんな取り扱いが横行している現状のデジタル社会に大きな警鐘を鳴らす講演となりました。UX専門家として、デジタルガバナンスへの理解とそのUXデザインへの責任があるのだと強く訴えかけるものでした。

Web上での個人情報保護に対する関心の高まり

アメリカ大統領選挙で、Facebook の個人情報およそ8700万人分が不正利用されたことは記憶に新しいかと思います。そのことで、ユーザー側は今まで特に気にしていなかった「Web上で企業が個人のデータを収集すること」に意識が向き始めました。またGDPR(欧州一般データ保護規制)の影響も大きくなりつつあります。

米Apple社のクックCEOは、2018年10月にベルギーのブリュッセルで行われた第40回データ保護プライバシー・コミッショナー国際会議(ICDPPC)で「倫理について論議する:データ志向ライフにおける尊厳と尊敬」という基調講演を行っています。そこで、彼は

われわれの個人情報は軍事的効率で武器化されている。
情報は個々には無害なものだが、注意深く収集、合成され、取引され(武器として使われ)ている。

と主張しています。

そこでクック氏はプライバシー保護の柱として

  • 企業による個人データ収集の縮小あるいは中止
  • 自分のデータがどのように集められどう使われているかを知る権利
  • 個人が自分のデータを修正あるいは削除する権利
  • 個人データの安全

の4つを挙げていました。

今後、ユーザーデータをめぐっては大きく2つの流れに分かれていくのではと思っています。
今まで通りユーザーデータを活用していく、もしくはユーザーデータの収集をやめるか、です。

ユーザーデータを活用していくということ

ここ10年のデジタルマーケティングの大きな関心ごとの1つとしてはユーザーデータの解析と活用です。国内でも企業側はAIの活用、会員情報とアクセスログをひもづけた行動解析などユーザーデータの分析技術への関心はまだまだ衰えません。ユーザーの登録情報、行動履歴、位置情報はターゲティング広告やサイト内のリコメンド、その他Webビジネス戦略立案など会社にとって欠かせないものとなっています。おそらく多くの企業がすぐにユーザーデータ活用を中止することには動かないのではと思います。

その場合、どのようにユーザーデータと向き合っていくのかが重要になります。今までのような「利用規約で同意をとればいい」というだけではなく企業としての個人情報の取り扱いのスタンスを理解してもらうための活動が必要になると考えます。

加えて、私たちが個人データと引き換えにどのような価値を得られるかというのも、そのサービスを利用するかどうかの重要な判断の1つとなっていくと思われます。例えば、ファッションECサイトで「過去の閲覧情報やユーザーの趣味嗜好から、好みのコーディネートが自動で提示され、素早く購入できる」このサービスは、個人データと引き換えに得られる価値に値するか...

企業側としては、「ユーザーにとってストレスがない情報取得と、合理的な意思決定ができるWeb体験」という価値かもしれませんが、個人的には、なんとなく意図しないところでターゲットとして分類されているかのようなモヤモヤ感を抱きます。個人データと引き換えに得られる価値がユーザー感覚と離れると、企業側に大きなネガティブインパクトを与えかねないと感じます。またプロファイリングがエスカレートしてしまう危険もあり、その場合、差別や偏見をまねくサービスへとつながる危険があります。

ユーザーデータの収集をやめるということ

「ECOSIA」というドイツ・ベルリン発の検索エンジンをご存じでしょうか。検索者のIPアドレスや閲覧履歴は暗号化されるようで、個人のデータ保護を徹底しています。また、「ECOSIA」で検索するごとに得た広告収入の80%を植樹に利用するそうで、検索エンジンのページでは今自分が植樹できる木の本数がわかるようになっています。

「Apple Card」は「データを収集しません」と発表しました。データをあえて追求せず、ユーザーの購入品目や購入場所、金額などの利用履歴は、Appleのサーバーではなく、デバイス単位で作成される仕組みだそうです。ユーザーのプライバシーを重視してシステムを構築しているのが特徴的です。「ユーザーデータの収集をやめる」という個人情報を尊重したサービス構築が差別化になる可能性があると感じた例でした。

今、国内の企業では、まだユーザーデータの取得合戦が盛んですが、個人情報を利用したビジネス拡大に、より厳しい目が向けられることになっていくのではないかと思います。実際、当社にも個人情報の規約に関してのリサーチの問い合わせもきはじめています。

個人情報の保護とビジネスの成長という課題に対し、われわれUX専門家としてどうサービスをデザインすべきか。実はこのテーマに関して、今年4月に南アフリカのヨハネスブルグで開催されたUX Masterclass 2019で、当社UXマーケティングマネージャーのジョナサン・ウィークスが以下のテーマで発表しました。

「Digital Ethics in Product Design: aligning business and user interests」
(製品設計におけるデジタル倫理:ビジネスとユーザーの利益の整合)

こちらのテーマに関しての内容はまたUX Blogでご紹介していきたいと思います。

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