スクリーン・リーダーで学ぶWebアクセシビリティ(2024年6月19日開催)
2024年6月19日、「スクリーン・リーダーで学ぶWebアクセシビリティ」をオンラインで開催しました。
講演の内容は、2023年6月に開催した同名セミナーをアップデートする形で実施しました。内容の詳細は「スクリーン・リーダーで学ぶWebアクセシビリティ(2023年6月22日開催)レポート」をご参照ください。
また、セミナー当日は時間内に回答できないほど多くのご質問をいただき、ありがとうございました。アンケートでいただいた質問とあわせて、こちらで回答いたします。
いただいた質問への回答
表やグラフの読み上げも参考になりますか?
今回のセミナーではあまり触れられませんでしたが、表やグラフについても情報を得る際の参考にしています。表やグラフは、二次元的に情報を把握する必要があるため、複雑になるにつれて理解が難しくなります。
ただ、表であればtable要素で適切にマークアップして、行と列の内容を関連付けて読み上げさせる、グラフであれば代替テキストなどでテキストによる説明を記載してスクリーン・リーダーで確認できるようにすることで、ある程度内容を把握できるようになります。
スクリーン・リーダーを使用するには学習が必要でしょうか(誰でも簡単に使えますか?)点字は使えない方も多いと聞いたことがあります。
スクリーン・リーダーを利用するには、特有の操作方法を覚える必要があり、ある程度の学習は必要になります。質問内で点字と比較をされているため、視覚障害者の学習方法の一例を挙げると、地域ごとにある視覚障害者を支援している支援センターのような施設や、盲学校などで操作方法を習得するのが一般的です。
点字については、スクリーン・リーダーの利用率の向上などもあり、中途で失明された方を中心に読み書きが行えない人が増えつつあるというのが現状です。
セミナーありがとうございました。デバイスにAIが搭載される事で情報取得・入力方法は変わると思いますか?
それぞれについて変化があるのではと考えています。特に情報取得については、現時点でもWebへの接続は必要なものの、ChatGPTへ画像を読み込ませてテキストでの詳細な説明を生成するなど、数年前では想像できないような活用が行えています。デバイスに機能が組み込まれ、情報取得がより高速に、効率よく行えるようになることに期待しています。
また、文字入力についても、漢字変換や予測入力の精度が向上することで、より早く、正確に入力できるようになるのではと思います。
ご説明ありがとうございました。スマホ利用において、AndroidのTalkBackの利用は低いとのお話でしたが、iPhoneと比べて低い要因をご教示いただけると幸いです。例えば、サイトの動作検証をするにあたって、iPhoneのVoiceOverで問題なければスマホ利用は大丈夫と判断できるものでしょうか?
TalkBackの利用率が低い理由はいくつか考えられるのですが、実用面での理由として、iOSと比べて文字入力がしづらいことが挙げられます。具体的には、少しのずれによって意図した文字が入力できなかったり、漢字変換時の候補の読み上げが不十分となっています。
Webサイトでの動作検証については、利用率の観点からもまずはVoiceOverでのチェックを進めていただくことをお勧めいたします。特に比較的シンプルなWebコンテンツであれば、多くの場合VoiceOverでチェックいただくことで、TalkBackでも問題なく読み上げることができます。
PDFファイルを掲載する際の留意事項について教えていただけませんか。
基本的ですが重要なことは、スキャナーでスキャンした画像をPDF化して公開することは避けていただきたいです。このようなファイルをスクリーン・リーダーで確認すると、画像が埋め込まれていることは確認できても、その内容を読み上げることができない状態となってしまいます。最低限、Wordなどで作成したテキストをPDFへと変換いただけると、テキスト情報を確認することができるため、ありがたいです。
PDFファイルへのWebアクセシビリティ対応というのが各社からよく出てくるのですが、大塚さんからしてもPDFファイルは非常にやっかいに感じられるものでしょうか?スクリーン・リーダーでは読まれないということでしょうか?
必ずしもPDFファイルが読み上げられない、閲覧しづらいというわけではありません。ただ、全く読み上げられなかったり、読みづらいPDFファイルを現在でもそれなりに見かけることがある印象です。
例えば、スキャナーで取り込んだ画像をPDF化したものは、画像が埋め込まれていることは読み上げても、テキスト情報を読み上げることができません。この場合、PDFファイルから全く情報が得られない状態になってしまいます。
また、タグによって文書の構造(読み上げ順序や見出し、表といった情報)が正しく設定されていないと、意図した順序で読み上げられなかったり、特に複雑な長文のPDFを確認する際、目的の情報が見つけづらくなったりします。
スクリーン・リーダーで画面の内容を確認するのに要するお時間は、晴眼者が目で見て確認する場合の何倍ぐらいを想定しておけばよろしいでしょうか。
スクリーン・リーダーの読み上げ速度によって大きく変わること、晴眼者の方も読み上げ速度がさまざまであることを前提に回答させていただきます。
一例として、800文字程度の日本語の文章をNVDAで読み上げさせた場合、普段私が利用している音声速度ではおおよそ47秒、デモンストレーション中でお見せした速度を落とした状態ではおおよそ2分10秒かかりました。
なお、Webページの閲覧を想定するのであれば、文字を読む時間だけでなく、Webページの構造を把握するための時間も考慮する必要があります。スクリーン・リーダーを利用して閲覧する場合、構造を把握するために時間がかかる一方、目で見て確認する場合、二次元的にレイアウトを把握できるため、スクリーン・リーダーでの閲覧と比べると時間は短くなります。
PDFファイルの音声読み上げについて、読み上げの順番などを考慮したファイル制作が必要かと思います。Word原稿以外で作成したPDFファイルはAdobeのAcrobat Reader Proで設定する方法がネット上にもあがっていますが、既存のPDFファイルでその対応をする際にはPDFファイルとしては元素材からの作り直しになりますでしょうか?
既存のPDFファイルであっても、Adobe Acrobat Proで見出しやリストなどの文書構造(タグと呼ばれています)を適切に設定すれば、スクリーン・リーダーで読み上げるファイルが作成可能です。そのため、必ずしもすべてを作り直す必要はありません。しかし、単にスキャナーで取り込んだ画像をPDFファイルとして保存していたり、チラシなどの複雑な構造のPDFファイルの場合、設定箇所が増えたり、適切に文書構造を伝えられない可能性があるため、新たに文書を作成するのが手っ取り早くなる場合もあります。
これまで見てきたWebサイトの中で、アクセシビリティの対応がしっかり行われていると感じたサイトや、どのような対応事例がユーザーから評価が高かったかなどお話伺いたいです。
スクリーン・リーダーでの利用が考慮されていると感じるサイトとしては、コミュニケーションツールのSlackや、Googleドキュメントやスプレッドシートがあります。これらのサイトには、ヘルプページにスクリーン・リーダーでの利用方法が記載されており、各機能も問題なく利用できている印象があります。
これらのサービスがスクリーン・リーダーの利用を考慮して作成されていることに間違いはないのですが、それだけを過剰に意識する必要はなく、ページの構造、内容に合わせた正しいHTMLを書くことで、自然とスクリーン・リーダーで利用しやすいページを作成できると考えています。
企業Webサイトにある、Webアクセシビリティツールを利用することはありますか?
ご質問に記載いただいているのは、ページの本文を音声で読み上げたり、文字を拡大できるツールのことかと思われます。私自身はページの読み上げにはスクリーン・リーダーのみを利用しており、Webページに設置された読み上げ機能は利用していません。私を含め、スクリーン・リーダーや画面拡大といった支援技術を日常的に利用している方の多くは、使い慣れた設定で利用できる、支援技術のみを利用してWebページを閲覧しています。
近年では、自動的な代替テキストの追加やコントラストの変更などが行えるアクセシビリティオーバーレイと呼ばれる機能が組み込まれたWebサイトを見かけることもあります。こうしたツールが提供する機能についても、現状スクリーン・リーダーなどの支援技術やブラウザの設定を変更することで補うことができるため、利用していません。
シニアマネージャー 澤田からのコメント
セミナーを終えてから4週間ほどたちました。その間、当社とお付き合いいただいているお客さまから、何度も声をかけていただきました。
これまでも、セミナー登壇後に打ち合わせの席などで声をかけていただくことはあったのですが、今回は声をかけていただく数も多いですし、「分かりやすかった」という感想をいただくことも多く、非常にうれしく感じています。アクセシビリティが世の中に広まるにつれ、スクリーン・リーダーに興味を持つ方が増えてきているのを感じます。
私はスクリーン・リーダーという技術が好きです。アクセシビリティの文脈では、ともするとハードルが高い印象を抱かれがちなスクリーン・リーダーですが、少しでも分かりやすく、興味を持っていただけるよう、今後も取り組んでいきたいと思います。この度はありがとうございました。
アクセシビリティ・エンジニア 大塚からのコメント
この度は、セミナーへご参加いただきありがとうございました。デモンストレーションでは、実際にWebサイトを閲覧する様子をお見せしながら、スクリーン・リーダーで閲覧しやすい、もしくは閲覧しづらい代表的なコンテンツを紹介しました。併せて最後には、スクリーン・リーダー利用者にとってのWebアクセシビリティの重要さについてもお伝えしました。
デモンストレーションをご覧いただき、Webアクセシビリティに関する問題がスクリーン・リーダーでの読み上げや操作にどのように影響するのかや、Webアクセシビリティが確保されていることが、単なる情報の取得だけにとどまらず、日常生活に直結するような影響を与えることがある点を実感いただけたのではないでしょうか。
本セミナーを、アクセシビリティの向上について検討する一つのきっかけとしていただけていれば幸いです。
アンケートにお寄せいただいたコメント(一部)
- スクリーン・リーダーを入れてテストしてみたりしていたが、実際の利用方法は想像ができていなかった状態なので、利用方法や種類の説明までしてもらえて勉強になりました。
- 大塚さんが実際に使用方法を見せてくださり、私たちが疑問に思いそうなところを澤田さんが質問してくださった、この一連の流れがとても聞きやすく、理解しやすかったです。また、お二人ともお話をするときのスピードだったり、簡潔な言葉を使用しているのも印象的でした。
- スクリーン・リーダーを実際に操作しながらページを読み上げる様子を見ることができたのがとても良かったです。これからのWebサイト制作業務に活かしていきたいです