MITSUE COLORS Vol.01 スペシャリスト対談
Webの今とこれから
Web環境の急速な多様化とともに、Webサイトにて取り組むべき課題もまた高度化・複雑化しています。ミツエーリンクスがコンテンツの提供やサイト構築の受託を開始して20余年。その間のさまざまな経験をもとに、社長の木達一仁と取締役(非常勤)の藤田拓が、各社に共通する課題から話題のキーワードなどを取り上げながら、企業Webサイトの今とこれからを語ります。
CMSの導入と活用でガバナンスは大きく左右される
最初に、企業のWebサイトに共通する課題を取り上げたいと思います。企業規模が拡大するにつれて重要になるのは、サイトの『ガバナンス』、統括や管理体制といわれています。具体的にはどんな課題があるのでしょうか?
Keyword ガバナンス
藤田:コーポレートサイトや商品サイトなど複数のWebサイトがあって、統制の仕方がわからないとか、Webサイトのレギュレーションが揃わなくなってきているなどの問題はよく聞きます。人事、販売など、それぞれの部署や担当が積極的に取り組んでいて、要望が増えるために揃わなくなっている事情もあると思います。
木達:ミツエーリンクスのWebサイトは私が統括していますが、2012年のリニューアル以降いまだに当時のトーン&マナーを維持しています。もちろん、最新のトレンドは無視できませんが、それに偏るとWebサイト全体を支配するトーン&マナーとフィットしない部分が出てきます。同じような例は、企業のお客さまにも日常的なせめぎ合いとして多くあると思います。
藤田:ニーズという点から、新製品販促サイトや採用サイトなどは特に、企業サイトとは一変したWebサイトになるのは必然的です。その年、その時期のトレンドを取り込んで、企業サイトからある程度、独立した世界観を作るわけですから。そういった戦略を実行に移しつつも、企業は社会に訴求したい自身のイメージを保つ必要があり、それは当然Webにも反映しなくてはなりません。ガバナンスに関わる問題は、Webサイトを企業全体の視点で最適化していく仕組み、管理体制がなかなか整わないことが原因だと思います。
木達:企業において、あらゆるメディアをミックスした戦略や戦術をコントロールできるポジションが、日本ではまだ作られにくい環境というのが大きいと思います。欧米では、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー:最高マーケティング責任者)のようなポジションを置いている企業が多数あると聞きますが、国内ではあまり聞かれません。また、Webサイトの運用面からいえば、CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)の導入や活かし方でガバナンスは大きく左右されますね。
藤田:CMSをうまく使えないとか、使いにくいとか、そもそも入れていない企業もあります。CMSを入れているけれど、部署ごとに導入したCMSが違うという事例もよく聞きます。全社で単一のCMSのライセンスを購入して使えば、本当は良いはずです。部署ごとにCMSを変えているケースは、統制が取れないだけではなく、余計なコストがかかっています。海外の企業は、もともと多様な言語を持つ人々が集まっていますので、統一感を持つことに慣れている風土というのも影響していると思います。
木達:ガバナンスがどれだけ欠如すると、間違ったブランドメッセージがどれだけ伝わってしまうかは、実際には計測不可能だと思いますが、ガバナンスの必要性を認識した上で、ガイドラインを活用して統括に取り組むべきです。一方、何でも横一線で揃えて良いのかという意識も不可欠です。グローバル企業の場合、ガバナンスはグローバライゼーションと、ローカライゼーションとのバランスの上に成り立つものですから。そのバランスをどうデザインしてコントロールしていくのかが、ガバナンスに求められる重要な部分だと思います。
PDCAサイクルの対応ツールとしてのMA(マーケティングオートメーション)
では、ここからはWebの未来に関わってくる、いくつかのキーワードを取り上げていきたいと思います。まず『MA(マーケティングオートメーション)』。マーケティングの各プロセスにおけるアクションを自動化するMAが話題です。
Keyword マーケティングオートメーション
藤田:既存顧客や見込み顧客に対して、最適な情報を最適なタイミングと方法で届けることが可能な、MAを導入する企業が増えています。具体的には、顧客に対して届けたメルマガなどに対するリアクションを記録し、そのデータをもとに次のアクションをより適切に、効率的に改善します。ただ、よく聞くのは、価格が高いとか、導入したけれど使いこなせないという不満の声です。
木達:とりあえずMAツールを導入すればうまくいくなどと、期待され過ぎているのかもしれません。MAとはマーケティングの一環ですから、WebサイトにMAツールを導入する以前に、そもそもマーケティングを企業としてどう捉えて、どう取り組むかという戦略があるべきで、それに組み込まない限り、Webでの成果も見えてこないと思います。
藤田:今、盛んに改善とかPDCAの波がWeb業界にも押し寄せてきています。製造業で昔から提唱されている「オートメーションと改善」。この流れに対応するツールとして、MAに取り組む意義はあると思います。現在はMAに限らず、マーケティングを推進するツール、アプリケーションが増えていますが、ノウハウをためて、マーケティング部門と営業部門がうまくやり取りすることが、より大きな効果につながると思います。技術的には、集めたデータの分析にAI(人工知能)を使っていこうという話も出ています。
音声操作のAIアシスタントが、Webを、日常を変えていく
AIを活用したFAQとか、チャットによるカスタマーサービスなども始まっています。WebとAIについては、どのような展開が見られると思いますか?
Keyword AI(人工知能)
藤田:基本的に、AIを活かせる領域は今後増えていくはずです。医療機関などで症状を渡すと診断やアドバイスをしてくれるとか、問い合わせをした内容に対してある程度的確な答えを絞り込んで提示してくれるなどです。大量のデータを扱うのはAIが得意とするところですから。それを企業サイトにどう組み込んでいくのか、きちんとやり取りができるようなインターフェイスを作っていくことが、われわれ制作会社の役目になっていくと思います。
木達:AIが有用な場面が増えていき、その使いこなし度合いで、Webサイトだけではなく、企業のビジネスの成否が分かれていくのは間違いないでしょう。ただ、まだAIはイメージが先行しているように思います。将来的に、なんでもかんでもAIとはならないでしょう。人間ではなくAIが作ったと思しきコンテンツを、直感的に嗅ぎ分けて忌避する人もいるでしょうし。AIを有効に使う場面と、あえて使わない場面との、使い分けが起きると思います。
AIとも関連する『マルチモーダル』。視覚・聴覚など複数の感覚情報を組み合わせたインターフェイスですが、このマルチモーダルとWebサイトの可能性はどのように広がってきていますか?
Keyword マルチモーダル
木達:マルチモーダルの中でも今、一番注目されているのは音声を通じて操作を行う、ボイスUIですね。Appleの「Siri」やAmazonの「Alexa」などの音声アシスタントは広く知られていますが、無線通信機能とボイスUIによるアシスタント機能を持ったスマートスピーカーが、市場に投入され始めています。
藤田:Amazonのボイスアシスタント「Amazon Echo」や、Googleが開発したスマートスピーカー「Google Home」ですね。「Amazon Echo」は、音声コントロールのAIアシスタント「Alexa」に接続していて、その受け答えを学習させる機能があるため、パターンが増えることにより、さまざまなシーンに対応できるようになる可能性を秘めています。今後は、ユーザーが「Aのお店にキャベツの在庫がある?」と聞くと、AIアシスタントが「売り切れです。入荷したらご連絡しましょうか?」と応答してくれるようになるかもしれません。また、将来的にこれらのデバイスがWebとよりシームレスにつながることで、さらに新しい可能性も広がっていきそうです。ただ、Webサイトそのものがきちんとした作りでないと、そもそもAIアシスタントが正しく判断できず、適切な返答が返ってこないでしょう。機械にとっての読み取りやすさは、今後のWebサイトに求められる重要な条件になると思います。
木達:良い意味で人間が楽をできる技術としてのAIは、アクセシビリティの分野ではとても期待されています。例えば、Facebookでは「この写真のこの顔は誰々さんではないですか?」といったように、かなりの確度で写り込んでいる人物を言い当てることができていますね。同様に、その写真に動物が写っているのか、乗り物が写っているのかなどを判断するレベルの類推は、すでに実現されています。機械が自動で画像の代替情報を生成して、ユーザーに提供できる世界は、近くまで来ています。
コンテンツは拡散してもWebの根本思想は変わらない
次に、『Webと他メディアの融合』について。例えば、出版とWebなどでは、どのような動きがありますか。
Keyword Webと他メディアの融合
木達:出版とWebの融合はすでに始まっています。2017年2月1日に、電子出版の国際標準フォーマット、EPUB(イーパブ)を策定した国際団体であるIDPF(International Digital Publishing Forum)が、Web技術の標準化団体、W3C(World WideWeb Consortium)に統合されました。出版とWeb、違った歴史をたどってきたメディア同士が、いよいよひとつになり始めています。これは歴史的な動きであり、とても象徴的です。今日あるまでにWeb技術が広く普及している以上、あらゆるコンテンツがWebという基盤の上で表現されるようになるのは必然でしょう。
藤田:Webはさまざまなインターフェイスであり、そもそもの情報の基盤となる仕様だと私は思っています。Webの仕組み自体を作ったティム・バーナーズ=リーの著書「Webの創成― World WideWebはいかにして生まれ どこに向かうのか」(絶版)を折々に読み返しますが、Web技術があらゆる物事を紐づけていく可能性は、すでにそこに書かれています。流行り廃りで消えていくものもありますが、Webの根本は変わらない可能性が高いと思います。
Webのコンテンツには書籍と同じく「ページ」という単位が使われていますし、もともと親和性は高かったのかもしれませんね。さて次は、最近話題にあがる『コンテンツの断片化』についてお聞きしたいです。
Keyword コンテンツの断片化
木達:ページの一部が切り取られるようなかたちで、もともとひとまとまりで提供されたコンテンツが、どんどん部分的に利用されたり拡散されたりするようになったのは、コンテンツの断片化と呼ばれる事象の一例でしょう。これは物理学の世界でいうエントロピー増大則に似て、避けがたい不可逆変化ではないかと思います。ですから、むしろコンテンツが断片化することを前提としたとき、どのような価値を提供できるかが今後の課題だと思います。
藤田:コンテンツが断片化することを前提として、再利用性を高めるという流れができています。ですから、最初から再利用しやすいかたちになっていればいるほど、使い勝手が増します。先ほども出た機械にとっての読み取りやすさ、マシンリーダブルであるかどうかが影響します。使うか使わないかはニーズの問題ですが、再利用しやすいようにしておいた方が、広く情報が波及して、それが欲しい人に届く可能性も高まります。
木達:コンテンツの断片化について、私が個人的に興味深く思うのは、時間軸から見たときの断片化です。コンテンツはWebサーバー上から消されてしまったら、二度とアクセスできなくなってしまいます。あるドメインの過去のコンテンツ、例えばあるサイトのオープン当時のページはどんなだったか、見たいと思ってもアクセスできなくなっていた、という体験は少なくないと思います。その場合でも、インターネットアーカイブ(https://archive.org/)のようなサービスがコンテンツを保存してくれていれば、アクセスが可能になります。もちろん、コンテンツの提供側がアーカイブされることを望まない場合、その希望は尊重されるべきですが、そうでない限り時間の経過とともに更新され、断片化したコンテンツも随時アクセス可能にできたら、新たな価値や利便性が生まれるのではないかと思っています。
一緒に作り上げていくスタイルでWeb技術の専門家として貢献したい
ここまでWebに関わる人たちが、今後注目しておいた方が良いキーワードについてお話しいただきました。それでは、こうしたWeb界隈の動きを受けて、われわれWeb制作会社に求められるのもの、われわれが目指していくことを教えてください。
Keyword 運用ファースト
藤田:例えばビルなどを建てるときでも、外側ばかりを気にして構造の設計をおろそかにしてしまうと、使いづらかったり、不審者に侵入されやすくなったり、ちょっとした地震で崩れてしまうことになります。企業サイトも土台が肝心で、Web標準技術を活用して、しっかりとした基礎部分を提供するのが制作会社の務めだと思います。そして、欠かせないのは、やはりガイドラインとアクセシビリティです。人に対しても機械に対しても、情報を提供しやすい、届けやすいというのは変わらない価値です。特にこれからグローバルを目指す企業であれば、不可欠な要素だと思います。
木達:Webが社会浸透するにつれ、当然企業の担当者の方々もWebに詳しくなってきていますが、ミツエーリンクスはWebの専門家として、より深いレベルで技術を理解し、その価値を提供することが使命だと思っています。目指しているのは、Web技術という道具を使い、お客さまと一緒になってビジネスを作り上げていくスタイル。その象徴が、2015年から掲げている「運用ファースト」というスローガンです。これはWebサイトを構築した後の運用にフォーカスして、お客さまが継続的改善を実現するための支援に、全社をあげて注力したいという考えの表れです。これからもミツエーリンクスをWeb活用のパートナーとして選び続けていただけることを願っています。
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