SXSW 2006参加報告
Web開発チーム フロントエンド・エンジニア 木達 一仁米国テキサス州オースティンにて、今月10日から14日にかけて開催されたSouth by Southwest Music and Media Conference(SXSW)に参加しました。SXSWといえば音楽見本市として有名ですが、ミュージックのほかにもフィルムとインタラクティブの2部門が設けられています。なかでもインタラクティブは、世界的に活躍しているWebデザイナーや開発者たちが、最新のトピックスをテーマにプレゼンテーションやディスカッションを行う場として、近年業界の注目を集めています。
自分にとってSXSWは、昨年日本から参加された方の体験談を耳にして以来、是非とも参加したいと思っていたイベントでした。また今年は、自分もメンバーの一員であるWeb Standards Project(WaSP)が2つのパネルを計画していたこともあり、視察と勉強を兼ねて会社から派遣させていただく運びとなりました。
SXSW開催期間中、多数のパネルが行われますが、同じ時間帯に平均4〜7つのパネルが会場を別にして進行します。それゆえ、参加したいパネルが同じ日時に重複したりすると、どれに参加すべきか非常に悩まされます。全体ではどのようなタイトルのパネルがあったかはSXSWのサイトをご覧いただくとして、自分の参加したパネルを中心に、以下日々の感想をごく手短にご報告します。
1日目
初日に参加したパネルのなかでは、「How to Be A Web Design Superhero」が非常に興味深く、また楽しめました。英語圏では特によく名の知られたWebデザイナーのAndy Clarke氏とAndy Budd氏がコンビで行ったこのプレゼンでは、Webデザイナーの備えるべき資質が、バットマンやスーパーマンといったヒーローのそれに例えて紹介されました。プレゼンの資料(PDF形式)がAndy Clarke氏のBlog上で公開されているので、是非ご覧いただきたいと思います。
また、「How to Bluff Your Way in DOM Scripting」というパネルでは、次第に注目されつつあるDOM Scriptingについて、CSSとの類似性を軸に解説がなされました。「getter」と「setter」という言葉によって、双方がいかに言語的に共通性を有しているかという点が理解できたように思います。Web標準志向のスクリプト言語として、今後DOM ScriptingはJavaScriptよりも普及するかもしれません。
2日目
朝一番に参加したパネル「How (and Why) to podCast an Event」は、最近増えつつあるイベント内容のPodcastingについて考えさせられたパネルでした。講演内容を無償で公開することは、何らかの事情によりイベントに参加できなかった人々にとってある種の福音ですが、しかしそれが有料のイベントで、かつスポンサーをつけているものであれば尚更、公開の是非を慎重に検討すべきと感じました。
「Web 2.1: Making Web 2.0 Accessible」では、WCAG 2.0の進捗や近年のWeb制作業界におけるアクセシビリティへの取り組みを踏まえ、今後の方向性などが語られました。特にパネラーのあいだで強調されていたのがユーザーテストの必要性。ガイドラインやそれに紐づいた実装上のノウハウはだいぶ普及した感がありますが、潜在的な問題への気付きを得てアクセシビリティを高めていくためには、本来実地のテストが欠かせません。テクニックに関する議論や普及がひと段落した先には、この種のニーズの高まりが当然予測されるわけで、弊社としても今後どう取り組むべきか、検討したいと思います。
3日目
午前中の「CSS Problem Solving」は個人的に期待の高かったパネルのひとつですが、しかし残念ながら紹介された内容は既知のものばかりでした。具体的にはスタイルシートを記述する際に悩みがちな問題、たとえばインライン要素への背景画像の指定にまつわる問題や垂直センタリング、マージン相殺といった事柄について、個々にベストプラクティスが紹介されたりしました。
午後の「WTF: WaSP Task Force Panel: Getting the Job Done Right」と「WaSP Annual Meeting」は、先に書いたようにWaSPが企画したパネルです。前者のなかでは、各タスクフォースの代表者からの活動報告がありました。特にMicrosoftタスクフォースの活動に対しては、今年から来年にかけて正式版の登場が予定されているInternet Explorer 7への注目の高さからか、会場から質問や提案が相次ぎました。
後者はSXSWに参加した全WaSPメンバーがステージに勢ぞろいし、参加者と対話しながら年次ミーティングを行うというもの。共同創設者のJeffrey氏や初期メンバーのJohn氏の昔話に続き、WaSPサイトのリデザインセレモニーも行われました。新しいサイトはWordPressを用いて構築されており、一般からのコメントやトラックバックを受け付ける仕組みになっています。またメンバー各自の自己紹介タイムのなかでは、私も日本での活動を(Web標準Blog含め)報告したりもしました。
WaSPの活動については、いくつかの興味深い提案もなされ、今後の活動への期待の高さを感じました。私個人としては目下停滞してしまっているWaSPサイトの翻訳活動を再び以前のペースに戻し、しっかり英語圏での動きをリアルタイムで紹介できるようにするとともに、オフラインでのリアルな活動も展開する必要性を感じています。また、教育とモバイルという2つの分野について今後さらにフォーカスしていきたいと思いました。
4日目
日本を出る前から継続していた業務との兼ね合いから、唯一参加できたのが「How to Convince Your Company to Embrace Standards」。AOL/Time社がWeb標準志向にスイッチするまでの過程には、社内で草の根的に組織されたWSAG(Web Standards Advocacy Group)の活躍があったそうです。Web標準が普及していくうえでは、そうした地味で地道な活動もまた必要なわけで、そういった活動を企業の枠を超えて緩やかに連携させされるような仕組みもあったら良いのではないか等、今後のWeb標準の普及啓蒙に向けたヒントが得られたような気がします。
4日間を振り返って
以上、かなり端折って私の参加したパネルの模様や感想をご紹介してきました。しかしSXSWの魅力は、これらパネルのコンテンツばかりではありません。休憩時間などにパネラーやスピーカー、あるいはSXSWに集った名だたるWebデザイナーや開発者の人々と交流できることも、魅力のひとつでしょう。
メーリングリストを通じてしかお互いを知らず、リアルでは会話したことの無かった間柄であったりとか、あるいはBlogを一方的にチェックさせてもらっているだけの関係だったのが、SXSWという場で実際に言葉を交わすことができ、急に互いの距離が縮まるように感じられたのは、なかなか味わえない醍醐味です。日本国内でもそういう場面はもちろんありますが、海を越えての話となると、また格別です。
またSXSWでは毎晩、何がしかのパーティが催されており、そちらもまた良い交流の場、意見交換の場となっているようです。「ようです」としか書けないのには理由があって、というのも結局ホテルで連夜日本から持ち込んだ仕事に取り組まざるを得なかったのでした(すべては自らの調整不足のせいとはいえ、年度末の繁忙期だけに、いかんともしがたい状況でした)。
来年、またこのSXSWのためにオースティンの地に出向くことができるかどうかは分かりませんが、実現できた暁には、是非とも「夜の部」にも参加してみたいと思います。
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