IE7のリリースに備えて
Web開発チーム フロントエンド・エンジニア 木達 一仁2006年第4四半期(10月〜12月)、つまり今年の大晦日までのあいだに、マイクロソフトが提供するWebブラウザ・Internet Explorer 7(以下IE7)の最終製品版がリリースされる見込みです。これは高いシェアを誇るIEの次期バージョンであり、既にリリース候補(Release Candidate、以下RC)バージョンが公開されています。本コラムでは、IE7とそれがWebコンテンツ実装にもたらすインパクトについてお話したいと思います。
IE7の概要
今年中の登場が予定されているIE7は、Windows XP SP2向けのもの(Windows Internet Explorer 7forWindows XP)です。来年以降に登場の次期WindowsプラットフォームであるWindows Vista向けは、Windows Internet Explorer 7inWindows Vistaと呼ばれ、搭載するレンダリングエンジンは同じながらも提供される機能は両者で異なります。詳細はMicrosoft Internet Explorer 7 : ホームやIE7の開発者らが自ら情報発信を行っているIEBlogをご覧いただくとして、IE7の備える特長としてよく以下の6点が挙げられます。
- 合理化されたインターフェイス
- タブブラウジング機能の搭載
- 向上した印刷機能
- RSSへの対応
- 検索ボックスの提供
- 改善されたセキュリティ機能
確かに、タブブラウジングや検索ボックス、RSS対応は既存のIEには無かった機能ではありますが、他のブラウザで利用できるようになって久しいものであり、目新しさはありません。
それよりWebサイト構築の現場でよく話題になるのは、Web標準に対するIE7の準拠の度合いではないでしょうか。Web標準準拠、狭義にはフルCSSレイアウトと呼ばれる手法がWebコンテンツ実装におけるメインストリームとなりつつある昨今、Mozilla FirefoxやSafari、Operaと比べるとWeb標準への準拠度合いが低いながらもユーザーシェアにおいて圧倒的な割合を占めるIEは、スタイルシートの作成時に少々厄介な存在となっていました。
しかしIE7では、既存のバージョンが含んでいた数々のバグを解消し、またCSSでこれまでサポートしていなかったプロパティやセレクタに対応するなど、準拠度合いが格段に向上しています。他のブラウザからすればまだ不十分であるといった意見や、過去数年にわたりバージョンアップがなされなかった経緯を批判する声も聞かれますが、しかし大きな前進には違いありません。今後も定期的なバージョンアップを行うなかでWeb標準サポートを向上させる方針が打ち出されていますから、将来のIEには一層期待が持てるように思います。
IE7がWebサイト構築にもたらすインパクト
上述のような特長を備えたIE7は長く登場の待たれた存在ですが、しかしここで注意しなければならない点を2点挙げます。第一に、(Web標準に、ではなく)IEの抱えていたバグや独自の解釈を拠り所としてコンテンツを実装していた場合、IE7では意図したとおりのレンダリング結果が得られず、レイアウト崩れや文字サイズに変化が生ずる可能性があります。
IE7におけるCSS仕様への対応状況について、詳しくはIEBlogのDetails on our CSS changes for IE7エントリを参照していただきたいのですが、IE6までは有効だったCSSハックが複数利用できなくなる(無視されるようになる)点は要注意です。また、<?xml> prolog no longer causes quirks mode
という項目があります。これは、xml宣言を記述するとDOCTYPE宣言の内容如何にかかわらずIE6が常に後方互換モードでスタイルシートを解釈してしまう問題を解消したことを謳っています。
つまり、XHTML文書でxml宣言を記述していた場合、DOCTYPE宣言の内容次第ではIE6とIE7とで異なるモードによりレンダリングされてしまうことを意味します。標準準拠モードと後方互換モードという2種類のレンダリングモード間には、ボックスモデルにおける算出方法やデフォルトの文字サイズをはじめ多くの点で違いがありますから、結果的に意図せぬレンダリング結果がもたらされる可能性があるわけです。
第二にIE7の配布方法についてですが、Windows XPのもつ自動更新機能を利用して配布することが決定しています。これは、初心者が意識せずとも最新版を導入できるようにとの配慮から決められたようで、最終製品版の発表から6ヵ月後を目処に開始するとのこと(開始までは手動でのインストールが必要です)。
IE7が自動的にインストールされるのを避けたい企業向けに「Blocker Toolkit」が配布されますが、自宅等で同ツールを導入していない環境であれば、ある日突然IE7へのバージョンアップが実施されることになるのでしょう。
どの程度の割合に及ぶかはわかりませんが、Windows XP上でIE6を使うユーザーの多くが、ある日を境にIE7ユーザーへとスイッチすることになるのです。もちろんIE6へのダウングレードも(「コントロールパネル」の「プログラムの追加と削除」から)可能になるようですが、提供される新機能の数々を勘案すれば、積極的にダウングレードするユーザーの数は少ないように予測します。
以上まとめますと、自動更新を用いたIE7の配布に伴い、ごく短期間のうちにそのユーザーシェアが増大する可能性が高いと思われます。必要以上に不安を煽るつもりはありませんが、その日を迎えるまでにIE7への対応を済ませ、意図せぬレンダリング結果がもたらされる可能性を無くしておきませんと、ちょっとした混乱を引き起こしかねません。
最終製品版のリリースに備えて
そういった事態を避けるためには、今現在入手できる最新のIE7(本稿執筆時点ではRC1)でもって既存コンテンツの目視確認を始める必要があるでしょう。また、これから構築を予定しているWebサイトであれば、ターゲットブラウザにIE7を含めておくほうが賢明であると思います。
少し前まで配布されていたIE7はベータ版(Beta1〜Beta3)であり、設計時点で勘案する対象にはやや時期尚早との認識でいました。しかしリリース候補バージョンのRC1は(少なくともレンダリングエンジンに限っては)最終製品版と大差無いはずで、弊社内でもサイトの公開が年末〜年明け以降のプロジェクトでは設計段階でのターゲットブラウザにIE7を含めるようにしています。
IE7への対応といっても、実質的にはWeb標準に準拠するよう実装することになるかと思います。主要なモダンブラウザの多くがWeb標準志向で開発とリリースがされているなか、ブラウザ固有の解釈や癖といったものに対応しなければならない場面や必要性は今後ますます少なくなるはずです。標準に準拠して制作しさえすれば全てのWebブラウザでもって意図したとおりの表現を提供できる、そんな世界へ向けた第一歩として、IE7のリリース日に向けた準備を始めてみてはいかがでしょうか。
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