アジア圏におけるWeb標準の普及に向けて
Web開発チーム フロントエンド・エンジニア 木達 一仁W3C10 Asia
11月28日、東京台場で開催されましたW3C10 Asiaというイベントに参加しました。これは、多くのWeb標準を策定しているW3Cのアジアホストが慶應義塾大学に開設されて10周年を迎えたことを記念する祝賀式典です。私はそのイベントのなかで催された公開シンポジウムのひとつ「日本のIT産業とWeb標準との微妙な関係」に、パネリストのひとりとして参加させていただきました。当日の模様は「ITmedia エンタープライズ:標準化と産業界のビミョウな関係」にて紹介されています。
Webデザイン業界とWeb標準の微妙な関係
公開討論の冒頭、パネリストごとに短いプレゼンテーションを行いました。私のプレゼンでは、簡単に弊社の概要やWeb標準とのかかわりをご紹介した後、Webデザイン業界とWeb標準の微妙な関係ということで以下の四点を挙げました。
- Web標準の適切な利用はいまだ道半ば
- CSS 2.1はまだ正式に勧告されていない
- WCAG 2は使える?使えない?いつ勧告される?
- 面白いことは「W3Cの外」で起きている(WHATWG, microformats, etc.)
日本国内に限っていえば、Web標準に準拠した制作というのは比較的よく普及しつつあると認識していますが、しかし世界的にみればまだ取り組みは不十分である、というのが第一点。二点目については、CSS 2.1というのはあくまでもひとつの例ですけれど、とにかくひとつの仕様が草案から勧告に至るまでに要する時間が長すぎる、ということを意図しています。三点目のWCAG 2については、新たに特定の技術に依存しない方針で策定されていたり、ベースラインという既存のバージョンには無い考え方を採用していることの周知が十分ではないためか、一部にはそれが本当に便利なものなのか、不安や懸念があるということを述べました。最後の四点目は、W3Cの外で行われている標準化活動のなかにも、Web制作者視点でたいへん興味深いものがあることを紹介しています。
W3Cの活動についての懸念
上述の「微妙な関係」と内容的にやや重複しますが、W3Cの活動についての懸念事項として以下の三点を挙げました。
- 仕様策定に時間がかかりすぎているのではないか?
- 産業界との連携やニーズの吸い上げが不十分ではないか?
- (日本からワーキンググループに参加するにあたり)言葉の壁、時差をどうクリアすべきか?
ユニバーサルな存在であるWebで利用する仕様である以上、その策定に一定の時間がかかることはいたしかたないでしょう。しかし、Web上での実際の技術動向と仕様策定プロセスのペースとがあまりにかけ離れたものとなってしまえば、結果的に「使えない」標準を作ってしまうことにもなりかねません。また、そのプロセスのなかで実際に仕様を使う立場の方々からの意見やニーズといったものをどれだけ収集し反映できるかという点も重要でしょう。無論、使う側からの積極的な参画(草案へのコメント提出等)も必要ではありますが、そこには後述する「言葉の壁」もありますから、双方がうまく連携できる仕組みが必要である、と感じています。
W3Cにおける仕様策定プロセスへの提言
以上を踏まえ、W3Cにおける仕様策定プロセスへの提言として、下記三点を述べました。いずれも過去に指摘されてきた点ですし、「言うは易し、行うは難し」であることは十分わかったうえでの提言です。これまでのW3Cにおける一連の標準化活動に対しては最大限の敬意を抱きつつも、今後来るべき10年を見据えたとき、既存の標準化プロセスの見直しは必須であるとの思いを伝えよう、というのが趣旨でした。
- Webデザイン業界やブラウザベンダとのより密接な共同
- より効率的な意見集約と仕様策定の加速
- より活発なアウトリーチ
英語を公用語としない国や地域に住み、英語を不得手とする人々(私もそのひとりなわけですが)にとっては、W3Cに対して意見をいかにタイムリーに伝えられるか、あるいは逆にW3Cの側でもそういった人々のもつ意見をどれだけ効率/効果的に吸い上げられるかというのは課題であると思います。Webがユニバーサルである以上、言語的あるいは文化的な相違を超えたところで全世界的な共同が必要であることは間違いなく、地域的にみればアジア圏では特に、今後その課題の解決に向けた取り組みが必要とされるのではないかと思います。
仕様策定というプロセスは、つまりコミュニケーションそのものであって、時期的にそのリデザインが求められている、と考えます。W3Cにおいては、新しいHTML仕様の策定に向けた動きが活発化していますが(コラム「再び注目を集めるHTML」参照)、Webにとって極めて基本的でかつインパクトの大きな仕様を定めるうえでは特に、リデザインが必要とされているのではないでしょうか。
SOFTEXPO & DCF 2006
W3C10 Asiaの翌日と翌々日はW3C会員限定で年に二回催される会議が予定されており、本来であれば弊社の代表(役職名をW3C Advisory Committee Representative、略してACRepと呼びます)である私は参加したかったのですが、SOFTEXPO & DCF 2006に参加するため韓国に向かいました。韓国ソフトウェア振興院(KIPA)よりお招きいただき、Web標準に関する講演を行うためです。
内容的には、7月に日本で行われたイベント「The Day of Web Standards [Web標準の日]」の基調講演とほぼ同一ですが、IE7の登場といったその後の状況変化を踏まえ、アクセシビリティについても時間を割いてお話しする構成にしました。当日は100人以上の方々にお集まりいただき、同時通訳を介しての講演となりましたが、無事に終えることができました。
韓国におけるWeb標準準拠への取り組みは一年ほど前から活発化しているそうですが、日本と比べてしまうとまだこれからといった状況で、それは書店に足を運んだ際にWeb制作関連の書籍をチェックしても明らかであるように感じられました。閲覧環境として特定のブラウザのみを対象としているようなWebサイトも多く、講演後に参加したイベント「2nd Korea Web Standards Day」では、顧客や同じ会社の人間にWeb標準をどう訴求すべきか、あるいはWeb標準準拠が果たしてコスト的メリットを本当にもたらすのかといったテーマで、盛んに意見交換が行われていました。私の講演が、Web標準準拠へのポジティブなムーブメントを少しでも後押しすることができたら、と願って止みません。
アジア圏におけるWeb標準の普及に向けて
以上、2つのイベントへの参加を簡単にご報告してきましたが、これらとは別に10月からは北東アジアOSS推進フォーラムの活動に参加させていただいています。このフォーラムは日本、中国、韓国におけるオープンソース・ソフトウェアの普及を促進するものですが、ワーキンググループのなかに標準化・認証研究を行うもの(WG3)があり、さらにそのサブワーキンググループのひとつ(SWG2)がWebの相互運用性に関する調査/研究を行っています。私はそのSWG2に日本の委員のひとりとして参加させていただくことになったのです。Webコンテンツあるいはブラウザにおいて、相互運用を妨げる要因にどのようなものがあるかを探るわけですが、そちらの活動を通じても、アジア圏におけるWeb標準の普及に向け、着実な歩みを進めていきたいと思います。
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