TPAC 2008参加報告
フロントエンド・エンジニア 矢倉 眞隆W3Cでは毎年秋に、TPAC(Technical Plenary / Advisory Committee meetings)というイベントが開かれます。名前にあるとおり、会期中にはWebに関係するトピックについてディスカッションするTech Plenary Dayと、W3Cの運営状況やこれからについて話し合うAdvisory Committee meetingが開かれます。また、各ワーキンググループのミーティングも行なわれます。
今年のTPACは、10月20日から24日までの5日間、南フランスのカンヌに近い、マンドリューという場所で開催されました。弊社もW3C Memberであることから過去数回にわたり参加しており、今年は22日のTech Plenaryおよび、23、24日に行なわれたHTML WGのミーティングに参加してきました。今回は簡単に、TPACで話されていたことをレポートしようと思います。
Tech Plenary
10月22日に行なわれたTech Plenaryは、Tim Berners-Leeのキーノートからはじまりました。来年3月に誕生から20年を迎えるWorld Wide Webが現在抱える問題について、どのように片付け(“cleaning”)をしていくか、聴衆に提言する内容となっていました。
今年の大きなテーマは、これまでのWebが機能しなくなってきている現実にどう対処するものか、というものです。
具体的なトピックとしては、HTML5が行なう「Webの再定義」への懸念などが議題にあがりました。HTML5の策定を進めるにあたり、HTTPやURI、HTMLなどの定義と、Webブラウザーなどのソフトウェアが実際に行なっていることの齟齬が問題になっています。このためHTML5仕様では、一部においてそれらの独自定義を行なっており、それがWebアーキテクチャーに影響を及ぼさないか、という懸念があるのです。
「仕様書は抽象的な定義を行なうものであり、詳細は実装する側にゆだねるべき」とTim Berners-Leeが言えば、「その結果ブラウザーで実装の非互換が起こり、今日まで引きずる問題となってしまった。実装側が詳細な定義を共有するのは悪いことではない」という反対意見もあるなど、とても議論として楽しめるものでした。双方の主張にはどちらにも頷けるものもあり、どちらが優れているかを決めることはできません。しかし、より実装者と近づいた仕様策定のようなプロセスをW3Cは取ってみるべきではないかとの主張には、日々CSSやJavaScriptの非互換に対処を迫られるWebデザイナーとしては、とくに賛成したいところです。
とはいうものの、一番の賞賛を得たコメントは「Webはユーザーのためのもの」といったとてもシンプルなものでした。ユーザーのためには何が良いかをきちんと判断し、今後のWebを導くビジョンが、W3Cや各技術に求められているのだと強く感じた一日でした。
HTML WG F2F
TPACの期間中、Tech Plenaryの日以外は、各ワーキンググループのFace to Faceミーティングが行なわれます。HTML WGのミーティングでは、HTML5が他の仕様に与える影響について、その衝突を回避するために何を行なうべきかが話されました。
1日目は主に、W3C Technical Architecture Group(TAG)とのWebアーキテクチャーにかかわる意見交換や議論を中心に進みました。Tech Plenaryと同じような俯瞰的な視点から、より技術的な詳細に突っ込んだものまで、かなり深い意見の応酬が行なわれていました。また、「URLのように、他の仕様からも参照できるものは分割すべきだ」との提案などもありました。この提案には皆、賛同はしたものの仕様をまとめる人的リソースが足りない現状もあり、なかなか進みはしないだろうという見解も共有されました。
2日目は、HTML5仕様の各セクションを読み、「実装待ち」「議論が予想される」「実装が既に存在する」といった、安定度合いを注釈としてつけていく作業が行なわれました。まとまった人数でHTML5仕様書を読むといった機会はこれまでになく、現状を共有するとてもよい時間になりました。
その後は、SVG WGとの合同ミーティングが開かれました。現在のSVGはXMLベースのため、HTML5のHTML構文では利用することができませんが、SVGという魅力ある機能をHTMLに取り込むべく、HTMLでも利用可能なSVGの実現に向けた話し合いが進められています。今回の合同ミーティングでは、XMLベースのSVGをHTMLで利用する際に問題となる構文上の課題や、デザインゴールについて議論が行なわれました。
他WGとの交流が予想以上にうまくいったことや、現状の把握ができたことなど、総じて実りあるF2Fであったように感じました。
期間中の交流
TPACの楽しみの一つに、ランチタイムの交流があります。食事やワインを楽しみながら、WGの壁を越えた交流を昼食時に行なうのです。技術的なトピックだけではなく、自分の家族や住んでいるところなど、トピックはさまざま、話は尽きません。
会議後には、会場となったホテルに隣接するビーチでくつろぎながら、またはバーでお酒を飲みながら交流を深め合うといった光景も見かけました。また、なんと海に飛び込み泳いでいる方々も。南仏という温暖な気候の為せるわざなのだろうと納得はしましたが、海からTim Berners-Leeが出てきたときにはさすがにびっくりしました。
ばたばたとしていた数日間の滞在でしたが、内容も充実しており、また楽しいTPACとなりました。
Newsletter
メールニュースでは、本サイトの更新情報や業界動向などをお伝えしています。ぜひご購読ください。