「用即美」とWebデザイン
アートディレクター 田中 遼馬「用即美」と器
数年前、日本民芸館に行った際、「用即美」という言葉に出会いました。
これは民芸の提唱者である柳宗悦の言葉で、『伝統工芸品の美しさは、生活の中で使われるうちに、「用」のみが残った美しさ、「用即ち美」である』という考え方です。
この柳宗悦の「用即美」を自分なりに咀嚼するうちに、「用に即することで生まれる美」というものもあるのではないかと考えるようになりました。というのも、私はここ数年趣味で陶芸をやっているのですが、器を様々創る中で感じた良い器ができる時の条件が、このことにつながったからです。
その条件は「形をつくる段階から、その器が使われる様を想像できているか否か」というものです。
どんな人が、どんな時に、どのような料理を盛り付けて使うのかをしっかり想像できているか、それによって器の出来が大きく変わってきます。このことがしっかり想像できていない時は、大抵、ただ見た目が面白いだけで、料理の映えが悪く、使い勝手が悪い器になってしまいがちです。
具体的な利用シーンを想像することによって、サラダを盛る器なら緑が映える色で、人数が集まる時に使う器なら大きめのサイズに、器を持ち上げる機会が少ないのならば重めにして安定感をだして、など、様々な用途を器の形や色に落とし込むことができます。そうすることで、料理に合わせた器や使う人に合わせた器、使い方に合わせた器が出来上がり、使い勝手の良い器として頻繁に使っていただけるものとなるのです。
そこには、使う人のことを考えた必然性のある美しさが現れているように感じます。このことは、まさに「用に即することで生まれた美」といえるのではないでしょうか。
「用即美」とWebデザイン
さて、長々と器の話をしてきましたが、実はおなじようなことがWebデザインにもいえると感じています。というのは、ここ数年Webの世界でも注目され続けているユーザビリティの考え方や、人間中心設計(ヒューマンセンタード・デザイン)の考え方がここまで書いてきた器の話に近いと思われるからです。
ユーザー目線で考え、ユーザビリティを高め、それをサイト制作に落とし込んでゆく。これは、Webサイトをひとつの道具と考えた際には、まさに「用に即する」という考え方に近いものがあるといえます。
Webデザインにおいて、ユーザ目線で考えない(用に即さない)見た目というものは、たとえそれ単体で美しかったとしても、道具として、Webサイトとしては決して美しいものとは言えないでしょう。
なぜならば、先述の器の例でいえば、用に即さないwebデザインというものは「器自体の見た目が面白いだけの、料理が映えない使い勝手の悪い器」と同じになってしまうからです。最初の印象が綺麗だなと思っても、実際に使ってみて使い勝手が悪くては、Webサイトとしては結局よい印象を与えられません。さらには、はじめに思った綺麗だなという印象さえも相殺することにつながってしまいます。
「用に即することで生まれる美」という考え方において、「美」というものは、見た目だけではなく、使うという大きな要素を考えた上での必然性のある「美」ということになると考えています。ですので、表面上の見た目での美しさと、実質の使う上での美しさが一致することこそが今回言うところの「用即美」の大切なポイントだと思います。
Webサイト全体戦略に基づいた見せ方の方向性の中で、「用に即する」ことで必然性を持った美しさというものを引き出すこと。これが、Webサイトのユーザビリティの重要性が大きくなってきている昨今のWeb業界で、Webデザインに求められるもののひとつといえるのではないかと感じています。
終わりに
弊社では、この「用に即する」という点のプロフェッショナルである、ユーザビリティエンジニアがおり、さらにアイトラッキングやユーザーテストを行える施設がそろうという恵まれた環境があります。その中で「用に即することで生まれる美」を引き出し、webデザインとして定着させるということをWebデザイナーの大切な仕事と意識しつつ、今後もしっかりと取り組んでいきたいと考えています。
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