編集、私のやり方
ユーザエクスペリエンス本部 エグゼクティブ エディター 上原 佳彦「コンテンツに編集力」という言葉の実現性
「Webサイトには、価値のあるコンテンツを作る編集力が必要」。この言葉は、かなり前から多くの有識者がメディアで発言されていますし、これまで現場でお客様から伺うことも多々ありました。Webに関する言葉は足が早く、すぐに陳腐化してしまうことが多いのですが、この言葉はいまだにさまざまな場面で耳にします。それだけ、編集を必要と考える方が多いということでしょう。もしくは、実際に取り組んでみたものの、思うような編集ができていないという方が多いということかもしれません。
ただ、思うような編集ができていない、と感じていらっしゃる方々の中には、思うような編集の仕方が分からない、というケースも多いのではないかと考えています。それは、私がはじめてこの言葉を聞いたとき、問題点と改善手段は見えているのに、「では実際にどうやるのか」という方法が多少ぼんやりしているように感じたからです。憶測で恐縮ですが、編集力を強化してコンテンツの付加価値を高めているケースは、まだまだ少ないのではないでしょうか。
そこで、私なりの編集方法を一部開示することで、何らかのヒントになればと考えました。編集という言葉がイメージさせる作業範囲は人それぞれである上に、実際の作業も業種や職場や個人によって異なるため、私のやり方がそのまま皆様のお役に立つかは分かりません。しかし、自分なりに「では実際にどうやるのか」の答えを探してきたつもりですので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
編集の軸となる3つの作業
私が考える編集方法の中には、軸となる3つの作業があります。
- Webサイトのコンテンツで、何を、どのように構成し、見せていくかを企画すること。ライターやカメラマンと、コンテンツのターゲットユーザーや公開の目的、簡単なページ構成や書いてほしい・撮ってほしい内容などを共有します。
- ユーザーに読みやすいと感じてもらうために、コンテンツの内容を精査すること。ライターが書いた原稿を確認して間違いを正すことはもちろん、情報の構成や話の流れなど、読みやすさを生む要素をしっかりチェックします。
- 最終的な完成イメージに沿って、コンテンツの内容を調整すること。Webサイトでいうところのワイヤーフレームに文章や写真を流し込み、文章と使用する写真や画像とのバランスを整えます。
これらの作業はどれも重要で、すべてに注力してはじめて編集が成立しています。いわば編集作業の三権分立、桃園の誓いです。時間や費用の制限、人為的なミスなどにより、どれか1つでも欠けてしまうと、編集後のコンテンツ品質は瓦解してしまうでしょう。軸をブレさせないことで、はじめて「実際にどうやるのか」の技術が活きてくると感じています。
特に原稿上で実践している3つの編集作業
次に、私が原稿上で実践している編集方法のうち、特に重要と思われる3つを紹介します。
- 削る・分ける私の目安として1文が100文字を超えると長すぎです。長文はそれだけで理解の妨げになりますし、ユーザーの読む気力を失わせます。余計な修飾語(節)がないかをチェックして、容赦なく削ります。また、1つの文章で2つのことを述べている場合は2文に分けて、100文字を超えないようにしています。
- 飾らず立てる見出しを立てるとき、つい見栄えの良い言葉で飾ってしまいがちです。しかし、これでは読み進めるうちに、ユーザーがイメージした内容と実際の内容との乖離にガッカリしてしまいかねません。見出しはその段落を端的に表現する言葉が最適です。私は段落内の言葉をあえて使用して、見出しを作るようにしています。
- 組み替える原稿には流れがあり、うまく流れていかない原稿は、そこでユーザーの目も止まってしまいます。起承転結、時系列、理論から実践、大規模から小規模など。コンテンツの性質に合わせて流れを決め、その流れに段落や文章群を組み替えていくことで、読み進めやすさが生まれます。場合によっては、Webの特性を考慮して総論や概要を先に書く必要があります。
実際の作業では、もう少し細かな作業も行っているのですが、あまり多く並べすぎても読みやすさを失いますので、ここでは割愛いたしました。ここまでに紹介した内容は、少しでも編集・ライティングの本や記事を読んだ方にとっては、目新しいポイントが少ないかもしれません。しかし、これは「コロンブスの卵」です。当たり前と思えることこそ、実践が難しいといえます。本コラムが知識と実践を結ぶきっかけとなれば幸いです。
編集のゴールはあくまでユーザー
編集作業の目的は、ユーザーです。「ユーザーにとって有益な情報」を提供できるコンテンツが「価値あるコンテンツ」となります。ユーザーの役に立つ情報や、ユーザーの感情に働きかける情報を提供できるコンテンツだけが、「価値ある」という評価を受けることができるのです。
編集を担当する方は、いつでもユーザー視点を持つ意識が必要です。Webサイトに来てほしいターゲットユーザー像、そのユーザーに何を提供するか、Webサイトでどんな行動をしてほしいかなど。コンテンツごとにターゲットとなるユーザーの状況・属性は異なります。そうしたユーザーのことを考え、ユーザーの立場で原稿を作ることが編集に一番欠かせない要素だといえるでしょう。
ちなみに、私はユーザーにとって読みやすい文章になっているかを確認するとき、いったんニュースサイトなどでまったく違う文章を読み、数分後に作った原稿を音読するようにしています。頭を執筆者から読者に切り替えること、声に出して読みリズムが悪い文章を見つけることが必要だと、以前付き人をしていた作家先生が教えてくれたからです。
今後はスマートデバイスによる閲覧が増え、ますます「編集力が必要」になると考えます。文字数の制約が比較的緩いとされてきたWebサイトの編集も、考え方を転換して、表現スペースが小さいスマートデバイスへの意識を強めなければ、すぐに置いていかれてしまうでしょう。こうした流れを踏まえ、「価値あるコンテンツ」をいつまでも生み出していけるよう、私はこれからも編集力の研鑽を続けたいと思います。
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