CSUN 2016参加報告
アクセシビリティ部 アクセシビリティ・エンジニア 上江洲 梓私は2015年の4月に新卒入社し、現在はJIS X 8341-3やWCAG 2.0などのガイドラインに沿ったアクセシビリティの診断業務を行っております。今回は、CSUN 2016に参加して感じたことやサンディエゴの街で発見したアクセシビリティ対応についてお伝えしたいと思います。
CSUNとは
今年で31回目の開催になる世界最大級のアクセシビリティの国際カンファレンスです。正式名称は31st Annual International Technology and Persons with Disabilities Conferenceですが、主催のCalifornia State University, Northridgeの略称から、CSUNと呼ばれています。
どれくらい大きなカンファレンスなのかというと、3日間で合計388セッションが、最大21部屋を使用して同時並行で開催されています。Webアクセシビリティに関するセッションだけでも150以上あるため、事前にどのセッションに参加するか確認する必要があります。
開催国のアメリカだけでなく、日本を含め、イギリスや中国など、世界各国の企業の方や研究者が発表を行っていました。当社からも過去に5回講演を行っており、今年は取締役社長の木達が株式会社インフォアクシア 代表取締役社長 植木 真 氏と共同講演を行いました。
Webアクセシビリティ検証に対する関心の高さ
検証結果レポートや検証ツールに関するセッションに参加される方が多く、注目が集まっていると感じました。中には満席になり、入場制限がかけられたものもあります。
Creating Accessibility Reports Designers & Developers Will Loveというセッションでは、開発者やデザイナー向けに提出する検証レポートのベストプラクティスについて紹介していました。問題の重要度を記述する列を設けることや、問題のあった個所のキャプチャを添付した方が問題を認知しやすいなど、より伝わりやすいレポートを作成するために必要なノウハウを知ることができました。また、紹介されていた検証レポートのデザインが洗練されていていたことも印象に残っています。
また、Automated Testing Tool Showdownというセッションでは、複数の検証ツールの比較を行っていました。無料であること、使い方が簡単であること、堅牢であること、ローカル解析できることという観点から、WAVE、Alnspector、aXe、Accessibility Developer Toolsを選択し、それぞれのツールの機能の特徴を話されていました。
アクセシビリティへの取り組みに対する情熱の違い
参加企業の熱量の違いに驚きました。アメリカではADAという、障害者差別を禁止する法律があるため、Webアクセシビリティについての専門部署やスタッフを抱えている企業が多数あることを知りました。例としてamazon.comの取り組みについてアクセシビリティBlogに記事を書きましたので、ご覧ください。
他に熱量の違いを感じた点は、聴講者が積極的に発言しているところです。基本的に発表の最後に質疑応答の時間が設けられているのですが、それにも関わらず、聴講者がわからないことがあったタイミングで発表中に当たり前のように質問していてとても驚いてしまいました。聴講者の中にも専門家が多く参加されていることもあり、質疑応答からさらに白熱した議論が繰り広げられているのを目の当たりにしました。
優しい街のデザイン
カンファレンスの合間にサンディエゴの街を散策すると、ショッピングモールや横断歩道など、一般の公共施設も様々なアクセシビリティ対策が施されていることを発見しました。
- 点字ブロック:
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日本発祥の点字ブロックは、街のあちこちで見かけました。主に点状ブロックが横断歩道や踏切の手前など危険な場所に配置されていました。「進む」を意味する線上のブロックをあまり見かけないところが日本との違いだと思います。
- 押しボタン式の信号機:
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押しボタン式信号機は、日本のものと比べてボタンの大きさがとても大きいことや、進行方向に向かって矢印の凹凸があるという点はとても親切だと思いました。アメリカは道が碁盤の目状になっているため、信号機からは横断できる方向の通りの名前が読み上げられていました。例えば、ウェスト・マーケットストリートの方向に横断可能なときは、信号機から「マーケット」と読み上げられます。
- 電動式の開き戸:
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ショッピングモールでは車いすの方にも優しい開き戸を発見しました。その開き戸は電動式になっており、扉の近くにあるボタンを押すことで扉を開くことができます。また、街のお店の扉のあちこちに車いすマークのステッカーが貼ってあり、「御用があればスタッフにお声かけください」という言葉が添えられていたのが印象に残っています。
- デジタルサイネージ:
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デジタルサイネージは車いすの方でも操作しやすいように画面の最下層に操作ボタンが配置されていました。また、車いすマークのボタンを押すことで、画面に表示されている文字が座った時の目線の高さまで下がるような工夫がされていました。
アメリカを訪れた後の心境の変化
新卒入社1年目の社員であることや、自分の備えているWebアクセシビリティの知識・語学スキルを考えると、難しい挑戦であったと思います。現地で最先端の技術や熱意に触れたことにより、私の心境は大きく変化しました。今までは、自分自身が海外でアクセシビリティを学ぶ姿は想像もつきませんでしたが、将来は、海外の専門家の方々と交流を深めることができる技術者へと成長したいと考えるようになりました。
CSUN 2016 参加報告セミナーのご案内
今年もCSUN参加報告セミナーが開催されます。セミナーの前半は、植木氏と木達による共同講演を日本語にて再演します。後半は、現地で見聞きした中から興味深かったセッションや展示を紹介し、アクセシビリティのトレンドをお伝えします。
現在、お申し込みを受け付けておりますが、定員に達し次第お申し込みを締め切らせていただきますのでご了承ください。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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